96. 証拠 天正12年3月(1584年)
札幌移転を前に大忙しだ。突然私が居なくなると言うのだから、研究者やら役人やらが毎日今後の方針について相談に来る。行列のできる相談所の出現だ。
いや、前からあったな。あったけど、ここまで行列は長くなかった。駆け込み需要って奴だな。
そんな最中に南蛮人、じゃなくて西洋人が連合本部に公式訪問してきた。総長と次席副総長、渉外奉行、渉外方役人達と 揃って面会だ。
「一昨年、本国で暦が改訂されました。とても良くできた暦です。ぜひ、日の本でもお使いになるとよろしいでしょう」
慇懃無礼な態度と言葉で用件を伝えてきた。が、この際態度はどうでもいい。
待ちに待ったグレゴリオ暦の伝来だ。
「暦については我らも考えていたところです。良い暦ならば我らも採用しましょう。良いか悪いかは我らが確認いたす。
これを天文台に渡して検証させよ」
受け取った資料をまるごと役人に渡す。
ちゃんと科学的に根拠があって受け入れました、っていうテイは作っておかないと将来に禍根を残すことになる。
日本はすぐに言いなりになる、なんて印象は与えてはならない。逆に頑迷という印象も与えたくない。理屈が通る相手だということを分からせておく必要がある。
アジア人は家畜と同じだと思ってるような奴らだからな。ちゃんと人間として認めさせなければならない。そのためには芝居も重要だ。
「朝廷に言わずとも良いのか?」
面会が終わっていつもの3人になると頭巾をとった天海が聞いてきた。
「今日、この日を待っていたのだ。そこは事前に決めてある。
当面、新しい暦は連合の役所と学校、各産業だけで使う。朝廷をないがしろにしていないという体裁を保つために、朝廷が定めた暦も併記することにする。慣れないうちは面倒だが、いずれ自然に新しい暦だけ残るだろう」
事前の取り決め通り、方針を父上が説明する。
そんなものかねぇ? って顔で聞いている天海。
世の中は変わるんだよ。前世で見たから知ってるよ。
むしろ前世では政府が頑なに元号を使い続けていた。世間は西暦だけで良いと思ってるのにな。その反面、昭和、平成、令和と時代や世代の区切りとしてはよく使われていたが。
「検証にはそれなりに時間が掛かるでしょう。結論が出るのは早くても今年の秋ぐらいですね。
次回総会で協議する形をとって、翌年、えぇっと・・・1586年1月1日から採用しましょう。
天正13年の連合総会は1月と、12月頃の2回開催になるでしょうね。つまり、来年は連合の業務上短い年になります」
「であるか」
3人の時はその口癖が出ちゃうのね。他所で使ってないでしょうね?
「ついでに『年齢の唱え方に関する法律』を定めて数え年から満年齢に切り替えましょう。既に戸籍には生年月日を記載していますが、新暦の日付も併記させて、年齢は新暦で数えさせます」
「そうだね。計画通りに頼む」
「いえいえ、私、居なくなっちゃうんで、そこは総長と次席副総長にお願いします」
顔を見合わせる2人。
「なんか、面倒くさいこと押しつけて逃げてない?」
「滅相もございません・・・あ!」
「? 何?」
「渉外繋がりで、そろそろ沖縄と台湾に使者を・・・」
「あ、それか。そうだね。島津の琉球攻めの前に友好関係を築いて、防衛を協力する形で連合に加盟してもらう計画だったね」
「ほう。島津は琉球を攻めるのか?」
「天下が決まっちゃうとね、大きくなるためには天下の外に行くしかない」
「であるか」
「よし、そっちは俺の方でやっておくよ」
「よしなに」
「ところで、信雄が暴れて居るらしいな?」
「知らん!」
家老を切腹させたり、秀吉に追討されたり、前世と同じように暴走しているとの報告が入っている。もちろん天海も聞いているはずだが、呆れてものが言えないってところか。
信忠が生きていればこんなことにはならなかっただろうにな。
「アレか? 次男、三男が優秀すぎると謀反が起こるかもしれんから、敢えて阿呆に育てたか? お前も弟には苦しめられたって聞いてるぞ」
「ふん!」
ちょっと意地悪が過ぎたかな。
出立前に一之宮にご挨拶に行く。今も変わらずご神託を悪用させて頂いている。何となく許可をもらえたような気もするが、後ろめたさは変わらない。
「辰。今しばらく2人で」
宮司殿に祝詞を上げて頂いた正式参拝の後、退場を前に辰に頼んだ。
宮司殿は何も言わずに我らを残して退場された。何となく分かっておられるようだ。
「姫様がおいでになりました」
辰の説明を聞いて手をついて深く頭を下げる。見えないし聞こえないが、確かに正面に誰かの気配を感じる。
「『何か相談事か』とお尋ねです」
意を決して相談する。
「数年先になりますが、西日本を併合いたします。その際の朝廷の扱いについてご意見があれば承りたく・・・」
辰が姫様と語り合っているようだ。
「『好きにしてよい』とのことにございます」
「天子様は天照様の御子孫に当たられる方。誠によろしいので?」
「『血はだいぶ薄れた。今では中臣転じて藤原の血の方が濃い。彼奴らはわらわの存在を消した者。気にせずとも良い』とのことにございます」
なるほど。藤原氏には思い入れはないようだな・・・! 『消した』だと!?
「消したとは如何なることにございましょうか?」
「『記紀編纂の折、彼奴らは自らに都合良く神話を改竄した。そのとき、私は謎の神にされてしまった』とのことにございます」
「なるほど。それは不遜なる行い。さらには正当性が疑われます。そこは強く追求しましょう。
して、その証拠はございますでしょうか?」
「『アワを調べよ』とのことにございます」
泡? 安房? あ、阿波か!
「アレですな!? 邪馬台国=阿波説!」
辰が困惑している。姫様との話が少し長い。
「『ヤマタイが何のことやら』と仰せですが、『阿波はかつてヤマトという地名であった』そうにございます」
「なんと! その説は前世で聞いたことがあります。なるほど、450年後と違い、今ならば資料はまだたくさん残っておりましょう。直ちに学術調査をいたします。ありがたき幸せ」
手をつき、深々と頭を下げてお礼を申し上げる。
「ところで、中臣鎌足とは何者でございましょうか? ご存じならばお教え頂きたく」
「姫様はお帰りになりました。大層ご機嫌がよろしかったですよ」
「あ、そうか」
頭を下げすぎてお別れの挨拶と勘違いされてしまったか。まあ仕方が無い。次の機会に伺おう。
「ところでくう姫様、前世って・・・?」
「あ、あぁ。そうだな」
辰に秘密にしていても仕方が無い。ざっくりと説明する。父上と長安のことは内緒だが。
「そうだったのですね。だから幼少の頃から学問がおできになったのですね」
納得してくれた。
「どなたかに呼ばれたのかも知れん。前世の日本はどんどん悪い方向に向かっていた。人々の心が荒れてしまったからな。あそこから立て直すのは至難の業だな。
そこで、根本的に方向転換させるために私がここに呼ばれたのかも知れん。姫様かな?」
「いえ、姫様は詳しいことをご存じないようでしたよ。ただくう姫様に自然に接しておられるので、大まかな事情はご存じなのかも知れません」
「そうか。ではわざわざココに勧進して頂くことになった天上春命様か、あるいはもっと上の・・・」
考えても仕方が無い。相手は時空を遡ることができる5次元以上の高い次元に居られる方だ。こっちは3次元空間に時間を合わせても4次元、大いなる意思の手のひらの上で踊るだけだ。
邪馬台国=阿波説は2010年代から注目していましたが、2025年の昨今盛んに情報発信されています。
そもそも魏志倭人伝では邪馬壹国と記されており、台の字が使われている理由が分かりません。大和朝廷が発祥地を阿波から大和に改竄したので、過去の改竄がばれないように明治になって朝廷が学者に圧力を掛け、壹→台に改竄して分かりにくくしているのではないかと疑っています。
なお、邪馬壹国を中国語読みをカタカナ表記するとジャバイツコクな感じです。ホントに大和国のオンを中国語に当てはめた表記なのか?




