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6. 決心 永禄12年9月(1569年)

 祖父の話を聞いてから一ヶ月。これまでに手に入れた情報の整理を続けている。


 一つ、当家の家名は里見である

 一つ、里見は新田氏の傍流の清和源氏である

 一つ、母方は竹林家で里見の一族である

 一つ、父方の祖父は関東管領山内上杉家の無理な戦で武田に討ち取られた


 祖父の言う山内家とは関東管領で間違いないだろう。


 一つ、里見の本領は上野の南西部、碓氷峠の東側である


 小田井原がどこなのか知らないが、碓氷峠を挟んでいるってことは前世でいう軽井沢かその向こうぐらいだろう。で、こっちが里見領か。釜飯とかスイッチバックで有名な横山の辺りだろうか。


 一つ、父上は2歳で家督を継いだ

 一つ、父上は2歳で詳細な地図を持っていた

 一つ、父上は2歳で軍略と椎茸栽培や正条植えの知識を持っていた


 決定だな。転生者は父上だ。

 数えで2歳の子供に入れ知恵をしたところで上手く立ち回ることなどできない。だが、本人が転生者ならば2歳でも的確な発言ができるだろう。私だって今すぐ大人として発言することはできるからな。


 一つ、扇谷上杉家は河越夜戦で滅亡した


 河越夜戦は関東戦国史の一大決戦だったと思う。が、関東自体が戦国史の本流から外れているから詳しいことは知らない。司馬作品にもなかったよな。ラノベは1つぐらいあった気がするが・・・

 確かあれで勢いを付けた北条が関東の支配者になるはずだ。で、逐われた関東管領の上杉なんとかが越後に逃げて、長尾景虎に助けを求めて、越後在住の関東管領上杉謙信に繋がっていくはずだ。


 関東管領だからな、謙信は度々関東に出兵して小田原城を囲んだりしたんだよな。でも田植えの時期になると越後に帰っちゃうからまた北条がのさばる。シーソーゲームだな・・・ちょっと違うか?

 謙信は冬になると関東に来たという。冬将軍とは謙信のことか、って思ったが、何のことはない。あいつは雪が嫌いなんだろうな。雪国のドンヨリした空の下、屋敷に籠もってにいると気が滅入るから、晴れ上がった関東に来て暴れ回っていたんじゃないのかな。


 話を戻そう。


 一つ、竹林の祖父は父上に心酔して後見人になった

 一つ、父上は頼ってくるものに惜しまずに知識を与えている

 一つ、父上は国衆や元上杉家家臣から信頼されている


 この辺はラノベあるあるからちょっとずれるな。大概のラノベは未来知識を占有して出し惜しみするものだ。椎茸や石けん、清酒の生産量が増えると値が下がるからな。父上は何を考えているのだろう?


 一つ、父上の勢力は拡大し、一旦北条についた上杉家家臣や国衆が父上の元に集結、北条は勢力を低下させている


 土着の関東武士は北条が嫌いだというからな。北条と呼ばずに伊勢と呼ぶ者も少なくないって本で読んだことがある。


 そもそも鎌倉幕府の執権北条氏は伊豆の出だよな。伊豆って関東じゃないよな。しかも蛭ヶ小島って駿河湾沿い、箱根の山の向こうだろ。フィリピン海プレートだし、仲間意識は薄いよな・・・プレートは関係ないな。

 その北条が同僚の関東武士を差し置いて実権を握っていたんだから、鎌倉時代から嫌われていたんじゃないのか?


 そして都から来た伊勢宗瑞の子が勝手に北条を名乗ったって、なにそれ? ってなるよな。力があるうちは嫌々従うかも知れないが、土着の関東勢力が伸びてきたらそっちに鞍替えしたくなるよな。

 そうやって父上は味方を増やしたんだな。


 一つ、父上は神仏の生まれ変わりだと思われている

 一つ、父上の子供も神仏の生まれ変わりであるようにと期待されている


 うーん。最後の一つがな、利用できそうな気もするが、足かせになりそうな気もするな。


 父上が転生者であることは間違いない。そういう目で見ると、私や姉、兄、母上に対する態度はこの時代の人ではなく、私の前世、平成や令和の心優しい父親のようにも見える。実際、優しい人なのではないだろうか。

 しかし、まさか自分の子供も転生者だとは思っていないだろうな。もし私が転生者だと知ったらどうするだろうか? 温かく迎え入れてくれるだろうか。邪魔者扱いされることはないだろうか。実子なんだからいきなり殺すなんてことは無いと願いたい。




 それはさておき、私は転生者としてこの世界で何をすべきなのだろうか?


 前世で読んだラノベの転生者達は迷わずに天下取りに行くよな。そうでなけりゃ話が成り立たないからだけど。

 私の場合、転生者としてこの世界でやりたいことは特にない。何かをしたくて自分から転生したわけでもないからな。どの作品でも同じか・・・


 転生者だからといって何かをなさなければならないということはないだろう。義務はない。誰からも監視されていない。どう生きるかは私の自由だ。

 この時代の一女性として生きてみるか・・・


 無理だ。前世が女性で昭和の中頃に死んでいればそれも受け入れられたかも知れない。だが、令和まで生きてしまった。男として。因習やしきたりに縛り付けられた戦国時代の女性として生きることなどできるはずがない。

 だいたい、この時代は風呂が普及していない。臭いおっさんに抱かれるなんて想像しただけで鳥肌が立つ。とは言え、この体で女性を愛するのも問題だ。


 女性解放運動でもするか・・・どうやって? まったく方法が思い浮かばん・・・


 よし、今世では一生独身でいよう! 前世で家庭を持ったからな。最後は一人暮らしだったが、時々離れて暮らす孫に会ったりして寂しくはなかった。一般に、この時代は親戚縁者がたくさん居るから大丈夫だろう。


 しかしだ、母上や親族達は嫁に行けと言うに決まっているな。里見と懇意になりたいと考えている国衆や元上杉家家臣もいるだろう。ひょっとすると既に嫁入りの話が出ているかも知れんぞ。正月には姉上に対して花嫁修業の話をしていたしな。

 積極的に防衛策を講じる必要がありそうだ。出家すれば良いのか? 理由が必要だな。


 やはり父上に告白しよう。父上が協力を求めてきたら応じる。忙しくなるだろうが、嫁に行かなくて済むかも知れない。

 邪魔だと言われたら出家して仏門に入れてもらおう。禅宗が良いな。前世で座禅に挑戦したがうまくできなかった。尼寺を建立してもらってハーレムで悟りを目指す。うん、そうしよう!


 いや、待てよ。もし、父上が良からぬことを考えていたりしたら・・・ 父上の前世が隣国の人で、今から日本を属国にしてしまえ・・・なんてこと考えていたら・・・ やはり命をかけて阻止するべきか?


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