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天下統一だけじゃない! 近代への永い道 ~父子で開拓! 平和で希望に満ちた明るい未来~  作者: 浅間 数馬


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54. 種 天正2年6月(1574年)

「内海で南蛮船が沈みました」


 連合からの報告だ。内海というのは東京湾のことだな。


「この季節だ。台風か何かで破損していて神奈川湊を前に力尽きたか?」

「いえ。助かった者の話では鯨にぶつかったとか」


 あぁ。鯨って、暇つぶしに船を突っついたりするんだよな。子供が虫を突っつくようなものだ。大小関係はいかんともしがたい。

 そう言えば、前世でもジャーナリストがヨットで太平洋単独横断するって出て行って、早々に海自に救助された事故があったな。あれも鯨に弄ばれてしまったとか。


「被害は?」

「岸の近くまで来られましたので、乗組員は全員無事です。積み荷がすべて沈みました」


「岸の近くならば何とか引き上げられんかなぁ?」

「それはなんとも」




 乗組員は神奈川湊と府中の洋館に逗留することになった。ちょっと容量オーバー気味らしいが、何とかなるだろう。台風シーズンが終わったら少人数ずつ堺の商館に送り届けてやることになった。

 陸路だと武田領を通らなければならないからな。昨年以来、民間人は多少往来しているようだが、連合の役人や関係者は通れない。まあ、それも長篠までの辛抱だ。


 連合は新型帆船を持っている。ポルトガル人から売ってくれと頼まれたが断った。

 売るとこっちの技術がポルトガル・スペインに流れてしまうからだ。スペイン無敵艦隊がイギリスに勝っちゃったりすると長安が可哀想、って言うか将来の世界平和達成の支障になりかねないからだ。


 沈んだ荷物には2年半前に頼んだとうもろこしとゴムが積まれていた。なんと東南アジアではなく、南米から運んできたそうだ。やっと来たと思ったらこれだ。ついてない。

 コーヒーと香辛料はまだ入ってこない。私もまだ子供だからもう少し先でも良いのだがな。


「もろこしは諦めよう。ゴムは引き上げれば使えるのではないかな?」

「白い汁を樽に詰めてしっかり栓をしたそうです」


 液状のまま持ち込んだのか。シート状にしてもらいたかったのだが・・・ 製法知らないのかな?

 取りあえず引き上げさせることにした。使えるようなら南蛮商人に代金を払ってやろう。引き上げ賃と品質低下分を差し引いて。




 引き上げた樽が学校に届けられた。数はわずか23。他は荷室から流れ出してしまったり、破損していたり、壊れた船体が邪魔で取り出せなかったそうだ。素潜りだからな。無理させることはできない。

 ああ、潜水技術も開発するべきか・・・保留!


 厳重に栓をしてある。引き上げたときにも中身を確認していないようだ。


 助手に命じて栓を開けてみる。


「もろこしじゃないか!」


 乾燥したトウモロコシが芯に付いたままぎっしり入っていた。皮は剥いてある。濡れてはいない。

 ちょっと赤みがかかってる。アンデスの原種そのものか?


「これは作物ですか?」


 見物していた比較的暇な留蔵助教だ。


「うん。食べられる。だが、種になりそうだ」

「育てるのですか?」


「痩せた土地でもよく育つ。武蔵野のような土地に合っているのだ。

 そうは言っても、まずは食べてみるか。熱湯で10分ぐらい茹でてくれ」


 留蔵助教に1本渡す。


「他の樽はどうだ?」


 助手達が次々に栓を開ける。


「白い液体が入っています」


 ゴムの樹液、ラテックスだ。


「誰か、どんぶりと酢を持ってきてくれ」

「す、と言うと酸っぱい酢ですか?」

「その酢だ。壺で持ってきてくれ。あと、柄杓と匙を4,5本ずつな」


 待っている間に他の助手が樽を全部調べた。もろこしが14樽、ラテックスが9樽だった。まずまずか。

 よくよく見ると見分けがつくように樽に印が着いてた。そりゃそうだな。


 道具が揃った。


「実験を開始する。私も初めてのことであるから失敗するかも知れん。

 記録係、後で見返すので経過時間と色や形状の変化を余さず記録するように」


「もろこしが茹だりました」

「留蔵助教! ・・・仕方が無い。ゴムの実験は後だ。まずはもろこしを食おう」


 皆嬉しそうだ。


「毒味はしなくてよろしいので?」


 助手が1人確認してきた。そうだな。食中毒になる可能性はあるな。カビとか生えてるかも知れないし。


「そうだな。良いところに気がついたな。

 よし、留蔵助教と君の2人で食べてくれ。私と残りの者は2,3時間後に2人に異常がなければ食べよう」

「「えぇ!?!?!?」」


 留蔵と確認してきた助手がうろたえている。仕方が無いだろう。私は子供だ。腹を壊すと死ぬかもしれん。

 これってパワハラだろうか? ずっと黙って見ていた長安が声を殺して笑ってる。ま、良いよね。


「半分に割って2人で分けよ。芯の部分は食えん。指でつぶを摘み取って食べてみよ」


 2人が恐る恐る口に入れる・・・探っている表情。味がわからないか?


「5,6つぶまとめて食べてみよ」


 2人が言われたとおりに口にする。恐怖心はもうないようだ。


「ふん。美味いものではありませんが、不味くもないです。食えますな」


 そっか。スイートコーンとかじゃないから甘みが弱いかな。やっぱ原種に近い品種なんだろうな。


「よし。その残りは2人で食べてしまえ。

 では、ゴムの実験を始める」


 柄杓でどんぶりにラテックスを入れる。

 壺から匙で少しずつ酢を入れてかき混ぜる。


「固まっています!」


 少しずつラテックスが固まってきた。どの程度酢を入れれば良いのか?


 しばらく続けると透明な上澄みと白い半固まりに分離した。ゴムはすべて固まったようだ。

 長安をチラッと見ると頷いた。同感らしい。


 上澄みを捨てて触ってみるとブヨブヨしている。ゴムと言うよりは硬いプリンのような・・・


「このまま乾かす」

「いえ、校長。Sheet にするべきかと」


 皆が一斉に長安を見る。なんて言ったの? って顔に書いてあるな。長安、そこはこの時代の日本語で板とか反物とかいろいろ表現あるだろ?

 とにかく誤魔化さなければ。


「う、うん。誰か、まな板のような板とのし棒を持ってきてくれ」


 皆が私を見る。Sheet の意味が分かったの? って顔に書いてある。無視だ、無視。力業で押し通す。


 板とのし棒が来たのでどんぶりの中身を板の上に移してのし棒で延ばす。のし棒にイッパイくっついてくるよ。何か工夫が必要だな。

 さらしのようなシートになった。ウェットな感じだ。あれに似てる。孫と一緒に作ったスライム。


 隅を持って持ち上げてもちぎれる気配はない。竿にかけて干せる感じだ。


「よし、明日まで干してみよう。誰か、竿にかけておいてくれ。折り返した部分が貼り付かないように、2本の竿にまたがらせて間隔とってな。日陰だぞ。日に当たらないようにな」




 3時間後。皆でトウモロコシを茹でて食べた。2人が腹を壊さなかったからだ。勿体ないので1/3ずつにした。

 美味くない。茹でて食べるなら乾燥させる前の生でないとダメだよな。やっぱり。

 でも、乾燥させないと保存できない。

 小声で長安に耳打ちする。


『粉にしてパンにした方が良いかな?』

『tortilla とか Potage soup も良いと思います。・・・分かりますか?」

『ポタージュスープは好きだぞ。インスタントのコーンポタージュはよく飲んだな。トルティーヤは聞いたことがあるが、どんなものだったかなぁ?』


「よし。もろこしの料理方法は長安に考えてもらう」

「「「えぇ?」」」


 なんで? って顔に書いてあるな。皆揃って。ここはごり押しだ。


「残りは種にする。1房使って私が試験栽培する」


 前世で子どのもの頃、実家でトウモロコシを栽培していた。散々手伝ったから大丈夫だと思う。

 今夜一晩、水に浸けておこう。芽が出やすくなるはずだ。明日植えれば秋までに収穫できるだろう・・・

 知らない品種だからちょっと不安だが。




 翌日、校庭の一角を耕してトウモロコシを直に植えた。季節的にはギリギリだ。収穫できなくても成長を確認できれば良いだろう。


 長安がトルティーヤを作ってくれた。あ、タコスの皮の柔らかい奴か。簡単にできるのだな。

 獅子肉の味噌炒めとシソ、ネギを挟んで食べたら美味かった。スダチを搾ってかけるとこれも美味い。これならすぐに普及しそうだ。ああ、でもタバスコが欲しいな。




 ゴムシートは水分がなかなか抜けなかった。結局1週間干した。

 1週間後。完成したゴムシートを確認すると、内部に少なくないゴミが含まれていた。固める前、液状の時にゴミを取り除く必要があるな。

 あとは適当な形に切ってプレスすればできあがるはずだ。


 そんなわけで南蛮人商人には割り増しで報酬を支払った。ラテックスを追加注文したら大喜びだったな。

 ついでにゴムの木を東南アジアで栽培するようにアドバイスした。プランテーションができたあとに侵略して略奪しよう・・・ 違った。世界平和が目的だった。ちゃんと買わなきゃ。




 コンデンサの試作品が完成した。早速電気回路を作って実験する。電流計と並列にコンデンサを入れると、脈流の針の振れ幅が減っている。平滑化できているようだ。

 絶縁体の選定をさせていたが、見つかった絶縁体を電極で挟んで同様な効果が出るかどうか確認するように指示を出した。誘電体によっていろいろなコンデンサができるはずだ。用途、容量に合わせて多彩なコンデンサができると良いな。




 ニッケルとクロムの鉱石サンプルが手に入った。領内の鉱山を中心に、長安を通して山の民--情報本部の外部エージェント--に鉱脈を探してもらっている。


 そうそう、外交戦略は私の素案通りになった。あの時、父上は興奮していたが、それほど悪い案ではないし、長安が協力してくれやすいものだと理解してくれたのだ。


 しかしながら、イギリスとの外交はウイリアム・アダムスの漂着まで待つことになった。イギリスの船を探してこちらから出ていくことはまだできない。まだ水軍衆には小笠原諸島を探索しながら航海術を磨いてもらっているところだからな。

 彼はいつ来るんだろう? 関ヶ原の合戦前には家康の近くに居たみたいだから、25年以内だと思うが・・・ 結構先だな。

 その前に天下を統一してスペイン・ポルトガルと一戦やっておくか。


天然ゴムの製法はあやふやです。酢で固まるかどうか未確認です。突っ込まないでください。m(__)m


トウモロコシの品種は想像です。


コンデンサも自分で作ったことがないので・・・


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