39. 卒業 元亀3年12月(1572年)
「『卒業証書 加藤信景 右の者は関東学校の教育課程を修了したことを証する 元亀3年12月 関東学校校長 里見くう』 おめでとう」
体育館の壇上で卒業生1人ずつに卒業証書を手渡す。首席の加藤学生には全文読む。2人目からは『以下同文』だが、卒業生は感無量だ。
来賓は入学式と同じような面々だ。列席している1年生は羨ましそうに見ている。
「諸君は前人未踏の学問に挑み、見事に習得した。この2年間、言語に絶する苦しさがあったであろう。それを乗り越えてよくやった。見事である。
来年からは世に出る。学校で学んだことを世の中に活かせ。
ただし、無理強いはいかん。論理的に丁寧に説明して相手が納得してから新しい方法を導入せよ。
どうしても相手が納得しなければ一旦引け。数年待てば後輩達がやってくる。後輩達と力を合わせて世の中を改めていけ。
ところで、諸君は学問のすべてを学んだわけではない。学問はもっと広いものである。また、諸君の学んだ学問が未来永劫通じるものでもない。学問は改まることもある。
故に卒業後も学ぶことを続けよ。学校からも書物を送る。卒業生同士交流して知見を広めよ。時には学校に来て授業を聴講しても良い。
卒業は一つの区切りであるが、学問の終わりではない。今後も精進せよ」
訓示ってガラじゃないんだよな。こんな感じで良いかなぁ。
想定外だったのは留年生が9名も出てしまったことだ。やっぱ最後は詰め込みすぎたかもしれない・・・
まあ、悔やんでも仕方が無い。来年の授業を改善しよう。留年生ももう一回やれば相当理解するんじゃないの?
1年生の終業式も終わって学校は一休み。連合の仕事も一休みだが、神社が稼ぎ時だ。間もなく満5歳だ。体も少しは動く。掃除ぐらいは手伝わなければならない。まったく休みがない。
そんな年の瀬に一報が入った。三方ヶ原の戦いだ。
「徳川は討って出て大負けし、城に戻って籠城しているとのことです。武田はこれを囲んでそのまま年を越すようです」
双方ともにご苦労なことだ。
早速年末休暇に入っていた印刷職人達を呼び戻して速報を印刷させることになった。今月は連合総会用資料の印刷で結構忙しかったのにな。やっと休みだと思ったら良いとばっちりだな。
そろそろ学校と連合で印刷所を分けるか。
「「「お帰りなさいませ」」」
父上が帰ってきた。実家で家族みんなで迎える。
西関東各地で軍事訓練をしながら武田を牽制した後は、東関東の各地で軍事訓練をやっていた。
軍制改革では武士達の意識を入れ替えて軍人にしなければならないからな、文書の発給だけでは無理だ。実際に演習を行って体で教える必要がある。
家族団らんが終わった夜更け。父上の部屋で密談だ。
幼児に深夜の密談させるなんて毒親だな。眠いが話も気になる。
「白色火薬ができた。小銃も一応作れた。量産化の準備と訓練方法の確立をやっている」
試作品を見せてもらった。銃身の半分を木で覆っている。銃床もある。見覚えのある形だ。もちろん映像で。
「三八式歩兵銃に似ていますね」
「うん。明治から昭和の村田銃と有坂銃をベースに安全性を配慮した」
何言ってるか解らんが、眠いので話が長引かないようにスルーする。
手に持ってみる。でかい。ずっしり重い。とてもではないが、5歳児に扱えるものではない。
銃口を覗いてみるとライフリングがなかった。
「よく見てくれ。真円ではないだろ?」
確かに。よく見ると緩やかな六角形だ。
「ポリゴナルライフリングというんだ。普通のライフリングと比べると性能は今ひとつだが、まだ工作技術が不十分だから今はこれが精一杯だ」
全然知らなかった。やっぱプロだな。
父上に操作を説明してもらった。
「弾は弾倉に8発込められる。ボルトアクション方式と言って、手で遊底を操作して弾を入れ替えるんだ。慣れれば2、3秒で2発目を撃てるようになる。
銃剣も付けられる。銃剣術も一通り教える。
将来的には擲弾器も追加する予定だ」
「それはすごい。火縄銃など敵ではありませんな」
「そうだね。ようやくボーガン卒業だ」
これまで連合防衛軍はラノベでよく使われるボーガンを採用して接近戦を避けてきた。しかし、射程距離の短さもあって接近戦になることもしばしばだったらしい。他にも問題はたくさんあったようだ。
「ところがね、量産が進まない。火縄銃に比べて加工が難しいからね。鉄砲鍛冶の腕は良いけど生産性が低い。なかなか装備が進まない」
「工作機械をなんとかしなければなりませんな」
父上がジッと私を見ている・・・
「モーターができれば産業革命ができるでしょうね。やっと磁石が作れるようになりました。電線が作れれば発電機も作れます。スイッチ類も簡単に作れます。
ですが、電圧計、電流計などの測定機器や、ヒューズなどの安全装置がないと火災を起こしてしまいます。
もう数年お待ちください」
「やっぱり一時的にでも蒸気機関を作るって言うのはどう?」
「燃料問題が再発しますよ」
「炭鉱が見つかった。これから奥州に行けばもっと手に入る」
「蒸気機関を作るのは比較的簡単ですが、圧力計と高温の温度計を作らなければなりません。
また爆発事故が起きたら反対勢力が勢いづきますぞ」
「・・・」
連合内に反対勢力は居る。豊かになることで押さえ込んでいるが、変わりたくないという連中はたくさん居るんだ。
事故は反対勢力を勢いづかせる口実になる。職人達も失いたくない。
「安全第一。急いではなりません」
「・・・うん。仕方が無いね。引き続きよろしく頼むよ」
背に腹はかえられないのだ。
「ところで・・・ 武田ですが、信玄が死んだ後、信長に滅ぼされるまで数年かかりますよね。その間のことをご存じですか?」
「そこがね、全然知らない。くうも知らないのか?」
「そこは歴史の支流ですからね。小説とかでもあまり取り上げられていないし・・・
おそらく、勝頼が家中をまとめると思います。長篠合戦をやるはずですから、一旦は家中がまとまるのでしょう」
「・・・そうだね。やっぱり以前決めた方針通り、西は信長と秀吉に任せよう。小田原攻めに来たら返り討ちして一気に天下統一だ!」
村田銃:明治初期の国産銃。3種類ある。改造された騎銃、猟銃もある。村田経芳が開発したのでこの名で総称されている。
有坂銃:1897~1945年まで製造された一連の小銃。村田の後輩の有坂成章によって開発されたのでこの名で総称されている。三八式歩兵銃はこの一種。
参考:Wikipedia




