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天下統一だけじゃない! 近代への永い道 ~父子で開拓! 平和で希望に満ちた明るい未来~  作者: 浅間 数馬


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11. 方針 永禄12年11月(1569年)

 先日、屋敷が騒がしいなと思ったら、大工と左官が来ていたようだ。何事かと思ったら普段家族で食事する居間に掘りごたつを作ってくれた。父上が出先から手配してくれたのだ。

 床下には火鉢が置いてある。その上にやけど防止に鉄の網が乗っかっている。網も十分熱そうだが。

 こたつ布団に綿が入っていないので保温性が低いが、火鉢にあたるよりはずっと暖かい。これに母上と乳母と私が1日中入っているわけだ。母上と乳母は主従関係というよりも友人関係に近いようだ。他に人がいないときは気楽に話をしている。

 ちなみに姉と兄は手習いとかで追い出されている。


 他にも厚手の布が送られてきた。綿なしだが重ねて敷いたり掛けたりして布団として利用する。多少は保温性が上がった。

 そして湯たんぽだ。陶器でできている。蓋はよくわからんが、木の栓と油紙のようなものを被せてある感じだ。

 湯たんぽも保温性がイマイチなので、夜中と明け方に侍女が交換してくれる。ありがたいことだ。これでこの冬は凍死だけは免れそうだ。




 父上が出かけられて20日ぐらい。カレンダーがないから、あれから何日経ったのかはっきりしない。おまけに幼児だから1日に何度も昼寝をする。こたつがあるから余計に眠い。時間感覚がまるでない。やはり時計が必要だな。カレンダーも作らねば。


 振り子の等時性は16世紀にガリレオが発見したからな。同じ時期に日本でも発見されていたっていうのはアリだろう。


 そうだ。時計の前にもっと根本的な方針を考えるべきだな。翔はどんどん歴史を変えているが、それほど飛躍した話ではない。自然にたどり得る選択肢の一つに過ぎない・・・と思う。

 だが、私が介入するとおかしなことになる。時計は同時並行的だから大したことはないが、電話も無線通信機も発明されたのは1800年代後半だ。300年も先取りすると何か問題が起きないだろうか?

 後世の歴史学者、特にヨーロッパの学者が何かおかしいと騒ぐのではないだろうか? 知識や技術の出所がすべて私で、しかもそれ以前からの連続性が見られない。一体全体、クーという女は何者なのか? ってな。


 それにしてもなんで名前がクーなんだ? 翔が帰ってきたら聞かなければな。


 えーっと、思考が発散するな。脳が幼いせいだろうか?


 後世のことなど気にする必要性はないのかもしれない。どうせこの世界は前世とははっきり分かれている。できることをどんどんやっていいのかもしれない。

 もし、SFでいう歴史の修復力があるとしたら、里見と徳川で天下分け目の大戦をやって徳川が勝つだろう。そのとき、私が作った時計や電話は闇に葬られてしまうのかもしれないな。それで、消えきらない記録がオーパーツとして後世でマニアのおもちゃになる。そんなところか。


 よし、後世のことは気にせずにやれるだけやろう!


 とはいえ、技術者の育成は必要だな。すべて私が作って与えるよりも、大勢の技術者が切磋琢磨して同時並行的に広い範囲の技術と産業が発展していく。そのきっかけが私だ。

 そういうストーリーの方が技術と産業の発展が持続すると思う。そうなれば私の死後も、日本は欧米と対等に付き合っていくことができるだろう。


 まだ産まれたばかりなのにもう死後のことを考えてるよ。中身は老人だな。


 そうだな、この世界線の20世紀が平和であるように方向付けたいな。日本が欧米と対等になっていれば、少なくとも東アジアにおける人種差別や欧米による植民地支配は軽減される可能性がある。

 とはいえ、米帝との対立は避けられないかもしれない・・・あれは恐ろしい国だからな・・・対米戦争、少なくとも自滅的な戦争は回避させたいな。


 戦争の悲惨さというものは嫌というほど教えられた。自分より年上の人たちは全員経験者だからな。

 とはいえ、彼らの話を客観的に分析すると、戦争が悲惨だと言うよりは、当時の日本軍と日本政府、日本人の考え方、やり方が悲惨だった、という内容だ。ああは成りたくないよな。


 ま、そんな遠い未来、まだ存在しない国を気にしても仕方がない。とりあえず豊かで平和になりますように、真面目に考えて真面目に行動できるようになりますように、と願いを込めて発展させていけば良いな。この先ずっと、高度成長期のようにすべての国民に希望を持たせたい。今は貧しくてもそう遠くない未来に・・・ってな。


 よし、まず学校を作ろう。人材育成しながら学問を発展させる。同時に各分野の職人を集めてすぐできそうなものの開発を始めよう。




 科学技術の発展方針は決まった。次は政治だ。


 幕府なんぞ作ってはいかん! 日本とヨーロッパの歴史を比べると、時間的なずれはあるが、封建制度までは大体似たようなものだ。問題は、ヨーロッパが中央集権化していくのに対し、日本では保守派の徳川が主導したために農本主義の封建制が繰り返されてしまったことだ。おまけに鎖国なんかするからヨーロッパと差ができてしまった。

 交易は小規模ながらやっていたからな。ヨーロッパでも浮世絵、ソイソース、着物なんかは高評価だった。人的交流とか学問の交流をやっていれば、もう少し日本の地位は高くなった可能性があるのに。


 民主主義はまだ早い。前世の21世紀前半でも日本には民主主義が根付いていなかった。

 民主主義を運用するためには国民が思考能力を持っていなければならない。だが、前世の日本ではゆとり教育で学習量を減らしてしまった。親の方針で高い教育を受けた子供や、勉強が好きで自ら学習した人もいるが、多くの若者が学問から距離を取ってしまった。全体的には思考能力が低下することになった。


 民主主義社会で国民に思考能力がないと衆愚政治になってしまう。国民の感情をうまく誘導した者が権力を握ることになる。

 ところがだ、前世では与党は国民感情の掌握が下手。野党は与党批判で票を稼ぐだけで自分では国民感情をつかめない。だから政治が進まない。政治家までもが愚かだから、愚かな民衆を利用することもできない。身動きがとれない状況が何十年も続いていたな。


 ああ、また思考が脱線した。前世のことはどうでも良い。終わった話だ。


 えーと、幕府がだめで、民主主義が時期尚早とすると、間を取って明治の絶対主義か。今のヨーロッパと似たようなものだから、それほど悪くないかな。将来、里見の子孫が倒されて民主化すれば良いか。民主化できるようにうまく種を仕込んでおきたいな。


 そういえば、今、連合体制だな。これって、薩長土肥みたいなもんじゃないのか? どんな人材がいるかわからんが。うまくすると300年前倒しで明治維新ができるな。

 前世の明治維新は欧米という参考資料があったから、それに沿って高速に実現することができた。この世界線では参考資料がないから、その部分を私が主導できれば良いな。


 うん、そうしよう。


 すると、首都は京都ではなく、東京にしたいな。だが、東京湾沿いは災害に弱い。この世界の江戸城とか、現時点で陸地の部分はそれほど問題はない。問題は将来だ。

 海沿いに都市を造ると必ず埋め立てで土地を広げようとするからな。あのあたりは地震の巣だというのに、わざわざ地盤の弱い土地を作って人が集まる。愚かなことだ。

 海に広げずに、元々広い関東平野を使えば良い。千葉北部と茨城南部は地震が多いから避けて、もうちょっと内陸を活用しよう。

 物流は鉄道を使おう。蒸気機関の開発は私には難しいから電気鉄道にしよう。発電、送電、電動機の電気系、それにレールと車輪の機械系。これなら私にもできそうだ。

 海沿いは港と一部の工場類だけ作れば良いな。


 よし、首都は府中にしよう。東京の府中、武蔵府中だ。だいたい、古代の国府っていうのは良い土地に作られているんだ。これを活かすのが良いな。

 武蔵府中からだと放射状にわずかなアップダウンで関東地方のどこにでも行ける。そして奥州、越後、甲斐、東海を通って諸国に行ける。これが北関東だと北と東西方向に山があって南方以外の移動が面倒だ。


 そして、武蔵府中だと初期の物流は多摩川を使って神奈川湊経由で全国につながれる。今いる河越だと荒川を使うことになるが、河口付近の治水がたいへんそうだ。あの辺のハザードマップって「ここにいちゃダメ!」って書いてあったよな。避難場所がないところに重要産業拠点を作るなんて危険すぎるだろ。


 うん、武蔵府中、多摩を東京に改めてこの世界の日本の首都にしよう! 江戸時代ならぬ多摩時代だ。


 あとは国家元首か。天皇ね。私は天皇制否定派でも肯定派でもない。自然に、あるがままに受け止めていた派だ。

 私は昭和の天皇陛下の後半生を一国民として見ていたが、なんだかお辛そうだったな。明治のような体制にすべきか、象徴天皇にするべきか、はたまた全く別の体制にするべきか。これは今後の課題だな。

 そして、天皇制を維持するなら議院内閣制、別の体制にするなら大統領制になるな。


 日本の文化伝統から見て、議院内閣制は受け入れやすいが、大統領制にするためにはリーダーになれる人材を大量に、継続的に育てなければならないな。ああ、やっぱり教育に力を入れなければ。人材こそ最も重要な国家の財産だ。ゆとり教育など絶対に認めん!



電話の発明:1876年

無線通信機の発明:1895年


 筆者はゆとり教育を受けた方々を非難しているわけではありません。政策としてのゆとり教育が失敗であったと考えています。

 教育は見直しが行われていますが、まだまだ手ぬるいと考えています。学ぶべきことはどんどん増えているのですから。

 とはいえ、詰め込み教育も良くなかったことは事実です。教育は生徒1人1人に合わせた多様性が必要ですね。

 本作において主人公が多様性のある教育を実現してくれることを願っています。この先どうなるかは筆者もまだ分からないので。


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― 新着の感想 ―
政策としてのゆとり教育はイマイチだったけれどGWやシルバーウィークの土曜日は休みでも良いと思う。
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