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近代への永い永い近道 --近世無用! 娘と父とあと一人--  作者: 浅間 数馬


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108/109

108. 雪国 天正12年11月(1584年)

 待望の自宅の外壁が完成した。内装はまだ工事中だが、私的エリア--居間や寝室、厨房、食堂、風呂、トイレ、住み込みの女中や執事の部屋ができたので入居した。

 厨房に連接するパントリーに食料が詰め込まれている。米、麦、芋類はもちろん、魚と野菜の缶詰が多い。冬も栄養バランスがとれそうだ。


 残りは公的エリア--執務室、応接室、会議室、来客の控え室、来客用トイレなどだ。見栄を張って調度品などを揃えるので時間がかかるのだ。春までにできれば良いよ、そっちは。


「レイラの部屋は私の隣、具視ともみはあっちの隅だ」


 秘書が2人できた。


 1人はアイヌ女子のレイラ、数え18歳、私より1つ上だ。先日、札幌中学校に入学した。通学しながらなので、秘書と言っても見習いだ。戦前なら書生と言う奴だな。

 イソンノアシ殿の縁戚らしいが、アイヌの皆さんは基本的に個人で動いているので、レイラも自発的に秘書になりたいと言ってきたので採用した。私的秘書だ。送り込まれてきたって訳じゃない。


 もう1人は浪岡具視なみおかともみ。同22歳。今年、越後中学校を卒業して連合職員に採用された。秘書が欲しいと言ったら派遣されてきた公的秘書だ。

 浪岡氏は北畠とも言う。4年近く前に連合に併合され、若かった具視はすぐに中学校に入れられたのだ。まだ経験不足の感は否めないが、一応、論理的に会話ができる。将来に期待しよう。


 引っ越し3日前から雪が降り始めた。案の定、奉行所の職員宿舎は地獄の寒さだった。まだ冬の始まりだというのに、武蔵の真冬を超えている!


 小雪が降る中、皆で引っ越しをした。幸か不幸か荷物が少ないので、私の私物は1度の搬入で終わり。

 大量の書類が濡れないように具視や奉行所職員に気をつけて運んでもらった。


 2人の秘書も、住み込みの使用人達も皆、私物は少ない。風呂敷1つか2つ程度だ。簡単だね、引っ越しは。


 アイヌの皆さんから引越祝いに熊の毛皮をもらった。気持ちはありがたいが、ちょっと匂う。応接室ができたら壁に飾ろう。




 雪が降っているとは言え、昼間は仕事が有る。大雪の時は在宅勤務するが、通常は奉行所か研究所に、蓑を着て笠を被って出勤する。

 嗚呼、ゴアテックスとかダウンジャケットが懐かしい・・・ ゴアテックスも高分子化学の賜か。禁止するも、解禁するも、高分子化学が始まっていないからどうにもならん。


 冬の間は大規模な建設作業は休止だ。内装工事などは行っているが、多くの労働者が余る。

 余った労働者は国元に戻ったり、雪が降らない地域に出稼ぎに行ったりしているが、残っている人も少なくない。


 残った人々と陸軍に、ほぼ毎朝、雪掻きという大仕事をしてもらっている。

 掻くと言うのは関東の表現だ。こっちはもっと雪が多い。越後や出羽などの豪雪地帯から来た人達の中には雪掘りと言う人もいる。

 一晩に1mも積もる豪雪地帯の人々にしてみたら、札幌はまだ少ない方らしい。


 それでも重労働だ。毎日夜明け前から金属スコップでガンガン掘ってくれる。雪が多い日は昼間も随時掘ってくれる。お陰で通勤は比較的楽だ。滑りやすいが、そこは功夫に比べれば楽なものだ。


 しかし、除雪の道具も工夫が必要だな。将来的にはブルドーザーとかラッセル車とか造るとして、さしあたり手作業用の道具を開発しよう。

 さっそく研究所の機械組にスケッチを渡して指示を出す。


「雪掻きに適した形にスコップを改良しろ。先端は尖らせずにまっすぐだ。あまり硬くなくてよい。少し薄くして網のように穴を開けて軽量化しろ」


 そうだ! 名前が分からんが、あの、ソリに柄を付けたような奴を造ろう。


「こういった形のものも造ってみてくれ」


 即興で絵を描いて指示する。イメージ伝わったかなぁ・・・




 冬は日本海が荒れるので、小樽の港は暇だ。店を閉じて本店に帰っているところも多いと聞く。

 札幌の街は夏の間に蓄えた備蓄で冬を越さなければならない。生産性が上がらないな。


「鉄道を引く。まず、小樽と札幌の間で物資輸送だ。次に、小樽から函館まで延伸せよ。内陸は今後考える」


 研究員達に鉄道ルートの検討をさせる。既に地図が作られているところは図上での検討になるが、まだ地図がない地域も多い。特に、小樽-函館間は未調査だ。

 夏の終わりから秋の終わりまで、大蔵長安がニセコや長万部方面の見てきてくれたが山が険しいところと比較的平坦なところを見繕ってくれただけだ。長安は鉱山調査が主目的だから仕方が無い。


 長安のざっくり情報に加えて、アイヌの皆さんに意見を伺って3つほどルートの候補を挙げ、雪解けを待って測量隊を派遣することになった。


 アイヌの皆さんも新聞で鉄道を知っている。カムイからの恵みの鉄や銅、木材などを活用すると理解しているようで、反対意見は聞こえてこない。むしろ興味津々。積極的に協力して頂けるのでありがたい。




「こ、これは味噌ラーメンか!」


「はい。ラーメンの汁に味噌を使ってみました」


 昼食を食べに外に出ると、いつものラーメン屋の前にちょっとした行列があった。寒かったが興味があったので並んでみると当たりだった!


「体が芯まで温まります」


 寒さに慣れている具視も嬉しそうだ。

 そうなのだ。ラーメンスープにはいろいろあるが、味噌は熱容量が大きいためだろうか、とても温まる。逆に夏は食べたくないほどの一品だ。冷やし味噌はまた美味いがな。


「これは何でしょう?」


 具をつまみ上げて不思議そうにしている。あれ? この時代、津軽では食べられていないのだろうか? 領主の家のお坊ちゃまだから知らないだけかな?


「ホタテ貝の貝柱だ」


「え! か、貝柱!? そ、それはどれほど大きな貝なのでしょうか?」


 なかなか笑える勘違いだ。アサリとかシジミと同じ比率だったら両手で抱えきれない巨大な貝になってしまうな。

 とは言え、ここで笑ってはいけない。


「ホタテというのは体の半分以上が貝柱なのだ。他の貝とは味も食感も違うだろ? 干すと長期間保管できる。確か、唐国では高く買ってくれるはずだ。津軽でも養殖できると良いな」


 ちゃんと教えてあげる。


「養殖?」


「人の手で育てて収穫するのだ。天候などに左右されるが、儲かるときは儲かるぞ」


 考えてるな。頑張れば郷土の発展に貢献できるぞ。


「ラーメンのびるぞ」


「あ!」




 11月中旬。羽柴秀吉と織田信雄が講和した。


 12月中旬。徳川家康が秀康ひでやすを羽柴秀吉の養子とすることを承諾した。後の結城秀康だ。

 確か、結城家は関東の武士だ。よく覚えていないが、連合の中に結城という人物が居たと思う。


 ということは、この世界では結城秀康にはならんのだな。


 あ、うっかりしてた。朝廷の扱いは検討していたが、豊臣と徳川の処置を考えてないな。

 豊臣は秀吉1人みたいなもんだから潰せば良いか。

 徳川の家はでかいな。どうしたものか・・・


浪岡氏:浪岡北畠氏とも呼ばれる村上源氏北畠家の分家。津軽半島東岸を領有していましたが、史実では永禄から天正あたりに西隣の大浦氏に滅ぼされています。この世界では両家は同盟して連合に対抗していました。具視は史実には存在しないこの世界の人物です。


ゴアテックス:GORE-TEX。米WLゴア&アソシエイツ社の防水透湿性素材の商標名です。


ソリに柄を付けたような奴:スノーダンプのことです。


現在、ホタテの養殖は青森県が国内一位です。浪岡氏の旧領を含む陸奥湾で盛んに養殖されています。


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