106. インテリジェンス 天正12年9月(1584年)
札幌中学校の入学式だ。来賓として出席。
あいにくの小雨の中、蓑や笠を着けて未整備の校庭に整列。足下がぐちゃぐちゃだ。私はゴム長を履いているが、他の者は草鞋だ。可哀想に。
少し離れた場所でポータブル発電機を起動。電線を引っ張って新開発のハンディ拡声器を起動する。聞いたこともない大声に学生達は自分たちが先進の環境にやってきたことを実感した。
来賓のアイヌの皆さんは勿論、連合側の役人達も拡声器は始めて見たので興奮している。
あぁ、それにしても記念写真ぐらい欲しいよな。写真研究どうなってるかなぁ・・・
私も多少は面倒見るが、学校教育からは距離を置く。北方開拓全般の監督が役目だからな。
武蔵ではようやく府中-神奈川間で鉄道が開業したそうだ。横須賀へは延伸工事中だが、物資や人の往来のため部分開業した。
まあ、横須賀に行くのは軍人さん達だから歩いてもらえば良いさ。って、御用商人達も居たな。大量の物資運んでるな。
記念式典では父上他連合幹部がお召し列車で神奈川まで行ったらしい。貴賓車両は檜が使われ、漆や金細工などが施され、座席もふかふかの1人掛けソファー仕様で、全体的に豪華なものらしい。天海もご満悦だったそうだ。
帰ったら乗れるな。いつのことやら・・・
自宅の建築が本格化してきた。1階ができたので何となく規模感が分かるようになった。
文化遺産として残る可能性があるので、コンクリートが完全に固まるまでじっくり待つことにしている。見た目で固まったからといって次の工程に入ってしまうと長持ちしないらしいからな。
前世ではずっと団地暮らしで家を建てなかったが、建てようかと迷っていた頃、いろいろな工法を調べたのだ。
「棟上げする前に壁を作るのですね・・・」
皆、作業順序が不思議に思えるようだ。
「コンクリートと言うものは固まれば岩のようにしっかりするが、固まるまでに数日掛かる。下から固めていかないと上にものを載せられないのだ。先に上を塞いでしまうとコンクリートを流し込みにくいしな」
皆、不思議そうに聞いているが、既に固まった基礎を見たり蹴ったりして頭では納得しているようだ。あとは慣れだよ。
『大停電起こる!』
週刊日本の記事だ。真面目な方だ。神奈川で3日も電気が止まって高炉や各種工場が休業したそうだ。関係者に不安が広がっているという。
停電自体は日常茶飯事だ。過負荷とか、漏電とか、機器の故障とか、操作ミスとか、原因は山程ある。
だが、ノウハウが溜まってきたので数分から数時間で復旧できる。3日も止まるなんて有り得ん!
連合からの報告によると、原因調査に時間をとられたが、どうやら発電施設の制御系の細い電線をネズミが囓ったらしい・・・ 久しぶりに聞いたよ。ネズミ被害。
再発防止策として猫を飼うことにしたのか・・・ その手は昔よく聞いたけど、上手くいくかなぁ。
子猫が増えて別の問題にならなければ良いが・・・
昭和の頃は結構あったんだ。ネズミ被害。いつの間にか聞かなくなったけど、ネズミが減ったのか、ネズミが囓りたくなくなる工夫をしたのか、実は令和でも・・・
そうだ! 唐辛子だ!
電線の絶縁材のゴムや繊維に唐辛子成分を混ぜたり塗ったりするのだ。匂いを嗅いだだけで、あるいは一口囓ったところで逃げ出すとか。
聞いただけだから効果があるかどうか。取りあえず手紙でアドバイスする。たしか、渋みとか苦みも効いたはずだ。辛子やわさびも良さそうだ。たくさん実験して選んでもらおう。
それと、背に腹はかえられない。そろそろ火力発電所も作らせるか。現状、高炉の余熱でお湯を沸かして蒸気でタービン回して発電やってるが、発電専用のボイラーを作ろう。
発電所が複数あると送配電システムが複雑になるが、どこかで停電が起きたら他から余剰電力を回すこともできるしな。
私は高電圧は専門外だからよく知らんけど・・・ 研究員に方向だけ示して押しつけ--じゃなくて任せよう!
燃料は下総にある原油だ。アレを掘って重油を発電に回そう。ガソリンと軽油はエンジン関連に回して、そろそろ灯油を一般家庭の暖房用に供給してもいいかな。まずは石油採掘の本格化からだな。
・・・埋蔵量はどれくらいあるんだろうか?
そうそう、天然ガスもある。自然に漏れてるから危ないし、勿体ない。ガスの取扱技術を確立させて下総でガス火力発電させても良いな。
何れにしても大気汚染が心配だが、高炉で排気ガス制御がある程度進歩したから、そろそろやってみても良い頃じゃないかな。
それにしても送電距離が長くなるな。高圧送電にもチャレンジさせよう。そろそろ1万 圧ぐらい挑戦してもいいんじゃね?
まだ早いかな。高性能で燃えない絶縁材が必要だな。昇圧器とか燃えちゃうな。やっぱ 5000 とか、いやいや 2000 圧ぐらいが限度か。
何か一つやろうとすると、あれもこれも用意しなきゃならん。なかなか先に進めんな。トホホ・・・
やっと阿波の調査報告が届いた。毎月送れって言ったのに半年も経ってるぞ!
情報本部の手引きで阿波だけでなく、淡路と讃岐にも研究員が入ったようだ。身分としては商人で、越後屋と相模屋という連合領内に本店のある商人の店に奉公人という体裁で入っている。他にも連合との取引が多い現地商人の店にも入っているという。
この時代はとにかく方言がきついので、東日本の研究員はよそ者だとすぐにバレてしまうのでなかなか動けないとのことだ。
何しろ阿波の領主は、信長が死んで--天海になって--後ろ盾のなくなった三好から、新たに侵攻してきた長宗我部に代わって間もない。三好の残党狩りとかいろいろあってまだ落ち着かないらしい。
言われてみればその通りだな。うっかりしてた。
そういう訳で、各研究員は入り込んだ店で客や取引先に少しずつ協力者を作って情報収集しているらしい。
そういうことなら、文献などが手に入るまでにはまだまだ時間が掛かるだろう。まずは地名確認だな。いろいろな地図を収集して地名と位置関係を整理させよう。
ヒューミントとオシントっていったっけかな。スパイ映画っぽくなってきたな。
ヒューミント(HUMINT):human intelligence。人間を媒介した諜報手法。
オシント(OSINT):Open-Source Intelligence。合法的に入手できる資料を調べて突き合わせる諜報手法。




