表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近代への永い永い近道 --近世無用! 娘と父とあと一人--  作者: 浅間 数馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/107

104. 人格 天正12年7月(1584年)

『もっと連合を、世界を知りたい』


 イソンノアシ殿からの申し出だ。


 聞くところによれば、北海道の南半分に住むアイヌの人達には私の話が伝わっているようだ。最近は対話に参加する人数が増えている。その都度新しいメンバーを紹介されるが、正直なところ名前が覚えられない。

 唯一覚えられたのがシャクシャイン殿だ。前世でツーリングに来たときに銅像を見たからな。だが、話を聞くと銅像の人とは別人らしい。どうも個人の名前ではなく、日高地方の名主の屋号みたいなものらしい。


 で、こちらからも勧めたのだが、先方からも要望があったので視察団を編成することになった。そろそろ台風シーズンなのですぐに出発することになった。人員は50名。北海道南部の各地から集まってきている。


 だいたい視察団には去年の内に来てもらう算段だったのに、こっちの役人、奉行殿かな? サボってたんだな。いや、差別意識が強くて反抗していたのかもな。

 とにもかくにも一歩前進。


 そして留学生も預かることになった。千代中と武蔵中で20名ずつ受け入れる。こちらもすぐに出発。9月まで日本語の特訓をして、新学期に正式入学だ。


 まだアイヌの人達には相談していないが、札幌にも学校を創る。留学生が卒業したら教員になってもらう。札幌ではアイヌと本土から来た人を同じクラスにして、アイヌ語、アイヌ文化、礼儀作法やアイヌの歴史の授業も入れよう。

 そして、将来はシベリアからの留学生を受け入れてもらうのだ。




 先月、馬に乗って小樽に視察に行った。北海道は梅雨が無いから過ごしやすいし、旅をするにも楽だ。


 小樽は活気があった。札幌より1年早く建設が始まっているし、連合との間での物流が良いからな。


 海軍の港も整備が進んでいた。連合の蔵と商人の蔵が並んでいる。土蔵だ。


 聞けば、土蔵の方が屋敷よりも暖かいので、冬の夜は皆で揃って土蔵で寝ているとか。

 断熱性が良いからだ、と説明して住居の中心部分にも土蔵の壁と同じ断熱材を使うことを勧めた。ただし、火の扱いと換気には注意するようにと厳しく言った。酸欠や一酸化炭素中毒の恐れがあるからな。


 遠からず、小樽と札幌も鉄道で結ばなければならない。これは必須だ。

 前世では函館-小樽-札幌-旭川まで鉄道が延びていたが、いずれそうなるかも知れないな。そこは次の世代に任せよう・・・ 次の世代って私と同年代か!?




 武蔵では半官半民の証券取引会社が設立された。いずれ完全民営化する。


 多くの民間会社はまだ様子見だが、その中から株式会社に組織変更を始めたところが出てきた。チャレンジ精神に溢れているな。

 ま、だいたい私が直接取引していた会社だ。私が創る制度に間違いは無いと思っているのだろう。


 株式の取引は来年から始まる。証券取引会社は上場の指導と審査で大忙しらしい。初めてのことだから手探りだ。まあ頑張ってくれ。自分たちで新しい制度と社会を作るのだと自覚してくれていることだろう。


 それにしても株式会社はオランダ東インド会社が最初だったはずだ。こっちの方がちょっと出し抜いたかもな。ウッヒッヒ




「姫、里見を名乗る御仁が裏口に」


 外はもう真っ暗だ。こんな時間に訪問だと? しかも裏口から?


「それは良くない話であろうな。明日の昼間、奉行所で会うと言って追い返してくれ」


 しばらくすると小姓が戻ってきてこう言う。


「お役目の話ではなく、里見の家の話だそうでございます。かなり思い詰めたような」


 そりゃ刺客じゃないのか? 幕末によく有ったパターンの奴な。


「そうか。仕方が無いな。一度会ってやるか。控えの間に上げてしばらく待ってもらってくれ」


 部屋着を脱ぎ、アンダーウェアとして鎖帷子を着た上で面会用の衣服に着替える。着替えながら指示を出す。


「隣の部屋と廊下に護衛を入れてくれ。不審なところがあれば踏み込んでよい」


 着替え終わって少林拳の型を一通り。重いな。切れが悪いが、まあ動ける。

 そうだ! 明日からこれで功夫しよう! 最近鈍ってるから、良いトレーニングになるな。


 背中側の帯にヌンチャクをさして席に着く。襟や袖から鎖が見えていないかな?

 鴨居には槍と三節棍が掛けてあるな。


 斜め前に小姓を1人同席させる。よし、皆、配置についたな。


「よし、通せ」


 しばらく待つと30歳前後の男性が1人で入ってきて平伏した。太刀は外している。


「夜分に不躾な訪問をお許し頂きありがとう存じます。

 某、北方開拓奉行の私設秘書をしております、里見民部と申します」


「東日本連合副総長兼北方開拓総監の里見くうです。

 里見というと、失礼ですが民部殿は当家とご縁戚でしょうか?」


「はい。副総長のお家の分家にあたる天童家の分家の上山家のさらに分家になります」


 ひー、ふー、みー。3つ分かれたか。同族ではあるが、親戚とは言えんな。

 あれか! 血縁を頼って取り立ててくれとかいうやつか! さっさと追い払った方が良いかな。


「して、ご用向きは?」


「はい。某の妹とその子のことでございます」


「はぁ、妹御ですか」


 ん? 役目が欲しいのではないのか?

 家の話って言えば家の話だが、私に関係あるか?


「その妹には男子が居りまして、・・・その・・・五つになります・・・」


「はぁ・・・」


 歯切れが悪いな。


「えぇー、その子の・・・父君が・・・」


 父君? 敬語? 偉い人?

 数え5歳? 6年前に何があった? ・・・出羽併合か・・・

 なんか嫌な予感がしてきた・・・


「ま、まさか?」


「はい、その・・・ まさかでございます」


 なぁ~にぃ~~!? やっちまったなぁ!!! あの野郎!


「ち、父上は何と?」


「・・・実は、子が宿ったこともお伝えしておりませぬ」


 なんてこった! やり逃げか! 最悪だ!

 いや、待てよ。


「失礼だが証はございますか?」


「いえ、これと言って・・・

 ただ、お会い頂ければすぐに分かると思います。顔立ちが、失礼ながら副総長によく似ておりますので。副総長のご尊顔を遠目で拝して確信し、意を決して本日まかり越した次第にございます」


「左様でございますか・・・」


 態度を見ていると話しに嘘はなさそうだが、証拠が無いとなぁ。他人の空似ってことも十分に有り得る。DNA鑑定とかできれば良いけど・・・


「して、何をお困りで?」


「妹に総長のお手が着いたことは皆に知られておりまして、妹は嫁に行くことができません。

 奉行殿の私設秘書という立場では一家で食べていくのがやっとでして、この先、甥の行く末が不憫でございます。故に、お慈悲を頂戴できないかと、恥を忍んで・・・」


 やっぱ、役目が欲しいのか・・・

 いや、事実なら養育費ぐらい払ってあげなきゃいかんよな。


「相わかりました。まず甥御殿が私の弟であるかどうか、失礼ながら調べさせて頂きます。

 その上で間違いないとなれば、これまでと、今後の養育費を妹御にお支払いしましょう。

 また、弟には学校に入ってもらいます。中学校卒業までは当家が責任を持ちましょう。卒業後については当人次第です。学校でしっかり能力を身につけて己の力で生きて頂きたい」


「それで結構でございます。何卒よろしくお願いいたします」


 民部殿は平伏したまま後ずさりして帰って行った。


「あ~、皆の者。分かっておると思うが、今聞いた話しは他言無用ぞ!」


「「「御意」」」


 襖と障子が開いて護衛が、小姓とともに平伏する。


 面倒くせぇなぁ。面白みが欠けるくらい真面目な奴だと思っていたが、≪下半身に人格無し≫って奴か?


 嫌な予感がする。奥羽全域に弟妹がいるかも知れん・・・

 まずは父上に手紙を書いて確認しよう。


 いや待てよ。先に大蔵長安に調査を依頼しよう。6年前、相手女性の周囲に男がいなかったかどうか。

 民部殿は居ないと言っていたが、隠れて通じていたかも知れん。父上の子というのは、本人も勘違いしているかも知れん。

 出産後に男ができたならば、それはそれで良いことだから幸せになれるように協力してあげたい。民部殿の言うとおり、ずっと独り身だと可哀想だ。嫁ぎ先を探してやるとか・・・


 そっちは後回しだ。まずは事実確認。長安に手紙を書こう。


シャクシャイン:(? - ?)。1669年に松前藩とアイヌの間で起きたシャクシャインの戦いの指導者。新ひだか町にブロンズ像があります。作り替えやら移転やら、いろいろあるみたいです。


オランダ東インド会社:VOC。1602年、世界初の株式会社として設立。市民から資金を募り、株式を発行、配当を出しています。同時にアムステルダムに証券取引所が設立され、株式の売買ができるようになりました。


里見民部:(? - 1614)。史実では出羽上山氏の家臣から最上家家臣となり、その後ドタバタを繰り返して切腹、または殺害されています。この世界では最上家家臣になる前に寄親が連合に降伏、加盟していますが、縁あって最上家の私設秘書になりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ