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【注目御礼】近世無用! 娘と父とあと一人 近代への永い道  作者: 浅間 数馬


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103. 武勇 天正12年5月(1584年)

 札幌に来て1ヶ月が過ぎた。ヒマだ。娯楽が少ない。

 そう言えば、府中にいたときもあまり娯楽が無かった。忙しかったから気にしていなかったのだ。


 こっちでは仕事に波がある。

 船が来ると大量の文書が届く。それに目を通して、意見や指示を書いて次の船に乗せる。書き終えると船が来るまで暇なのだ。

 ヒマとか言ってないで、役人の教育とか、アイヌとの交渉とか、やらねばならぬことはあるのだが・・・


 面白い話と言えば先月、小牧長久手の戦いが起きた。やっとか。本能寺の変から2年近く経ってるぞ。ここまで神経戦を続けていたようだが、ようやく動き出したな。

 情報本部からの詳細な報告書とは別に、週刊武蔵が適当な挿絵を付けて面白おかしく報道している。


『壮絶 池田恒興・森長可討死!』


 なんて具合で北海道でも連合人には大受けだ。送られてくる部数が少ないので皆で回し読みになる。早くよこせ、と喧嘩になりそうな勢いだ。


 アイヌの人の中にも多少興味を持っている人がいるようで、新聞の読み方を教えている役人や商人がいる。良い傾向だ。


 さらに、月刊千代せんだいという新聞もできた。新聞を読みたいという奥羽の需要に対して日本も武蔵も印刷能力が追いつかない。

 そこで、それらの新聞の要約記事を月に1回発行する2次的な媒体が千代--前世の仙台--にできたのだ。ゆっくりだが、確実に情報が回り始めた。良い傾向だ。




『ふぉんずつはせいでんなり』


 デッカい妙な声が響いた。こっちの研究員にハンディ拡声器、電気式メガホンを作らせているのだ。

 ノイズがデカい。音が歪んでいる。だが、ここまで来れば実用化は目の前だ。


 欠点は電源だ。電池が無い。ポータブル発電機を接続しているので、発電機の音がうるさい。長い電源ケーブルを使って発電機を離している。


 工事現場の監督とか、海軍士官とかが興味を持って見学に来ている。需要は大きいぞ。頑張ってくれ。

 そして、アイヌの人達も見に来ている。毎日少しずつ改善されていく様子が面白いらしい。良いよ、良いよ。とにかく人手が足りないのだ。君たちにもぜひエンジニアや研究者になってもらいたい。




 そんな折り、国土開発方からの報告書によると、南武横須賀線の建設が完了したという。


 早速試験運転を行ったが、いきなり衝突・脱線事故が発生したという。完全な人的ミスだそうだ。

 乗員3名が怪我をして車両が壊れたそうだが、幸いにも死者は無し。営業運転前に良い体験ができたってことだな。


 営業開始は延期、なぜなぜ分析を行い、横並び点検を忘れるな、類似パターンも含めて再発防止を検討、様々な事故発生や地震や嵐を想定して職員の訓練を実施せよ、なお過度な責任追及はするな、と意見をまとめて送った。


 早い段階で小さな失敗を繰り返しておくと、将来大きな失敗をする可能性が減ることが期待できる。社会全体が若い今、皆には失敗を恐れずにチャレンジしてもらい、どんどんダメ出しして改善に取り組む癖を付けてもらわなければならない。一々切腹とかされると大損害だ。人材育成が一番コスパが悪いんだから、せっかく育った人材を簡単に失うわけにはいかんのだ。


 思い返せば昭和の頃は鉄道事故で数多くの尊い命が失われていた。今思えば発展のために必要な犠牲だったのかも知れない。ご冥福を祈りつつ、今世では犠牲が少なくなるように努力せねば。無くせないとは思うがな。




 イソンノアシ殿とは不定期に会って対話している。連合の様子、学校と技術開発、地球や世界情勢、宇宙や神にまで話が広がっている。概ね好感触で、近々本格的な協力が得られるだろう。

 協力体制ができたら他の集落も巻き込んで、北海道全土の調査を行う。残すべき自然を選別して計画的に開発するのだ。


 さらに、シベリア探検にも協力してもらえることになった。アイヌ語はシベリアに住む民の言葉に近い。通訳できる人も居る。


 本格的な北方探検は先月始まっている。探検隊はもう出発しているので、アイヌの通訳と他民族への使者には補給部隊とともに2週間後に出発することになった。


 今後は極寒生活に関するノウハウも頂戴して、さらに改善していこう。

 ロシアが東に動き出す頃にウラル山脈まで到達できたら良いな・・・ 私が生きてる内には無理だな。




 そんなある日。暇つぶしに護衛と侍女を1人ずつ、計3人で散策をしていた。

 まだ開発を行っていない地域で、草が生い茂っている中に獣道ができている。アイヌの人達が通るのだろう。50杖(m)ぐらい先にコタンが見える。


 と、何やら大きな声がする。護衛と目配せしてコタンに向かって走ると・・・!


 熊だ。向こうから熊が走ってきて、私達に気が付いて止まった。後ろからはアイヌの人達が走ってくる。


 一瞬躊躇したが、こっちが手薄と見たのだろう。突っ込んでくる。


「姫!」


 両足に装着したヌンチャクを抜き、私を守ろうと立ち塞がっている護衛の脇をすり抜けて前に出る。

 熊が立ち上がった。でかい! ヒグマだ。2杖(m)はある!


 垂直に跳び上がりながら振りかぶって上からヌンチャク! ヒット!

 熊の唯一の弱点、鼻先にクリーンヒットだ!


 流石に効いただろう。熊がうずくまって動きが止まった。

 そこに空かさずアイヌの人達がやってきて捕まえてくれた。一安心だ。


「も、申し訳ございません!」


 護衛が土下座して必死に詫びている。責任とって切腹でもしそうな勢いだ。


「済まぬ。そなたに任せるべきであったが、少林拳を使いたかったのだ。許してくれ」


 部下の仕事を奪っちゃいけないよね。でも、代わってあげなかったらこの人大怪我してただろうな。


「姫、お召し物が・・・」


 侍女に言われてよく見ると、裾が激しく破れている。熊に引っかかれたようだ。


「血が・・・」


 アドレナリン全開で気が付かなかった。

 深くは無いが、いかんな。感染症の恐れがある。季節的にも拙い。


 アイヌの人が何か言っている。治療してくれると申し出ているみたいだが・・・ 失礼だが逆に心配だ。


「ベッ」


 うろ覚えのアイヌ語を発して川がどこかと聞くと通じたようだ。案内してくれた。

 川の中に入り、流れの速いところで傷口を洗う。ちょっと染みるが大丈夫だ。傷の中までキレイに流水で流す。


 川から出て、持ち歩いているヨードチンキを侍女に塗ってもらってキレイな手ぬぐいで縛る。


 またアイヌの人が何か言っている。ヨードチンキに興味があるみたいだが、通訳がいないので説明できない。


 コタンのはずれでは捕らえられたヒグマがオリに入れられていた。一部オリを修理している。

 なんか、元々ここに居たのが逃げ出したところに出くわしちゃったみたいだな。


 アイヌの人達は熊を神聖視している。このコタンでは大切に飼っているみたいだ。

 大丈夫かな? 鼻の骨、折れてんじゃないのか? 餌、食べられるかなぁ・・・




 翌月。


『熊殺し! 副総長大活劇』


 ウィリー・ウィリアムスじゃねぇよ!


 週刊武蔵1面トップにデカデカと出てしまった。熊と相撲をとっている挿絵付きだ。私は金太郎でもないし、ヒグマよりデカいわけが無いし、熊は死んでないぞ!

 いつもよりたくさん手紙が来ている。父上からは早く帰ってこいとの催促。あぁ、母上のもあるな。トホホ・・・


 誰だ、喋った奴は? 侍女を見ると首を横に振っている。護衛は・・・ あの護衛はどこに行った?


ロシアの東方遠征:コサックがロシア商人の支援を受けてウラル山脈を越えてシビル・ハン国に侵攻したのは1581年です。翌年、シビル・ハン国の首都カシュリク(シビル)を陥落させ、ロシアによるシベリア征服の端緒となりました。つまり、本話の時点では既にウラル山脈を越えています。くうはロシアの歴史をほとんど知りません。


petベッ:アイヌ語で川。大きな川→士別しべつ標津しべつ。「静かな川」→紋別もんべつ


ウィリー・ウィリアムス(Willie Williams):1951-2019。アメリカの空手家。極真会館出身。1976年公開のドキュメンタリー映画『地上最強のカラテ PART 2』で巨大なグリズリーと闘い、熊殺しの異名を持つ。当時の青年や格闘技に興味のあった人は皆知っている超有名人です。


本稿執筆時点の令和7年は熊被害が過去最悪でした。被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。

ヒグマに勝てるわけがないだろ、とお思いの方々、数話先で説明がありますので過度な突っ込みはご容赦ください。


本話で2025年の投稿は終了です。今年は大変お世話になりました。

次回投稿予定日は・・・ 元日!

来年もよろしくお願い致します。


・・・ と言いつつ、最近残業が多く原稿ストックが底をついております。1月からしばらくの間、週1回投稿とさせていただきます。ご容赦ください。見捨てないでください。m(_ _)m


よいお年をお迎えください。


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