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イデア魔界儀伝  作者: 五十音字ひらがな
プロローグ
2/12

首都ナキアケア

【2025.12/20|エピソードタイトル変更】 

・「首都ナキアケア ①」→「首都ナキアケア」に変更。

 灼熱の熱気が吹き抜け、腐敗した卵のような、刺激の強い臭いが鼻につく。

 地表の温度が460℃に達し、鉛の融点である327.5℃を遥かに超える。

 灼熱地獄の世界——魔界。

 分厚い濃厚な硫酸の雲に隙間なく覆われ、黒一色の景色が広がる世界。

 星の瞬きひとつない無彩の空の下、先進的な都市を彩る奇抜な高層ビル群がそびえ立っている。

 ビルに設置された大型ディスプレイからニュース番組が流れていた。

 平面な映像ではなく、画面から飛び出して見える色鮮やかな立体映像。

 スーツ姿の女性エルフが、まもなく開催される進化の儀について報道している。

「魔王リロナキア様主催の——進化の儀・武の祭典、いよいよ明後日13時から開幕します。今回は悪魔族8名、魔族6名、人間族1名、冥界族1名、合計16名がトーナメントに参戦。試合が行われる、ここ首都ナキアケアでは、既に盛り上がりを見せています」

 スタジオ風景の画面が切り替わり、現地の街頭インタビューや都市の盛り上がりを写す映像が流れ出す。

「街の宿泊施設はどこも満室になっています。飲食店では各領域から来た悪魔族や魔族で賑わい、明日の試合組み合わせ抽選会や、優勝候補について熱く議論が交わされており、魔界中から熱狂的なファンが集まっています」

 ドーベルマンの姿をした雄の獣人が、マイク片手に街の賑わいを中継している。

 商業施設で武器や鎧、魔法道具、関連キャラクターグッズなどが熱心に取引される様子や、いたる所で商戦が繰り広げられている街の姿も映し出されていた。

「明後日から始まる進化の儀・武の祭典の影響で、普段以上の熱気に包まれています」

 そして、映像は街頭から再びスタジオに切り替わり、引き続き祭典に関して放送されている。

 番組に映る喧騒とは対照的に、深いマゼンダ色のマントを背に垂らした、身長6メートルの巨躯が、無言で画面を見つめていた。

 頭部には兜と一体化した二対の角がそびえ、湾曲しながら螺旋を描いて伸びていた。溝を走るネオンピンクの光は、超伝導の回路めいた無機質な輝きを均一に放っている。

 顔全体を覆う兜の前面には縦長の裂け目が数条刻まれており、そこから同色の鋭い光が溢れ出す。瞳も黒目もないはずなのに、その光は確かな視線を宿していた。

 漆黒の甲冑は金属でありながら有機的な曲線を帯び、生物の筋肉を思わせる隆起が連なる。ネオンピンクの発光ラインが黒の装甲を際立たせ、肩甲や籠手には刃状の装飾が突き出ている。

 漆黒の騎士は文明が遅れた辺境の国からやってきた。魔王リロナキアの城がそびえ立つ首都ナキアケアに足を踏み入れ、最新技術が集積された都市に圧倒されていた。

 中世時代の文化水準の環境で過ごした彼だが、冒険を通じて様々な文明に触れてきた。それでもなお、目の前の魔界都市の先進的な技術には、常識の土台からひっくり返されるような圧倒感があった。気づけば、興奮を抑えることができなかった。

 その視界を満たすように、色とりどりの都市の光が目の前で世界を染め上げ、まるで星々が地上に降り注いでいるかのようだ。その光景は、命そのものを照らしているように感じられた。

「これは……凄いな。ここが本当に魔界なのかと疑いたくなる」

 そういえば、新聞や雑誌で首都ナキアケアの写真を見たことはあった。

 だが静止画では伝わらない躍動を持つ立体映像の臨場感は、想像を超えていた。

「さすが魔王リロナキア様のお膝元だよ。そう思うだろ?」

 誰に尋ねたのか、周囲に答える者はいない。

 悪魔族、獣人、エルフ、ドワーフなどの魔族、すれ違う者たちしかいない。

 側から見れば、ひとり言のように聞こえるだろう。

『これは本当に凄いな。壁面から絵画が飛び出し、生き生きと動いておる』

 そのひとり言に、威厳のある男性の声が直接頭に響いた。

 異形の騎士は慣れた様子で応じる。

「こんなに鮮明で、生物と映像の区別がつかない立体映像は初めてだ。魔導科学という、魔法と科学を組み合わせた映像技術らしい」

『ほう、そうなのか。シンゲンの前世では、このような絵画を動かす……魔導技術というものはなかったのか?』

 名前を呼ばれた漆黒の騎士シンゲンは、顎に手を当て思い返す。

 そのとき、炭火で肉が焼ける香ばしい匂いがふっと漂ってきた。思わず振り返ると、衣装を着たオークがステーキを頬張る立体映像が映し出されていた。

「地球……前世の世界にも映像技術はあった。ただ科学の力だけで実現していたけどな。それに、匂いを再現させるこんな技術はなかった」

『たしか、魔法が存在しない不思議な世界であったか?』

「そうだな、科学が魔法に思える不思議な世界だったな。……今思えば」

 本当にそうだ。シンゲンは前世の記憶を辿る。

 十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない——あのクラークの三法則が脳裏に浮かぶ。

 前世では宇宙や物理法則が好きだった。

 宇宙があまりにも物理法則に従って振る舞う事象の数々を不思議に感じ、ネットで調べていたときにその言葉を知ったのを思い出す。

 この魔界や魔法、あらゆる事象も科学で説明できるのだろうか?

『前世か……お互い、何としても戻らねばな』

「ああ、そのために強くなったんだ。負けるわけにはいかない——絶対に」

 絶対に負けるわけにはいかないんだ。妹の百合(ゆり)が待っている。助けなければ。

 ……本当に優勝できるのか?

 過去の大会映像を何度も観た。ネットや専門誌からも情報を集めてきた。だが進化の儀・武の祭典に参加する奴らは、どいつもこいつもチート級のスキルを持ってやがる。中には時間停止を使う者もいた、そいつですら1回戦で負けていた。本当にオレたちは……。

『大丈夫かシンゲン?』

 頭の中の声で我にかえった。

「ああ、大丈夫だ。ただ……少し考え込みすぎていたようだ」

 気づけば拳を強く握りしめていた。

『不安になって当然だ。参加者全員が常識の埒外(らちがい)にある化け物級。いわば超生命体ばかりだ。だがシンゲン、おまえはそんな化け物たちと肩を並べている。じゅうぶん私たちも埒外の化け物だぞ』

 その言葉に、思わず笑みがこぼれた。

「そうだな、たしかに」

 彼の言う通りだ。悪魔大公爵序列1位のサタングリムの支配領域、そこで行われた悪魔部門の予選をオレたちは制した。

 胸の奥にあった重い圧が、ほんの少しだけ軽くなる。

「主催者側がホテルを用意してくれているようだから、着いたらまずは……飯だな」

『元気が出たようだな。腹が減っては戦はできぬだったか?』

 シンゲンが歩き出した瞬間、突然何もない空中に映像が飛び出してきた。

「明後日の13時から、進化の儀・武の祭典が開幕するよ〜ん。今回のトーナメントに参加する16名を紹介をするよ〜ん……」

 空中ディスプレイから羽の生えた小さな悪魔の映像が飛び出し、子供のような声で飛び回る。一定時間飛び回っては戻り、また同じ動作を繰り返す。

 しかも視線が合うと笑みを浮かべ手まで振ってくる。こいつ、生きてるだろ?

 ……たしか、空中結晶技術だったか。前世ではまだ実用化されていなかった。

 ここまで生命感のある立体的な映像は、前世の地球の技術を凌駕している。

「凄えな……魔界の科学力。魔導科学技術か」

「もしかして、シンゲンさんですか?」

 漆黒の騎士シンゲンが見入っていると、背後から赤い髪の女性が声をかけてきた。

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