第八話 クラーケンの正体
「はっ…」
クラーケンの足に全身を縛られ、海の中に沈められていたが、突如意識を取り戻したあたしは、なぜかひどく冷静だった。先ほど見た走馬灯のような物。それを見て再確認したのだろう。こんなところで死ぬわけにはいかない。
必ず生きて、エスパニア帝国に復讐する。その日まで、絶対にあたしは死なない!海の上で生死の境をさまよったあの日以来、あたしは水という物がこの上なく怖かった。このトラウマはいうなれば帝国によって植え付けられたものなのだ。だからこそこんなトラウマ如きに負けるわけにはいかない。顔が水についたくらいで、怖がるな!
冷静さを取り戻したあたしは、水の支配者を発動させ、全身にまとわりつく海水を操り、全速力で水面まで加速し、クラーケンの足を振りほどいて一気に水中から飛び出した。海中から矢のように飛び出したあたしの体は、その勢いで自分の体にまとわりつくクラーケンの足を振りほどき、そのまま放物線を描き、仲間の海賊たちの船の甲板の上にまっすぐ落下した
「ぷはぁ…っ。はぁ…はぁ…」
船の甲板の上で呼吸を取り戻したあたしは全身で体に酸素を取り込んだ。
「フラン、大丈夫か?」
苦しそうに息をしているあたしを心配して声をかけるウィルの質問には答えず、あたしは立ち上がった。そしてもう一度クラーケンに立ち向かおうとしたその時、あたしの腕を引っ張り、ウィルが引き止めた。
「どうしたウィル!あたしの腕を離せ!あいつはまたこの船を攻撃してくるぞ!」
しかしウィルはいたって真面目な表情で、決してあたしの腕をつかむ手の力を緩めない。
「見ろよフラン!あの怪物、やっぱどう見ても様子が変だ。とても俺たちを狙って襲っているようには見えないんだ!」
「なに?」
あたしはもう一度クラーケンを見た。確かにどう見てもあたしたちの船を狙って攻撃しているようには見えない。何かこう…痛がって暴れているような…
「そうか…まさか!?」
意識を失う直前に見たあのキラリと光るものは、もしかして!
あたしはもう一度海の中へと飛び込んだ。大丈夫だ怖くない。悪しき帝国に刻まれたトラウマ如きに負けるなあたし!そう自分に言い聞かせながらさっき見た海底の光るものがあった場所へと高速で泳いでいった。
そういう…ことか…。
海底につくと、そこにあったのは巨大な頭が海底の大きな裂け目に挟まり、身動きが取れないクラーケンの姿。そしてその巨大な目には、太く巨大な大剣が刺さっていた。どうしてそうなったのか理由こそよくわからないが、大剣が刺さっていると言うことは間違いなく人間に原因があるのだろう。人間の行いのせいで苦しんでいるだけなのに人間の怒りを買い、人間に殺されそうになっていたその巨大なバケモノのことをあたしは少し可哀想に感じた。
「少し痛むだろうけど…我慢してくれよ」
あたしは巨大な目に突き刺さっている大剣を握り、力いっぱいクラーケンの目から引き抜いた。すると、
ぷしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ
と何やら空気が抜けるような音がし、巨大なクラーケンは瞬く間にしぼんでいったように見えた。息が苦しくなったあたしは、どうなるか見届けたいという気持ちを捨て、水面へと泳いでいった。
◇
「うおおおおおおっ」
水面から首を出したあたしを船の上に引き上げた海賊たちは大きな歓声が上げた。
もう一度クラーケンの居た海を見ると、クラーケンは見る見るうちにしぼみ、ついにはその巨体は海から姿を消してしまった。もしかして死んでしまったのだろうか。でもいったい何が起きたのだろう。とあたしが海面を見つめながら考えていると、あたしの隣でクラーケンのいた場所をじっと見つめていたウィルが叫んだ。
「あそこに、女の子がいる!!!」
はい…?
ウィルの指さすその先には、海の上にぷかぷかと浮かぶ、灰色の髪の毛をした一人の小さな女の子の姿があった。あたしが急いでその女の子のもとに向かい、彼女を抱き上げた。その顔は非常に美しく、女性のあたしすら魅了してしまうほどだった。彼女はあたしの腕の中でぐったりとしており、意識はないようだが、脈は有り、体温も暖かった。生きているのだろう。でもどうしてこんなところに女の子が…それにあの巨大なクラーケンは一体どこに消えたのだろう。待てよ?もしかして…。
「ん?」
抱き上げた灰色の髪の毛の少女の顔をもう一度見たあたしは、その視界の端でさっきよりも海底が強い光で金色に輝いていることに気が付いた。今度は一体何が光っているのだろうか。もう一度船に戻り、灰色の髪の毛の少女ををウィルに預けたあたしは、海底で強く輝く光の正体を確かめに行き、その光の正体を確認したあたしはあまりの喜びに海底で一人でもがいていた。その光の正体を海賊たちに報告するために水面まで泳いで行き、顔を水面から出したあたしはみんなに向かって叫んだ。
「みんなーー!!!!!!!!!!この海の底に、凄い量のお宝があるぞーー!!!!!」
それを聞いた海賊たちは、
「うおおおおおおおっ!!!!」
とこれまでで最も大きい歓声を上げた。
◇
さっきまでクラーケンが挟まっていた海底の裂け目の奥まで潜ったあたしが目にしたものは海の底に沈んでいた大量の金銀財宝、そして一つの宝箱。あたしたちはその金銀財宝を皆で協力してすべて回収して船に乗せた後、その量を確認したあたしたちは完全に有頂天になり、皆で肩を組んで大声で歌を歌いながら踊り狂った。
「おっ宝~!おっ宝~!わっしょ~い!わっしょ~い!」
何より楽しみなのは、お宝の山の中にあったこの一つの宝箱!いったいこの宝箱に何が入っているんだろう!?開けるのが非常に楽しみだが、こういうのはしっかりと地に足をつけてから開けるものだ。
「皆の者!陸へ引き返すぞーーー!!!」
あたしの掛け声に、皆は最高に大きな声で
「おーーーーっ!」
と返事をした。
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