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第七話 恋心

 

 かつてあたしは、恋をしていた。とは言っても、まだ恋とかそういう意味も分からないような年齢の話だけど。


「アル君!!ごめん!!!待った!?」


 9歳の幼き日のあたしは、かわいらしいワンピースを着て、手にお弁当を持ち、丘の上であたしを待っている一人の同い年の少年のもとへと走っていった。その少年はアル君。あたしはそう呼んでいた。あたしたちは欧州のネーデルラントと呼ばれている地域にある小さな町で暮らしていた。


 あたしたちは年も同じで、家も近く、そしてあたしは母を、アル君は父を亡くしていた。どこか似たような境遇のあたしたちは知り合ってすぐ仲良くなった。あまり裕福ではないあたしたちはお金を稼ぐために毎日一生懸命に働いていて忙しかったのだが、たまにある休みの日は、こうして二人で会うのが決まりだった。二人で丘の上で一緒にお弁当を食べたり、昼寝をしたり、夜には星を眺めたり、これと言った目的もなく二人で過ごす。そんな時間がただひたすらに幸せだった。


「君の瞳はきれいだ」


 アル君がよくあたしに言ってくれた言葉だ。アル君のその言葉はいつもあたしをたまらなく嬉しい気持ちにさせていて、そんな言葉をかけてくれるアル君と一緒に過ごす時間が幸せだった。人の命が木の葉のように簡単に吹き飛ぶこの時代、頼れる確かなものがこの世に何もない中、幼いあたしはいつも神様にお祈りをしていた。


「いつかアル君と結婚して、幸せになれますように」と。



 しかしそんなあたしの祈りも虚しく、あたしはあの日、すべてを奪われた。




 とある晴れた冬の日、その日はあたしの誕生日だったのを覚えてる。目が覚めると外がとても騒がしく、町のあちこちから大きな叫び声が聞こえてきた。一体何があったんだろうとあたしが思っていると、パパが凄い剣幕でお家に駆け込んできた。


「フラン!今すぐここを出るぞ!」


「え?」


 突然のパパの言葉を理解できず、あたしは呆然とするあまりだった。しかしそんなあたしの手を強引に引っ張り、パパはあたしを家から外に連れ出した。家から一歩外に出たあたしの視界に入ってきた光景は慌てて町から逃げ出そうとする人々の姿、そしてその奥から一歩一歩大きな足音を立てながら近づき、逃げ惑う人々を容赦なく虐殺していく鎧を身に纏ったエスパニア帝国軍兵士たちの姿だった。


 あたしの住む町に突然現れたエスパニア帝国の軍隊は、必死に命乞いをする住民を無差別に攻撃し、見るも無残な姿へと変えていく。当時は分からなかったが帝国軍があたしの住む街を襲った理由は、この街で暮らすあたしたちと、帝国では神様を信仰する方法が異なる。そんな《《小さなこと》》が原因らしい。帝国の奴らは顔も見たこともないあたしたちを《《悪魔に魅入られた異端者》》と呼び、無差別に襲い、この街から追い出したかったらしい。


「フラン、俺はもう動けない…お前は一人で逃げるんだ…」


 流れ弾に当たってその場に倒れて動けなくなってしまったパパがあたしにそう言った。あたしはパパのその言葉を受け取り、迫る火の手の中、これまで一人であたしを育ててくれたパパを見捨てて必死に走った。無我夢中で走っていると、あたしは一人の少年とぶつかった。その少年は他でもない、アル君だった。


「アル…君…どこに行くの?」


 アル君は明らかに逃げる方向と逆の方向へ走っていた。じゃないとあたしとぶつかるはずがない。アル君はあたしに言った。


「お母さんがいるんだ…助けに行かないと…それとフラン、お誕生日…おめでとう。そして、さようなら…」


 それだけあたしに言うと、アル君は火の手の上がっている方向に向かって走っていった。


「どうして…」


 アル君は優しかった。優しいからこそ、あの場で母を助けるために炎の中へと飛び込んで行ったのだろう。パパを見捨てて逃げた自分とは違って。


 必死に走り、船着き場につくと、ブリテン王国へと向かう小船が出ており、それに乗るため避難民の長蛇の列ができていた。ブリテン王国はあたしたちを異端扱いしない数少ない国だからだ。あたしの番が来て、小船に乗り、少しだけ沖に出ると、陸の方から悲鳴が聞こえてきた。


 悲鳴が聞こえる陸を見ると、そこでは帝国軍が、避難民を無差別に殺していた。そして罪のない住民を無残な死体に変えている帝国軍の先頭に立っていたのは、真っ黒の鎧で顔を含む全身を覆った一人の騎士。その身もすくむような恐ろしい姿をあたしは今でも覚えている。その騎士はあたし達の乗る船に向かって手を突き出すと、その手のひらから巨大な大砲のような威力の魔法が放たれ、あたしの乗る小船を木っ端みじんに破壊し、あたしは海へと投げだされた。


 今でもよく生きてたなって思ってる。その時の衝撃で右目と右腕を失ったけど。何時間海の上を漂ったかわからない。冷たい海の上を漂いながら、朦朧とする意識の中、自分の今にも消えかかっている命を一秒でも繋ぎとめようと必死に呼吸を繰り返していた。そんな時、たまたま通りかかったブリテン王国に向かう奴隷船に拾われ、そのまま奴隷として売り飛ばされてしまったあたしは、長い奴隷としての人生を歩むこととなったのだ。


 どうしてアンドロメダ将軍に自分に秘められていた特別な力を知らされた時、あたしが海賊になろう。そう思ったか。もちろん山盛りのフルーツを食べたいという気持ちもあった。だけどそれなら海賊になる必要なんてない。水の支配者(アクア・マスター)の力を使えば、働き口などいくらでも見つかっただろう。適当に仕事を見つけ、安全な暮らしを送ることだってできたのだ。だけどそうしなかった。あたしは力が欲しかったのだ。


 あたしの家、父、アル君、そして幸せな未来。それをすべて破壊した悪魔の帝国、エスパニア帝国を倒すだけの力が。あたしに特別な力があると知ったあの日、あたしは口には出さなかったが心の中で誓った。いつかこの海を支配する海賊になって、あたしからすべてを奪ったエスパニア帝国に必ず復讐をする。だからこそあたしはその日まで死ぬわけにはいかないのだ。

読んでくださり本当にありがとうございます!


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