第三話 初戦闘
商船の甲板から飛び降りたあたしは、海の中にボチャッと飛び込んだ…のではなく、水面の上に立っていた。
なるほど…これがあたしの力。
アンドロメダ将軍があそこまで絶賛するだけはある。水面の上に立つなど造作もないということか。初めて確認したその力の強大さを実感し、心拍数が高まる。
水面の上に立ち、海賊たちの船の方向へゆっくりと歩いていく。水面を歩くという超人的な行動をしているあたしの姿を見て、完全に呆気に取られている海賊たちに向かって、アンドロメダ将軍からもらった王家の紋章が刻まれた札を高らかに見せ、大きな声で堂々と叫んだ。
「我が名はフランシス=ネルソンだ!海賊の諸君、この紋章が目に入らぬか!これはブリテン王国王家の紋章であるぞ!」
それを見た海賊集団は、ざわざわとお互いの目を見て、信じられないといった様子でおびえている。それにしてもこの海賊ども、ひどくやつれているな。着ている服もあたしが奴隷として働いていた時に着ていたものと同じくらいボロボロであり、手にしている武器も、武器と呼んでよいのかわからないくらいのナマクラばっかりだった。
「諸君に告ごう!もし諸君らが今この場であたしの命令に従うと言うならば、その命は助けてやろう!しかしもし万が一あたしには向かうというなら、今ここで貴様らの人生は終わると思え!」
決まった…とあたしは心の中でドヤ顔を浮かべる。人を従えたくば、決して弱腰になるべからず。何かの本に書いてあった文章だが、やはり知識は人を救うものだ。
「はっ…ははーーーーっ!ネルソン様の仰せのままに!!」
と、目の前のみすぼらしい海賊集団は、あたしの軍門に下ることとなった。
初戦は戦わずして勝利。幸先は最高だ。ひとまずは、神に感謝だ。
◇
「で、お前たちは一体なぜ海賊などという野蛮な行為をしている。それに見るからに、そんな装備ではまともな船は狙えまい。もしあたしが止めずに、今の客船をお前たちが襲ったとしても、船員共が応戦していたらどうなるか分からなかったと思うぞ?」
スチュアート王国へと向かう商船の船長に別れを告げ、それを見送ったあたしは、海賊集団のボートの一隻に乗り、海賊集団のリーダーの男に尋ねた。彼の名はウィル。整った顔立ちをしたあたしと年の近い成年だ。本名はウィリアムらしいのだが、面倒くさいのでウィルと呼ぶことにした。それにしてもこの海賊集団、遠くから見た以上に近くから見たらみすぼらしいな。ウィルも酷く痩せており、奴隷として暮らしていたあたしよりも明らかに栄養状態が悪いのが一目でわかった。
「へ、へぇ…ネルソン様…俺たちはですね…。」
「フランと呼んでくれ。それに敬語は必要ない」
年の近い人間から敬語を使われるのはあまり好みじゃない。それにしてもこの偉そうな口調、疲れるな。頑張れあたし。上に立つものとしてボスを演じるのだ!
「あ、ああフラン。俺たちはあんた達の暮らすブリテン王国のすぐ北にある、スチュアート王国の小さな漁村で暮らしてたんだ。だけど半年くらい前から税が倍になって生活が苦しくなったんだ。だから弱そうな船を襲って、金目のものを奪おうと思ったんだ」
なるほど、生活が苦しく、海賊をしなければ生活できないというわけか。
「で、その税の取り立てはいつあるんだ?」
あたしはウィルに尋ねる。
「多分、今頃、俺たちの村に、海賊集団が税の取り立てに来ているはずだ」
「海賊が税の取り立てをしているのか?」
どうもおかしな話だと思い、あたしはウィルに尋ねる。
「税金と言っても国に払う税金じゃねぇ。スチュアート王国にそんな力はないからな。エドワード=ブラック提督、黒髭って名前なら聞いたことあるだろ?実質的にスチュアート王国を支配する海賊だ。俺たちはあいつに毎月一定の額の金を払わないといけない。なあ頼むよ。ブラック提督は本当に恐ろしいやつだ。税を払わないとか言ったら一体何をされるかわからない。このままだと村に住む村人のみんなの命が危ないんだ!」
なるほど。別にこいつらを助けてあげたいとかそういうわけではないのだが、少なくともこれでブラック提督という大物と戦う機会をえたのだ。そいつと戦い、自分の力を示して海賊どもの主人として君臨する絶好の機会だろう。これを逃す手はあるまい。
「よし、あたしがすべて解決してやろう。皆の物、あたしを村まで案内したまえ!」
◇
「本当に大丈夫なのか?相手はあのブラック提督なんだぜ?」
と、もうすぐ彼らの住む漁村というところまで来て、ウィルは急におびえた声であたしに尋ねた。ここにきていきなり弱腰になるなよと少し思ったが、アンドロメダ将軍に言われた事を思い出す。
エドワード=ブラック提督。通称『黒髭』。
そいつの話はアンドロメダ将軍から聞かされていた。というより、そいつを味方につけるためにあたしをスチュアート王国へ送ったといっても過言ではないほどの、本任務のメインターゲットだ。ブリテン王国が最も被害を受けてる海賊の一人で、その黒く長く伸びた髭が特徴の大海賊。スチュアート王国の海賊たちを束ねているとの噂もあるらしく、アンドロメダ将軍が言うにはあたしの力をもってしても苦戦を強いるほどの実力の持ち主らしい。苦戦は必至だが、いずれは相対しなければなければならない相手だ。面倒な仕事は早めに済ませた方が後々楽なのだ。と、長い長い奴隷時代の経験があたしに教えてくれた。
「問題ない。あたしを信じろ」
と、あたしはウィルに伝えた。ウィルはおびえた目をしたまま、頷くと再びボートを漕ぎだした。
ボートが彼らの漁村のある浜辺の沖に到着すると、ウィルの言った通り、2隻の黒い旗を掲げた巨大な海賊船が漁村に停泊していた。これがブラック提督の海賊集団かというのは一目でわかった。浜辺の上では屈強な体のいかにもな連中が、必死に頭を下げる村人たちを脅して金を奪おうとしているのが見える。
あたしたちが近づいていることに気づいた見るからに屈強な海賊の一味が、それを船に乗っている仲間達に伝えると、船の上に真っ黒な長い髭を伸ばした巨大な男が現れた。彼が『黒髭』と名高いブラック提督であることは誰の目に見ても明らかだろう。
「よぉ!ウィル!久しぶりだなぁ!金をもらいに来たぜ!さっさと出すもんだしな!!」
ブラック提督はものすごい大きな声で船の上からウィルに向かって叫ぶ。その雷のように轟く巨大な声を聞き、ボートの上でおびえて縮こまってしまったウィル見て、海賊船の上では大勢の男たちが大声で笑っている。あたしはボートの上で立ち上がり、ブラック提督の乗る巨大な海賊船を見上げた。他のみすぼらしい服を着た村人の中に、一人それなりにきれいな服を着こなした少女が混じっていたことに気がついてか、ブラック提督とその仲間たちはあたしの姿を不思議そうに見つめる。船までの距離はざっと200メートルほど、あたしは再び王家の紋章を高く掲げ、ありったけの声で叫んだ。
「我が名はフランシス=ネルソン!ブラック提督率いる海賊とお見受けする!我はブリテン王国の正式な特使だ!そしてブリテン王国の名のもとに諸君らに告ぐ。海賊たちよ、ブリテン王国の軍門に下れ!」
しかし、海賊船から帰ってきたのは大きな笑い声。そしてブラック提督が、あたしの声よりはるかに大きな声で叫んだ。
「ガハハハハハッ。誰かと思ったらブリテンの腰抜けか!!!偉そうなこと言いやがって!ブリテンの分際で、俺たち海賊に向かって自分たちに従えだって!?面白い冗談言ってくれるじゃねぇか! おいお前ら!腑抜けたブリテン野郎に礼儀を教えてやれ!海賊のな!!!!」
ブラック総督の号令とともに、2隻の海賊船は、こちらに向かってその巨大さからは考えられない速度で向かってきた。
「ひえええええええっ」
と、あたしのお仲間達は完全に迫り来る敵を前に、おびえた声を上げながら全速力で後退しようとしている。
「ウィル、お前の持ってるオールをあたしに貸せ」
あたしはウィルにオールを貸すように言ったが、ウィルはおびえた顔で迫りくる荒くれ物を見つめるばかりで体が動いていない。あたしはそんなウィルを見かねてウィルの持ってるオールを引ったくり、海へと投げ捨てた。オールはポチャッという音を立て、海の上にぷかぷかと浮いた。
「まあ、こうなることは想定内だ。さっさと終わらせよう」
あたしは懐から先ほど中身を飲み干し、空になった水筒を取り出すとその中に海の水を入れ、3回飲んだ。海の水はしょっぱいが仕方ない。今は少しでも多くの水が必要だ。
「神よ、我を護りたまえ」
そう祈り、あたしは先ほど投げ捨てたオールの上に飛び乗った。
「さあ、その本領、とくと見せてもらおうか。あたしの使える唯一にして最強の能力、水の支配者よ」
触れた水を魔力に変換し、その魔力で最強の水魔法を意のままに操ることのできる、能力水の支配者。この能力の所有者の特徴は、常人では考えられない量の水を飲むことが出来る。片腕と片目を失った小柄でか弱い身体を持ち、一つの魔法も扱うことのできない間違いなく陸上では最弱なあたしだが、水という資源が無尽蔵にあるこの海上という戦場において、その力を持つあたしは正に、最強の存在と言えるだろう。
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