第二話 海賊を目指して
人はだれしも大切なものを持っている。家族とか友人とか恋人とか。だけど人がどれだけ必死に大切なものを守ろうとしても、それらは簡単に手から零れ落ちてしまう。
それはあたしも同じだ。
あたしもかつて大切なものを持っており、それらをすべてを失った経験がある。原因は《《小さなこと》》だった。だけどその《《小さなこと》》はあたしからすべてを奪った。それ以来あたしは空っぽな日々を送っていたと思う。生きる希望も、夢も目標もなく、ただ奴隷として言われた通りの仕事をこなす日々を。だけど今は違う。あたしは生きるための目標を手に入れたのだ。失ったものを取り返すことはできなくとも、あたしに出来ることが一つだけ見つかったのだ。
◇
ブリテン王国の首都ロンドンにある港、ロンドン港。船着き場をアンドロメダ将軍からもらった小奇麗な白いシャツと黒い長ズボン、眼帯、偽腕を身につけ、後ろで一つに結んだ金色の髪を風に揺らしながら、停泊しているスチュアート王国に向かう中型の商船を見つけ、それに乗せてもらうべく歩いている。最初は乗船を断られたが、商船の船長に、アンドロメダ将軍からもらったブリテン王国の王家の紋章の刻まれた札を見せると、快く船に乗せてくれた。目的地はブリテン王国のすぐの北に位置する王国、スチュアート王国。
◇
船が港を出航し、しばらく時間がたった。船の甲板に立って風を感じ、船に打ち付けられる波の音を聞きながら、昨日兵舎で食べたフルーツ、本当においしかったなぁ~。と口の中が寂しくなったあたしは、口の中に残っているフルーツの味を思い出し、ゴクリと唾を呑む。するとその時、カンカンカンと商船の後方に取り付けられている。危険を知らせる鐘が鳴った。
「海賊だー!!!海賊が現れたぞー!!!」
やれやれ…さっそく仕事か…とあたしは客船の甲板の先頭に歩いていき、海を見下ろす。見ると、小さな手漕ぎボートが2隻、こちらに向かって近づいてきている。人数は10人ほどだろうか。皆手には弓や、剣を持っていた。商船の船長に船の奥に隠れるよう言われたが、「必要ない」と答えると、「私は責任取りませんよ」と言って船長は船の奥へと隠れていった。あたしは深呼吸し、心の中で神に祈りを捧げる。そして決心がついた。目をカッと見開き、懐から水筒を取り出し、それを飲み干すと、船の甲板から海にむかって飛び降りた。
さあ、ここからがあたしの海賊としての人生の第一歩だ!!
◇
「おまえにこの国を出て行ってもらう」
試験の後、突然呼び出されたと思ったらそうアンドロメダ将軍に言われ、完全に意気消沈していたあたしに、アンドロメダ将軍が、「まあまあ落ち着け」と言った。落ち着けって言われても、ここを出ていったらあたしに行く当てはないんだよぉ…。と涙を浮かべるあたしを見て、アンドロメダ将軍が使用人を呼び、
「おい、この娘はフルーツが好きらしい。食べさせてやれ」
と言った。そして自分の前に出された山盛りのフルーツという夢のような光景を見て、ついさっきまでの絶望した気持ちはどこかに吹き飛び、あたしは
「ふわあああああ~~~~~~!!!」
と思わず歓喜の声を上げる。
「これ、食べていいんですか???」
そう尋ねるとコクリとアンドロメダ将軍が頷いた。それを見たあたしは我を忘れてその山盛りのフルーツを体の中に詰め込んだ。フルーツを食べるなんて何年ぶりだろう。口の中に広がる甘酸っぱい風味が、あたしに極上の幸せをプレゼントしてくれた。あたしがフルーツを食べきったところで、アンドロメダ将軍が口を開いた。
「それでは、本題に入ろう。君にこの国を出て行ってもらう」
あ、そうだった。あたしこれから追放されるんだった。でもいったいなんであたしを追放しようなんて言うんだよ、しかもこんなに山盛りのフルーツまで食べさせて。
「国を出て行けとは言ったが、君を国外に追い出すのではない。フランと言ったかな。君には私から極秘任務を授けようと思うのだ」
「極秘任務…ですか?」
「そうだ。君にこの国の命運をかけた任務を任せる。その為に君に、ブリテン王国の北に位置するスチュアート王国に行ってほしいのだ」
どうやら国を出て行けというのは国外任務についてほしいと言った意味だったらしい。それにしても身元不明のこんなあたしに、いったい何の任務を与えようというのだろうか。
「今我がブリテン王国は未曽有の危機に瀕しておる。国の財政は困窮し、南では悪しき大帝国こと、エスパニア帝国がさらに力を増し、我が国を滅ぼす時を虎視眈々と狙っておる」
「エスパニア帝国…」
その名前を聞いて、あたしの心の奥底に眠っている記憶がフラッシュバックし、あたしはこぶしを握り締めた。
「幸いにもブリテン王国は島国で、それに経済的価値の薄い国だ。未だエスパニア帝国の征服を免れているが、それももう時間の問題だろう。いつ帝国が我がブリテン王国に攻めてくるかわからない。そこに君が現れてくれた。君の試験の結果を見て驚いたよ。君はとても賢い、そして何より、君は《《特別な力》》を持っていることが分かった。そんな君に国の命運をかけた任務にあたってほしいのだ」
「なるほど、大体わかりました。それで、スチュアート王国であたしは何をしたらいいんですか?」
とあたしはアンドロメダ将軍に尋ねる。
「君にスチュアート王国に住む海賊達を、我が国の仲間に引き入れてほしいんだ」
「海賊…ですか??」
どういうことだ?と話を飲み込めないあたしを置き去りに、アンドロメダ将軍の話は続く。
「我が国は貧しい。国のために戦う兵士たちの給料もろくに払えず、兵士を選抜せざるを得ないという始末だ。とてもじゃないが、帝国と渡り合えるほどの軍隊を持てない。だからこそ、我が国のために働いてくれる強力な軍隊の代わりに、海賊を仲間に加えたいのだ。そしてその役目を、《《特別な力》》を持つ君に任せたい。私はそう考えたのだ。」
ほんとにおかしな話だ。さっきアンドロメダ将軍の言った、あたしだけが持つ《《特別な力》》とやらもそうだが、一国のそんな大事な任務を、身元不明のこんな小さな小娘に任せるなんて、どうかしてるよこの国。いや、悪しき帝国と名高いエスパニア帝国から国を守るために頼れる最後のものが、あたしに隠されているその《《特別な力》》とやらなのかもしれない。しかしそれにしても無茶苦茶すぎないか?とあたしが返事を悩んでいると、
「もし君が任務に成功すれば、もう一度山盛りのフルーツを君にご馳走することを約束しよう。君の望むだけ」
「山盛りの…フルーツを…あたしの…望む…だけ?」
その言葉を聞き、あたしはゴクリとつばを飲み込む。この策士め…あたしにフルーツの美味さを思い出させ、それを餌にあたしを従える魂胆か…。とあたしはアンドロメダ将軍の方を見る。その狡猾な策士はニコニコと笑顔を浮かべ、「承諾してくれるな?」と無言の圧をあたしに向けている。
「し…仕方ないですなぁ…確かに約束しましたよ?アンドロメダ将軍閣下。山盛りのフルーツを、あたしの望むだけ、ですからね?」
アンドロメダ将軍はコクリと頷いたのを見たあたしは椅子から立ち上がって大きな声で威勢よくアンドロメダ将軍に宣言した。
「わかりました。このフランシス=ネルソン、その任務、神に誓って成し遂げることをここに約束しましょう!」
こうしてあたしは『ブリテン王国に海賊を味方につける』という任務を遂行するため、ブリテン王国のすぐ北に位置するスチュアート王国という、小さな国に向かうこととなった。あたしの力のこととか、そんな事が出来るのかなんて分からないけど、やれるだけやってみよう。どうせ一度失いかけたこの命なのだ。あたしは心の中でそう誓った。
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