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第一話 隻腕隻眼の少女

 魔法が存在するとある世界。ユーラシア大陸の欧州と呼ばれる地域の北に位置する小さな島国、ブリテン王国。その首都ロンドンの町をよろよろと歩く、しわくちゃの金色の髪に赤い瞳をした、右目と右腕の下半分を失っている少女。それがあたし、名前はフランシス=ネルソン。金持ちの屋敷で奴隷として働いていたけど、先ほど「もうお前は必要ない!」と言われて家を追い出された。今は行く当てはないしどうしたらいいかわからず、途方に暮れている。


「美味しそうだなぁ~」


 街をぶらぶらと歩き、市場で売られているフルーツを眺める。フルーツはあたしの大好物だけど、残念ながら人生でほとんど食べたことはない。山盛りのフルーツをおなか一杯に食べれる。そんな人生を歩みたかったなぁ~。とため息をついたあたしの目に、町に建てられた看板が映った。


「兵士採用試験。正午より開催。…人材求む…老若男女問わず受験可能。合格した者には兵士として腹いっぱいご飯が食べれる毎日を約束する…受験希望者は兵舎に集まれ…」


 看板にはそう刻まれており、街に飾られた巨大な時計を見ると、時計はもうすぐ正午を指すところだった。兵士になれる望みは薄そうだが、他にありつけそうな職もない。受けるだけ受けてみるか。そう言ってあたしは兵舎に向かって歩いて行った。


 小柄でガリガリ、おまけに右目と右腕を失っている。そんな見るからに兵士に向いてなさそうなあたしを見て、門番の兵士は一瞬しかめっ面をしたが、受験番号の書かれた気の札を渡してくれた。番号は62。兵舎の広い訓練場で、大勢の屈強な若者から、頭のよさそうな人まで様々な人が談笑しながら待ち時間をつぶしているのを見て、案外受験する人多いんだなと思った。


「よう嬢ちゃん、お前も兵士志望かい?」


 大柄の小汚いおっさん3人組があたしに高圧的に話しかけてきた。


「一応、そうですよ~お互い、頑張りましょうねぇ~あはは~」


 こういう連中とは関わらないのが吉だ。そう思ってあたしは愛想笑いを浮かべ、さりげなくその場から去ろうとするが、3人の中の一番でかい男に、首根っこをその太い腕でつかまれた。


「ハハハハハッ。腕も眼も十分についてないお前みたいな女が兵士にね~。どうだ、どうせお前なんか兵士にはなれないんだから落ちた後は家で働けよ。その様子じゃ、どうせ行く当てもないんだろ?イイコトしてやるよ。俺の名はガンス。今日からお前のご主人様だ。ハハハハハッ」


「あ、ありがとう…ございます。その時は、よろしくお願いします」


 とりあえず下手に反抗せず、必死にその場から去ろうとする。しかしガンスの腕は強く、どれだけ抵抗してもビクともしなかった。


「皆の物!!!注目!!!!」


 大きな声が訓練場に響いた。ガンスがあたしをつかむ腕を離すと、あたしの体は地面にボテッと落下した。声の主の方を見ると、立派な服を着て、ひげを生やした、見るからに高貴な男性が立っていた。


「私の名はロバート=アンドロメダ! ブリテン王国の将軍を務めている。今日はよくぞ皆集まってくれた。これより諸君らにはいくつかの試験を受けてもらう。そして合格した者には、女王様の兵として戦う栄誉と、食うものに困らない生活を授けよう!!!」


 うおおおおおおっ!!と歓声が上がる。何はともあれ、頑張らないと。兵士になって絶対に山盛りのフルーツを食べられる生活を、手に入れるんだ!!!!


 ◇


「もう駄目だ…おしまいだぁ…」


 数時間が立ったと思う。行われた試験は剣術の試験。体力の試験。魔法の試験の3つ。自分がどの試験においても最低の点数をたたき出していることを確信し、あたしはその場にひざまずいた。運動神経も良くないが、特に魔法に関しては最悪。どれだけ頑張っても石ころ一つ動かせやしなかった。ギンギンに照らす太陽の中過酷な内容の試験内容をこなしたせいで、あたしはとても疲れ、そしてのどが渇いた。水が飲みたいな…そう思ったとき、兵士が次の試験の内容を大きな声で発表した。


「次の試験は、大飲みの試験だ!!!!!お前たちには、この大樽の中に入っている水を、できる限り飲み干してもらう!」


 うっひょ~~~!訳わかんない試験だけど、渡りに船~~~~!!

 のどがカラカラだったあたしは、自分の番が来るのを今か今かと待っていた。一気飲みの試験の内容は、大柄の男くらいの大きさの樽に入った水をどれだけ飲めるかというもの。樽に入った大量の水を大の大人が必死に飲もうとするがほとんどの人が途中でギブアップしていた。


「次、62番!!」


 カラカラに乾いたのどを潤せるという事実に、ウッキウキで水がいっぱいに入った大樽の前に立ったあたしは樽の中に入っている水をがぶ飲みし、一気に飲み干してしまった。


「うっひゃ~~。人生でこんなにおいしいお水飲んだの初めて~~~。もう幸せ」


 と、それが何のための試験なのか理解しないまま、のどを潤し、幸せいっぱいの気持ちでその試験を終えた。



 兵士たちの指示に従い、あたしたち受験生は兵舎の中の大きな部屋に案内され、指定された席に座らされた。まえから兵士が羊皮紙を配っている。


「最後に、筆記試験を行う。それでは、始め!!!」


 将軍の合図とともに皆問題を解き始めた。しかし

「俺は字が読めねぇ~無理だよ~」と諦めるものは多かった。しかしあたしは違った。奴隷出身でまともな教育を受けてこなかったあたしだが、働いていた家に大量に本があり、よく主人の目を盗んで読んでいたので、文字を読むことはできるのだ。そしてさらにここに書いてある内容。これらは全部本で読んだことある内容だ。これならいけるっ!!!!


 最後の試験である筆記試験が終わってから一時間ほどたった。訓練場で待たされている間、案の定ガンスたちに剣や魔法の才能がないことをバカにされ、鬱陶しく感じていた時、アンドロメダ将軍が兵士を連れてやってきた。


「これより、合格者を発表する。番号を呼ばれた物はここに残れ、呼ばれなかったものは去れ!よいな!」


 あたしは「ガンスの奴隷だけは嫌だ!お願い合格してて!」と必死に心の中で祈る。もう奴隷になるのはこりごりだ。あたしの番号は62。お願い!呼ばれて!


「1,3,5…」


 徐々に自分の番号が近づいてくる。あたしの緊張はどんどん高まっていった。


「59,60、61…」


 お願い、呼ばれてあたしの62!!!!!


「63…69…」


 終わった…落ちた。自部の番号を見直して試験に落ちたことを再認識し、絶望のあまり膝から崩れ落ちた。さようなら、あたしの幸せな人生…さようなら、あたしのフルーツをたくさん食べる夢…


「ハハハ嬢ちゃん、やっぱお前は駄目だったか。俺たちは全員合格だったけどな。まあ、そりゃ当然だよな~。これからは、このブリテン王国の兵士のガンスさまがたっぷりかわいがってやるよ。俺の奴隷ちゃん」


 得意な表情を浮かべ、あたしのもとにやってきたガンスに髪の毛を掴まれ、頬をこすりつけられる。悔しいけど、こいつの言うとおりにしてこいつの奴隷になるしか生きる道はない。どうせろくな扱いは去れないだろうけど、もういいんだ。全部どうでもいい。あたしの人生なんて、《《あの日》》既に終わっていたんだから。


「62番の小娘!!!」


 するとその時、あたしの番号を大きな声でアンドロメダ将軍が呼んだのが聞こえた。あたしが恐る恐る返事をすると、あたしの体を鷹のような目つきで睨みつけ、大きな声で、


「こっちに来い」


 そう言い、兵舎の中へと入っていった。あたしは状況を飲み込めないまま、駆け足で付いて行った。



 兵舎の廊下をアンドロメダ将軍の後ろについて歩きながら、あたしは心の中で勝ちを確信していた。たしかに剣も魔法も使えないあたしに兵士としての才能は無い。だが筆記試験だけは手応えがあった。きっとあたしの筆記試験の結果を見て、将軍はあたしを兵士じゃなく、もっと上の参謀クラスの人材だと見抜いたんだ。だからわざわざあたしをこうやって一人だけ呼んでいる。そうに違いない。きっとガンスたちもあたしが自分たちより出世してしまうのを察して、「神よ!(ジーザス!)」とか叫んでいるんだろう。そんなことより、これからどんな素晴らしい生活が待っているんだろう。それが楽しみで仕方ない。


「座りたまえ」


 と、将軍があたしを部屋に案内し、腰掛けた豪華な椅子の向かいにある椅子に、座るようにあたしに言う。言われた通りあたしはそこに座った。


「小娘、名は何と申す」


「えっと、フランシス=ネルソンです。人からはよくフランと呼ばれています」


 恐る恐る答える。礼儀作法はほとんど知らなかったため、無礼がないか少し不安だったが、アンドロメダ将軍は何事もないように質問を続けた。


「なぜ兵士を目指そうと思った」


「えっと、山盛りのフルーツをお腹一杯食べたいからです」


 下手な嘘を言って突っ込まれるより、正直に言おう。あたしはそう思い、包み隠さず正直に答えた。アンドロメダ将軍は手に持っている羊皮紙を真剣に見つめている。一体どんな素晴らしい役職をもらえるんだ?ドキドキのあまり心臓の鼓動が止まらない。

「フラン、お前にこの国を出て行ってもらう」


 へ????


 予想だにしていなかったその言葉に、頭の中に?マークが浮かぶ。


「あ、あの、今、なんとおっしゃりました?」


 あたしはアンドロメダ将軍の口から出た言葉が信じられず、思わず聞き返す。


「聞こえなかったか?お前にこの国を出て行ってもらう」


 そんなあああ~~~どうしてそうなるの~~??


 あたしは頭を抱え、天を仰ぎ「神よ!(ジーザス!)」と叫んだ。


読んでくださり本当にありがとうございます!



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