第十二話 新たなる旅路
「カリブ海?なんですか?それ」
とウィルが間抜けな声でアンドロメダ将軍に質問する。
カリブ海とは、新大陸のちょうど真ん中あたりにある海(中南米あたりにある海)で、たくさんの島が密集している。この国からはなかなか距離が離れているが、一体どうしてそんなところにあたし達を…
「で、そのカリブ海で俺たちは何をすればいいんすか?」
とブラックがアンドロメダ将軍に質問する。
「諸君ら海賊にはカリブ海の島を拠点とし、エスパニア帝国の輸送船を襲い、その金品を奪ってほしいのだ」
おいおい…なんだ?そのヤバそうな命令…。そう思って女王の方を見ると、女王は美しい笑顔を浮かべながらあたし達を見ている。この女王様、白く美しい肌と装いをしていらっしゃるが、心の中はなかなか黒そうだ。
「諸君ら海賊には、カリブ海の島を拠点にエスパニア帝国の船を襲ってもらう。そして奪った金品の半分をブリテン王国に税として治めてもらいたい。もちろんただ命令に従えと言ってるわけではない。君たち海賊の家族の生活に関してはブリテン王国が保障しよう。どうだ?悪い話ではなかろう?」
全くこの国のお偉いさん達は人の足元を見るのが上手いな。いつ死ぬかもわからない海賊という職業は収入が安定しない。家族を養ってくれるという保証をされるということが、海賊達にとってどれだけ大きなことか、あたしは知っていた。
まあつまり、あたしは信仰を、彼らは家族をこの王国に人質に取られているというわけだ。ブリテン王国という弱小国がなぜこれまでエスパニア帝国の支配を免れて来たのか、少しだがわかった気がした。この国のお偉いさん方はよく言えば聡明で、そして策略家だ。悪く言えば性格の悪い連中と言えるだろう。
カリブ海を拠点にあたし達海賊が帝国の輸送船を襲撃、奪った財宝の一部をブリテン王国に納める。これによって、エスパニア帝国の財源を削ぎ、ブリテン王国の富とする。なかなか陰湿な作戦だということはさておき、これは神が与えてくれたとしか思えない好機だろう。ブリテン王国という後ろ盾を確保しながら帝国の奴らに復讐出来るのだ。これを利用しない手はない。
「承知いたしました。このフランシス=ネルソン。その任務、必ず成し遂げて見せましょう。お前たちも異論無いな?」
とウィル達の方を見る。ウィル達も真剣な目で頷いた。
こうして、あたし達海賊はブリテン王国の命令のもと、新大陸のカリブ海へと向かうことになったのだ。
◇
王宮を出たあたしたちは、アンドロメダ将軍に連れられ、ロンドンの街を歩いていた。あたしはアンドロメダ将軍に買ってもらった袋詰めのフルーツをもしゃもしゃと食べており、その気分は最高潮に達していた。アンドロメダ将軍に連れられてあたしたちはおしゃれな服屋に入った。目的は粗末な服を着ているウィルとクララにピッタリな服を買ってもらうこと。ウィルのファッションは革製のジャケットとズボンを着、頭には紺色の布を海賊巻きにするということで早々に決定されたのだが、クララがどんな服を着るべきかという議論は熾烈を極めた。とはいってもウィルとアンドロメダ将軍が言い争ってただけなんだけど…。クララにお互いが似合うと思う服を着させてファッションショーを堪能しつつ、ウィルとアンドロメダ将軍は、クララにどの服が一番似合うのかについて、身分の違いを完全に忘れて喧嘩を始めていた。
「それにしてもあの将軍様、凄い面倒見のいいお方ですね。なんつーか。親父を思い出します」
とその様子を眺めながらブラックに言われ、確かにそうだな。とあたしも納得する。もちろんここであたし達に高待遇をして手なづけたいという思惑もあるのだろうが、純粋に面倒見がいいおじさん。そういった印象をアンドロメダ将軍からは受ける。
「じゃじゃーん!!」
ウィルとアンドロメダ将軍の意見がようやくまとまったのか、ついにクララの着る服が決まったようだ。白いシャツの上に緑色の上着を羽織り、そして黒いひざ丈のスカートと白タイツを履いたその姿は、実用的だがクララの美しさを存分に引き出していた。
「ありがとう…ございます…わたし…とても…嬉しいです」
かわいい声と振る舞いでお礼をしたクララ。店に吹き込むそよ風に揺らされる髪の毛はとその美しい姿は、おとぎ話に出てくる妖精のようだった。
こうして用事を済ませ、ロンドン港に到着したあたしたちは、目の前に用意されていたアンドロメダ将軍からの巨大な《《プレゼント》》を見て度肝を抜かした。
「見たまえフラン。私から君へのささやかなプレゼント。我が国の最高の技術を用いて建造した我が国最強の戦列艦。ヴィクトリー号だ」
とアンドロメダ将軍はどうだ驚いたろう?と言った感じでフンッ!と鼻を鳴らしている。
「将軍…」
「どうしたのだ?フラン、嬉しくて言葉が出ないのか?」
あたしが何かを言おうとしているのに気が付き、アンドロメダ将軍がこっちを向いた。
「ヴィクトリー号って、ちょっとダサくないです?名前」
「そうか?でも縁起が良かろう?」
「まあそうですけど。とにかく、ありがとうございます」
アンドロメダ将軍のネーミングセンスはさておき、その戦列艦の見た目は非常に立派なもので、まさに海に浮かぶ龍のようだった。
「この船には君のためにある特別な改造を施してある。必ず君を守ってくれるだろう。それではフラン、いや、フランシス=ネルソン。君に神の祝福があらんことを」
アンドロメダ将軍との最後のやり取りを終え、あたしの率いる「ネルソン海賊団」はヴィクトリー号と共に新大陸の海、カリブ海へと船を進めたのだった。
◇
「今将軍と宮殿を出て行った者はどのようなものなのだ」
フランたちが宮殿を去ったあと、一人のたくましい褐色の髪をした大柄の青年が王宮で働く役人の一人に尋ねた。白く美しい肌に刻まれた数多の傷と、しっかりとした服を着ているにもかかわらず目視で確認できるほど浮き出たその筋肉からは、その青年の肉体が限りなく鍛えられていることが容易に想像できた。
「これはこれは、チャールズ皇太子さま!ご機嫌麗しゅう。今の者たちは下劣な野蛮な連中です。皇太子さまがお気になさることなど何もございません」
と、王宮の役人はその質問に答えることを断ろうとしたが
「いいから教えろ」
とチャールズ皇太子は語気を強め、問いただしたため慌てて皇太子に話した。
「は、はい…申し訳ございません。わ…わたしもそこまで詳しくは知らないのですが、アンドロメダ将軍の虎の子の娘が、何やら海賊を従えたらしく…女王陛下に謁見しに来たとか…まったく宮殿を汚れた靴で汚してほしくないものですな」
「その娘について詳しく聞かせてくれるか…?」
「は、はい…たしか金色の髪に赤い瞳を持っている娘で…確か名前はフランとか言ったと思います…」
「金色の髪に…赤い瞳…まさか…!」
チャールズ皇太子が王宮を飛び出したときには、すでにアンドロメダ達の姿はそこにはなかった。
読んでくださり本当にありがとうございます!
いいね、ブックマークなどよろしくお願いします!




