第十一話 妖精の女王(フェアリー・クイーン)
ブリテン王国の首都、ロンドンにある王宮の女王の部屋にて。
「面を上げよ」
そう言われ、あたしたちは顔を上げ豪華な椅子に凛とした姿勢で腰かけた、ブリテン王国の女王、エリザベス女王の顔を見上げる。
女王は、とても美しい方だった。白い肌に美しい髪、そして慈愛に満ちているがその奥にどこか悲しみが宿っているその瞳が、あたしたちを見つめた。巷では妖精の女王という愛称で親しまれるのも納得の美しさだった。ブラックとウィルはその美しさに完全に見惚れており、意識が宙を舞っている。
「将軍、この者たちが、あなたのお話ししていた海賊なのですね?」
「左様でございます女王陛下。左手からブラック、ウィル、クララ、そしてそれを率いているフランでございます」
そう言って将軍があたしたちを女王に紹介する。
女王はその美しい瞳であたしを見つめるとゆっくりと美しい声で話し始めた。
「あなたがフランシス=ネルソンですか。申し訳ございませんけれど、あなたのことは少し調べさせていただきましたわ。あなた、《《福音派》》ですね?」
暖かい口調であたしに語りかける女王の言葉は、冷たい氷のナイフのようにあたしに突き刺さった。
『福音派』とは数ある宗派の中で、神のみを崇め、神の言葉のみを信じる宗派だ。この世界で広く異端とされた宗派で、特にエスパニア帝国内では「異端派」と呼ばれており、福音派(異端派)であるというだけで激しく迫害される運命にある。理由は簡単だ。神のみを崇め、神の言葉のみに従うような宗派は、国民を自分達の言いなりにさせたい統治者達にとって都合が悪いのだ。
どうやって調べたのかは不明だが、知られてしまってる以上嘘をついても仕方あるまい。包み隠さず話そう。
「その通りです女王陛下。あたしの信じる宗派は福音派、神のみを崇め、神の言葉のみに従う宗派です。あたしがブリテン王国のために今回の任務を引き受けたのはあなたへの忠誠心からではなく、あたしの宗派を受け入れてくれるこの国が帝国に滅ぼされては困るからです」
部屋に緊張が走るのを感じた。ウィルやブラックも不安そうな目であたしを見つめているのがわかる。女王は椅子から立ち上がるとあたしの方へとゆっくりと歩いて近き、あたしの目の前に立ってあたしを見下ろした。
あたしは震えた。自分の信じる宗派が福音派であることを宣言する。それはつまり目の前の女王に忠誠を誓わないと堂々と宣言しているようなものなのだ。
しかし女王はあたしの目の前で地面に膝をつけると、あたしの額にやさしい口づけをし、あたしをその優しい腕で抱きしめた。
「な、なにを…なさるんです…?」
困惑したもの束の間、すぐに女王の温かい腕があたしを包み込む。その温もりは物心つく前に母を亡くしたあたしが感じたことのないものを感じさせた。その温もりに包まれたあたしは途端にこれまで経験して来た数多の辛い出来事が脳をよぎり、涙腺が熱くなるのを感じた。
「フラン、私のブリテン王国は神様を信じる方法など問いませんよ、傲慢で悪しきエスパニア帝国とは違って。ここはあなたの居場所なのです。なのでフラン、あなたには私のため、そしてブリテン王国のために戦ってほしいのです。私の望み、聞いてくださいますか?」
あたしはその優しい声に包まれ、思わず女王の腕の中で泣きじゃくるところだったがぐっとこらえ、
「神に誓って」
と女王に言った。いや、言ってしまったという方が正しいだろう。
「いいでしょう。フラン、そこで、あなたに頼みたいことがあるのです」
あたしのその言葉を待ってたかのように女王はあたしを抱きしめる腕を緩めて立ち上がり、自分の椅子へと戻るとあたしにそう言った。
「なんなりと申しつけください。」
とあたしは答える。「神に誓って」そう言ってしまった以上女王の命令には逆らえない。それは教えに反する行為だからだ。
「それでは将軍、あなたの口から説明してくださいますか?」
「かしこまりました。女王陛下」
女王の命を受けて、アンドロメダ将軍があたし達の前に立ち、そしてハキハキとした声で命令した。
「諸君たちには、カリブ海に向かってもらいたい」
カリブ…海…?
読んでくださり本当にありがとうございます!
高評価、ブックマークなどよろしくお願いします!




