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小話(ユノ&クレア&シンシア)

 ロイルたち一行はコペルまでの道を順調に進んでいた。

 これは彼らがある村に立ち寄った時のことである。


 シンシアは護衛のクレアを引き連れて村人と交渉していた。

 お目当ては野菜である。

 馬車には日持ちする食料――干し肉やチーズを積んでいたが、鮮度が重要なものはその都度、現地調達していた。

 ちなみに、野菜の目利きはクレアが担当だ。


 クレアとシンシア、美人2人に話しかけられた村人はデレデレと鼻の下を伸ばしているが、シンシアの巧みな話術により、かなりの値下げをさせられたばかりか、朝採れの卵までおまけにつけてしまった。彼はこの後、女房にこってり絞られることになるだろう。


 さて、交渉が成功して意気揚々としているシンシアと、それを呆れた目で見ているクレアが村を歩いていると、一人の男が声をかけてきた。身なりが小綺麗で品が良く、ひと目で村人ではないことが分かる。

 クレアがシンシアの前に出て警戒する中、男が話し出す。


「帝国軍の方とお見受けします。私の商隊の護衛をしてくださいませんか」


 村の入口ではロイルとユノが待っていた。

 馬車に腰かけてぼけーっと日向ぼっこする様子はそっくりで兄妹のようである。2人の近くには、ロイルが兵士ユニットと言う歩兵が一人、直立不動のまま立っていた。


 そこへ、クレアとシンシアが帰ってきた。

 男を一人引き連れて。

 ロイルが男の話を聞いてみたところ、男は商隊の隊長をしていて、次の目的地までの護衛を探しており、クレアたちに声をかけたらしかった。

 商隊の目的地は本来のルートから外れ遠回りであったが、すでにクレアが護衛依頼を受けてしまっていたので、ロイルは男と報酬を話し合い、30分後に出発ということになった。

 

 男が立ち去った後、クレアが勢いよく頭を下げる。


「すまない!勝手に依頼を受けてしまって!」

「私が待ったをかける暇もなくって感じでしたからね、ロイルさん、私からも謝らせてください」

「いや、よくやった!クレア!」


 ロイルは手放しに称賛した。

「えぇ?」とシンシアが戸惑う一方で、弱き平民を守る理想を掲げる騎士道精神あふれるクレアは、喜びに顔を輝かせた。


「ロイル殿なら分かってくれると思っていた!」

「ああ、分かるぞ。よく分かる」

「見過ごすことができなかったんだ!」

「うんうん」


 ロイルは何度も頷いた後、満面の笑みで宣言した。


「さあ、気合い入れるぞ!盗賊狩りだ!」

「へ……?とうぞく……?」

「ユノ、クレアが臨時収入を連れてきてくれた。今晩は豪勢な食事といこう。何が食べたい?」

「……お肉っ!ユノ、お肉が食べたい!」

「はっはっはー、お兄さんに任せなさい。今日は全部、おごりだぞー」

「……お肉♪お肉♪」


 ロイルとユノが喜ぶのを、クレアとシンシアがぽかんと見ていた。


 さて、その日の夜のことである。


 野営するロイルたちの夕食は、ロイルの約束通り肉をふんだんに使った豪勢なものだった。ご機嫌なユノに対して、ロイルはがっくり肩を落としていた。「ゲームだとエンカウントした盗賊を倒せば、300金は最低でも手に入ったのに、現実が少なすぎる件」などとぶつぶつ呟き、食後すぐにふて寝してしまった。


 食事中、終始、黙考していたシンシアが立ち上がって叫ぶ。


「おかしいでしょ!」


 ロイルの腕の中に包まれて一緒に横になっていたユノが片目を開ける。


「……シンシア、うるさい。ロイルが起きる」

「いやいや、ユノさん!私は叫ばずにはいられません!おかしいでしょ!!」

「……だから、うるさい」


 シンシアが身振り手振りで、自分たちの周囲を指し示す。

 そこには兵士ユニット(歩兵)が20人、直立不動で立っていた。


 ロイルの言う通り、あの男は盗賊だった。村を出たロイルたちは数時間後、隘路で待ち受けていた盗賊たちに奇襲された。だが、ロイルは慌てることなく歩兵を19人、新たに生成した。計20人のうち、16人で方円の陣を作り槍衾を作って馬車を守り、クレアに残りの4人を率いさせて、突然の戦力に動揺する盗賊たちへ突撃させた。混乱に陥る盗賊。トドメはユノで、ロイルが指定した男の首を一瞬のうちに刈り取ると、それは盗賊の首領であった。結果、盗賊たちは潰走した。こちらの被害はゼロであった。


 話は戻り、シンシアはいまだ興奮が収まらないようだった。


「おかしいですよ!クレアさんも、そう思いますよね!」

「ああ……」


 気のない返事をしたクレアは焚き火の前で膝を抱えていた。


「あー、クレアさん、まだ落ち込んでるんですか?」

「そりゃあ、落ち込むよ。まんまと盗賊の策に引っかかったわけだからな」

「ロイルさんは気にしてませんでしたし、切り替えていきましょう」

「……そうだな、いつまでもくよくよしていたらロイル殿に悪いか」

「ですです。だいたい、あの男が盗賊だって普通は分かりませんよ」

「……ユノは分かった。あいつ、嫌な感じがした」

「なるほど。さすがはユノさん。ロイルさんの護衛なだけありますね」

「……ユノはロイルの剣だから。ふふん」


 ロイルの腕の中でドヤ顔をするユノ。一度、剣を振るえば鬼神の強さを発揮する彼女とのギャップに、シンシアはほころんだ後、クレアの隣に座った。


「今回は私たちの経験不足の面もありますが、鬼才を誇るユノさんは置いておいて、一発で見抜けたロイルさんがおかしいんです」

「あれは、どうなんだ?」

「えっと、『姫ユニット以外はステータスは分からないが、名前と所属は分かる。所属に盗賊と書いてあった』でしたっけ」

「盗賊の首領も同じカラクリで分かったらしいな」

「帝国軍の将官なら誰でもできるそうですよ?」


 クレアとシンシアは互いに見つめ合う。


「「おかしいでしょ!」」


 そう言って2人は笑い合う。

 この後も、おかしい、おかしい、と言い合いながら夜は更けていった。


 ――おかしい!――Fin――

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