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9 裏山に異世界ダンジョンが生えてきました!

 今日は良い天気ですので、エリちゃんとユウ君を誘って屋上でお弁当です。

 実はですね。エリカさんね、エリちゃんって呼ぶことにしたんですよ。

 また一つ仲良くなれちゃいました。いいでしょ? ね。

 三人でご飯も楽しいですが、メグメグたちとご飯するのも同じくらい楽しいので、これからはどっちもしていくことになりそうですね。

 明日は、明後日は、その次の日は。どちらにしましょうか。

 ひじょーに悩ましいですね。嬉しい悩みで困っちゃいますね。えへへ。


「「いただきます」」


 全員で一緒にお弁当を開きます。

 ところで、ラスボスさんを倒したからでしょうか。あの日以来、魔獣はさっぱり出なくなってしまいました。

 魔法少女体験も楽しかったですけど、戦いの日々は大変なものです。やっぱり平和が一番ですよねっ。

 ただ一つ、問題がありまして。


「どうしよう……」


 かわいそうに。おかず一つない純正日の丸弁当を突きながら、エリちゃんはどんより沈んでいます。

 あれから魔法の国とさっぱり連絡が取れなくなったというエリちゃん。お給金も一切入ってこなくなってしまったのだそうです。

 このままでは生活が成り立たないと、心底嘆いているのでした。


「ほら、エリちゃん。元気出して。ね。とっておきのエビフライあげるから」

「アキハちゃん。ありがとね」

「俺もミートボールあげるよ。既製品じゃなくてお手製なんだ。美味しいよ?」

「ありがとうユウくん。親切が身にしみるわあ」


 私のあげたエビフライを噛み締めながら、ちょっぴり目が潤んでいるエリちゃん。

 生活苦に喘ぐ彼女を見て、ユウ君は深く思うところがあるのでしょうか。

 私の体質を調べたあの日みたいに、ずっとずっとう~んと唸っていました。まるできみの責任みたいに。

 やがて彼は何かを決心したみたいです。


「エリカさん。一つ提案があるんだけど」

「何かしら」

「せっかくだから、俺に雇われてみないか」

「へ?」


 寝耳に水だったのでしょうか。エリちゃんはきょとんとしています。

 私にとってもそうでした。


「「雇うって?」」


 声がハモりました。

 どういうことですか。もしかして。

 こないだのあのユウ君がボスっぽかった、極秘エージェントっぽいアレですかぁ!?

 はっ!? そう言えば雰囲気に流されてアニエスさんとかいう女の人? のこと、まだ何も聞いてないんでした!

 後でしっかり問い詰めておかなくちゃですね。うん。

 心のやることリストにメモっていると、ユウ君は説明を始めました。


「もう隠すことでもないから言ってしまうけど。俺たちは実は秘密裏にこの宇宙の平和維持活動をしていてね」

「わーお。すごい」

「あなたって、ほんとにヒーローだったのね……」


 そのこと自体は今さらそんなに驚くことでもないですが。私なんてもう何度救われたことか。

 でも次の言葉には、さすがに少しびっくりしました。


「一つ一つの星域に割ける人員は少ない、というか正直手が回り切ってないんだけどね。裏方とかも合わせると、宇宙各地に数百万人もの仲間がいるんだよ」

「ほんとですか!?」

「えー。冗談やめてよ」

「はは。信じるかどうかは君たち次第かな」


 ほんとのような嘘のような、煙に巻く態度でユウ君は笑いました。

 数百万人って。きみって私と同じ16歳じゃないの。違うの!?

 でもユウ君って変な嘘を吐いたりはしないですし(誤魔化すのは下手ですけど)、私はもちろん信じますけどね!


「そのうちの一人に加わってくれと?」

「エリカさん。君の素質は、君自身が思っているよりもずっと高いんだよ」

「私なんかが、本当に……?」


 お気持ちわかりますよ。うんうん。

 ユウ君の圧倒的な力を見せつけられたら、そりゃ自信だってなくしますよね。

 でもね。私はずっとエリちゃんの、魔法少女の味方ですからね。

 なんたって戦う女の子は、無限の可能性とパワーを秘めているんですからっ!

 実際エリちゃんが自信を持てるように、ユウ君はかなり心を配っていました。

 高い素質を持ちながら実力不足だったのは、これまでは適切で十分な訓練を受けてこなかったからだ、とユウ君は力説します。

 そうですよね。あのクソ猫、ろくに仲間も用意しないで、ろくな準備もさせないで、毎回いきなり死地に送り出してたんですもんね。

 今どうしてるか知りませんけどっ。

 あーもう。思い出したらまた腹が立ってきましたよ!

 私の心を察したのか――そう言えば心繋がっているんでしたよね――「それはもう大丈夫だから」と、ユウ君は話の途中でウインクしてくれました。

 おおー。きっと何か手を打ってくれたんですね。さすがですっ。


「魔法も戦闘センスも魔力そのものも。君には光るものがある。鍛えることによってまだまだ強くなれる素質がある」

「そんなに言われると照れるわよ」

「どうだろう。その素晴らしい力をどうか今後も地球の平和のために役立ててみないか? きっと悪いようにはしないから」

「ちょっと詳しく聞かせてもらってもいいかしら」


 藁をもすがる思いなのでしょう。エリちゃんは興味が向いたようでした。

 それにしても、世の中ってのは案外知らないところでヒーローが活躍しているものなんですね。へええ。

 ユウ君は、より具体的な雇用条件を語っていきます。

 完全週休二日制。少なくとも高校大学の間は、平日週五回二~三時間程度の夕間もしくは夜間トレーニング。

 それからおよそ月に二回程度、専属スタッフを配備しての実地研修。

 本格的な活動については学生生活を終えてからでも大丈夫。最低でも大学院の博士課程までは(もし進学するのであれば)、特別任務なしでの生活を保証する。

 つらつらと条件を並べて。それがもし本当だとしたら――エリちゃん、大栄転じゃないですか?


「最後にお給料だけど。下世話な話なんで、ちょっと」


 ちょいちょいと手招きしまして、エリちゃんは耳を寄せます。

 ごにょごにょ。

 さすがに盗み聞きしようってほどアキハさんも無粋じゃないですよ? ちょっとは気になりますけど。

 エリちゃんは、ぎょっとしたような顔をしました。


「マジで?」

「嘘なんか吐かないよ」

「いやいやいや。前職どころか、普通のサラリーマンより全然……」

「命がけの仕事なんだから。そのくらいは当然だよ」


 ダメ押しとばかり。ユウ君は何もないところからぽんと札束を取り出してみせました。

 んん? ぜんぶ、一万円、札……?


「とりあえず手付に。300万くらいあるから。これで当面の家賃とか奨学金の返済用にとか。色々揃えてもらって」

「わぎゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーー!」

「ふえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!?」


 エリちゃんと私は、同時に悲鳴を上げてしまいました。

 え、え!? ユウ君って、実は超お金持ちだったんですか!?

 いや、さっきまで聞いてたことが本当だったらまあ当然なんですけどもっ。実際目の当たりにしたら度肝抜かれますってぇ!

 もう~。これ以上気軽に属性増やさないで下さいっ!

 一枚一枚札束を確かめて、エリちゃんの顔色がみるみる真っ青になっていきます。


「これ、全部本物じゃないの……」

「当然。変な能力とかで造るわけないだろう。犯罪だもん。真っ当なお金だよ」


 この男、やはり可愛い顔してやるときは豪快です。

 とんだパワープレイのスカウトに対して、エリちゃんの心は決まったようでした。


「この私、望咲 エリカ! 精一杯御社で働かせて頂きます!」


 うわー……。ははあって、ひれ伏しちゃいましたよ。

 お金の魔力って怖いですね。

 ユウ君、そこは本意じゃないので、まあまあまあと手で制します。


「顔上げて。いいんだよ。この契約に強制力とかはないから。対等な労働契約だから。これからも俺の、そしてアキハさんの良き友達でいてくれると嬉しいな」


 どんなに強い戦士でも、なおかつ学校の友達になってくれる子はそういないからと。優しい声で言います。


「友達……?」


 エリちゃん、その言葉をまるで初めて聞いた概念みたいにぽかんとしてます。

 なんでじーんと来ちゃってるんですか……。


「とっくにそのつもりだったけど。ねえ」

「うん。そうだよ」


 私も完全同意です。むしろ憧れの魔法少女さんがお友達なんて、こっそり自慢できちゃいますっ!


「ユウくん……! アキハちゃん……!」


 エリちゃん、感涙です。

 恥じらいもなく、私たち二人を左右の腕で囲い込むように抱き締めました。

 よしよし。寂しかったんですかね。これからは私たちが一緒にいますからね。



 ***



 改めての青春と友情を誓い合い。

 宴もたけなわというところで、エリちゃんはふと言いました。


「ちょっと思ったのだけど。ユウくん、あなたって高校通う必要あるのかしら?」

「あ、それ私も思ってたの」


 ノート一つ取らないでも成績優秀なんですもんね。お金だっていっぱい稼いでるのに。

 学校なんて枠に嵌るようなスケールの人じゃないんですよね。そもそも。


「実を言うとね。ちょっとした長期休暇のつもりだったんだよ」


 少しだけ戯れに普通の学生生活というやつを楽しんでみたかった。そう言えば言ってましたね。

 だから三年間ずっといるつもりはなくて、適当なところで切り上げるつもりだったのだと。

 ユウ君は当時の真相を語りました。

 確かにいるのが不思議でしたけど。そんな寂しいこと考えてたんですか……?

 私、ユウ君とずっと一緒にいたいんですけど。

 しかし今はもう離れるつもりもないようで。


「最優先護衛監視対象というか。特級異変の素が目の前にいるからなあ……」

「あー……」


 二人とも私の方を見て、引きつったように苦笑いしています。

 そうですね。エリちゃんにはとっくに私の体質のことは話してましたものね。

 てか。え、そういうことだったんですか?


「ありゃ? もしかして、私のせいだったり……?」

「君のせいじゃないよ。体質のせいだから」

「さーせん!」

「とりあえず君には普通に高校生活を楽しんでもらって。俺も楽しむことにしたから。後のことはそれから考えようかな、と」

「なるほどねえ。あなたも結構苦労してるのねえ」

「苦労ってほどじゃないさ。楽しいこともいいこともいっぱいあるし」


 まんざらでもなく楽しそうにユウ君は言いました。

 楽しいことはともかく、いいことってなんでしょう?

 とにかく。こほん。


「わかりました! この私、新藤 アキハ! 精一杯高校生活を楽しませて頂きます!」


 どこかのエリちゃんみたいにわざとらしくのたまってみました。

 私の日常の当たり前は、ユウ君の親身なサポートの上に成り立っているものなんですよね。改めて思います。

 なら感謝して精一杯楽しまないと、ですよね!

 ユウ君は「それでいいんだよ」と言いたげに、穏やかに何度も頷いてくれました。



 ***



 そんなこんなで、学校からの帰り道です。

 幸いなことにエリちゃんとは途中まで帰りの方向が同じなので。帰宅の途も賑やかになりました。嬉しいですね。

 ちなみにユウ君って、私を送り届けた後にどうしてるか知りませんけど。ほんのり聞いちゃいけない雰囲気出してるので、とりあえずそのままにしています。

 するとですね。現れました。ヤツが。

 こういうときに限って、都合よく一般の人は見てないものなんですよね。もちろんその方がいいんですけど。

 緑の体色に子供ぐらいの背丈。鋭い歯に爪。腕にはこん棒を持っています。

 ゴブリンです。


「わわわ……! あ、あれ……!」


 エリちゃんなんか、いきなり腰抜かしてますが。

 あなた、立派な魔法少女じゃないですか。もう少ししゃきっとしましょうねー。

 ユウ君と私、まったくのほほんとしています。


「挨拶代わりのゴブリンって感じですね」

「稀によくいるんだ」

「いやなんで平然としてんのよっ! あんたたち!」


 得意のハリセンツッコミ魔法が、ユウ君の頭をスパーンしました。

 ついでに私を叩いて来ないのは優しいですねっ。

 ユウ君、ツッコミに対しても平然としています。ノーダメージです。


「このくらいはよくあることだから。慣れた方がいいよ」

「風物詩だよね」

「おいこら。経験値高過ぎかっ!」


 そりゃあ私だってね。

 さすがに一番最初、同時に何百匹にも襲い掛かられたときはもうびっくりしちゃいましたけど。

 あれから色々ありましたので。

 異変レベルとしては生易しい部類だということもよーくわかりましたので。

 もちろんユウ君が隣にいるという安心感の上ではあるんですけどね。えへへ。

 そんな彼は、新人のエリちゃんに期待の目を向けます。


「どうだろう。俺がやってしまってもいいんだけど。君の今後のためにもなるべく経験を積ませてあげたいなと」

「私にやれってこと?」

「うん。もし万が一怪我しそうになったら、すぐフォローに回るから」

「そういうことであれば。了解よ。ボス」


 エリちゃん、魔法少女へと変身します。

 ギャラリー(主に私)を意識してか、コンマ一秒で変身できるらしいところわざわざ数秒もかけてやってくれます。

 あのポーズもばっちり決めてくれました。何度見てもキュートで素敵ですねっ。もう大ファンですよ、私!

 初見のゴブリンには面食らったエリちゃんですが、さすがに戦闘経験を積んでいます。

 油断なく距離感と隙を探りつつ、彼女は掌からハート型の魔弾を撃ち出しました。

 さすがの威力でした。

 元々ビルのように大きな魔獣を相手にしてきたのですから、子供程度のゴブリンなどひとたまりもありません。

 焼死体が一つ出来上がり。エリちゃんは高らかに胸を張ります。


「ま。さすがにこの程度、ちょろいもんよ」

「わーパチパチパチ」

「うん。さすがだね」


 ユウ君、まるで上司のように後方余裕面です。いやまあ実際、今日からそうなったんですけどね。

 直後、さらっと死体を消滅処分しまして。まあ誰かに見つかったら大変ですもんね。


「君ならこのくらい簡単に倒せるのはわかっていた。でも本題はここからだよ」

「本題って?」

「一応ね、毎回発生源の調査をしないといけないんだ」

「ユウ君、いつもそんな面倒なことしてたの?」

「そうだよ。もっと大きな氷山の一角である可能性があるからね」

「なるほどね。ためになるわ」


 ほええ。なるほどです。目に見えるものだけがすべてじゃないんですね。

 ユウ君は少しその辺りを調べてから、一つ頷きました。


「うん。どうもこれまでと違って、異世界から迷い込んで来たって感じでもなさそうだ」


 その場合はどこかに空間が歪んだ痕跡が残るものなんだよ、とユウ君はエリちゃんを教え導くように説明します。

 おおっ、これが噂の新人研修ってやつですか! わくわく職場体験です。なんだかいいですねっ。


「魔物には大なり小なり魔力があるものだ。異世界から来たということでなければ、この世界のどこかに根源があるだろう。そう遠くはないはずだ。探ってみてごらん」

「よ、よし。わかったわ!」


 目を閉じて集中するエリちゃん。女の子が見てもカッコいい、凛々しい顔をしてます。

 可愛さとカッコよさを兼ね備えているとか、もう最強ですね。うんうん。

 再び目を開いたとき、どうやら何かを掴んだみたいです。


「あっちの方から、大きな力をたくさん感じるわ」

「よし。行ってみよう」

「おー!」


 新たな冒険の予感がします。ドキドキしてきましたっ。



 ***



 エリちゃんに導かれて向かった先は、裏山の中腹辺りでした。

 そこには不自然なほど大きな――とても大きな洞穴がぽっかりと空いていました。

 中は暗くて、とても奥まで見通すことなどできません。

 そこからゴブリンが一匹、ふらふらと出てきました。とりあえずエリちゃんが撃ち殺します。

 ユウ君が尋ねました。


「魔力反応はここからでいいのか?」

「ええ。ずっと下まで続いていて、しかもものすごく多い。正確な数はとても把握し切れないわ」


 ここで名探偵アキハちゃん!

 ……いやもうこれは、誰でもわかっちゃいますね。

 三人揃って間抜けな感じで立ち尽くしています。


「ねえ。これって、もしかして」

「ダンジョン、できちゃってるんじゃ……?」

「どうやらそうみたいだね……」


 せっかく魔法少女編が一区切り付いたところでしたが。一難去ってまた一難という感じでした。

 いやもう、難だらけの人生です。約束された勝利の難ですか。

 現代異世界ダンジョン編、始まります! ってことで、いいのかな?

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