夏祭りと幼馴染と浴衣のばか
俺、生見春斗十六歳には幼馴染がいる。
「ハルトー? 先行っちゃうよ?」
「待てよ! あとズボンだけだから!!」
「もー、しょうがないなぁ、早くしてよぉ?」
お隣同士に生まれ年齢イコール年月の彼女は咲花奏、同い年だ。
共に成長しおねしょから初恋まで、勝手知ったる仲である。
「お待たせカナデ」
「待ったぞ。もういっつも遅いんだから」
玄関を出ると彼女はいつもとは違い、髪を結い上げ、紺色地に百合の花柄があしらわれた浴衣を着ていた。
「それどうしたの」
「えっへへー、お母さんの引っ張り出してきちゃった。かわゆ?」
言うなり彼女はその場でくるり、一回転した。
足元でパリィンと、日常の砕ける音がする。
「……うん、まぁまぁじゃない?」
「なっ! ひっどーい!! 乙女心のわからぬ奴め、ぷんぷん。まーいいや。早く行こ! 二年ぶりだもん」
今日は久しぶりに夏祭りの開催される日で、数日前からカナデはとても楽しみにしていた。
彼女の足取りは軽い。
カナデのこんなにはしゃいだ様はいつぶりだろう、と詮無いことを考える。
祭り会場に着いた俺達は、綿飴に射的、たこ焼きにくじ引きと遊び尽くし食べ尽くした。
「今日は花火もあるってさ。ね、せっかくだから見ていこーよ」
浴衣にスニーカーの出で立ちでカナデが言う。
俺は頷くことで了承した。
「どこが一番見えるかな?」
「金城山の展望台とかだろうな。けど大変だぞ?」
「いいよー、歩く歩く」
「じゃ、決まりな」
俺達は、展望台に向かって歩き始めた。
道中草が生い茂る場所を何度か通る。
「うはー、私スニーカー履いて来て良かった! ねっ?」
「そうだな。あ! 足元とっ散らかってるから気をつけろよ?」
わかってるってー、と言いながらカナデは楽しそうに足を進める。
「わ、やっぱ眺めいーね!」
「こっからなら、花火がよく見えそうだな」
俺達は眼下に広がる景色には言及せず、ひたすら花火の時間を待った。
他に来ようと思った人はいなかったのか、展望台には俺とカナデ以外誰もいない。
「カナデ。さっきは照れて言えなかったけどさ。その……きれい、だぞ?」
ひゅぅぅぅぅぅぅ、パーン!! ぱぱぱぱぱぱ
俺がカナデに声をかけたと同時に、花火の打ち上がる音がした。
「なっ。と、とととーぜんでしょ! もう、……ばか」
花火の光に反射して良くは見えないけど、カナデの頬は、桃色に染まっているようだった。
擦り切れた浴衣姿の彼女が、瞳を潤ませこっちを見ている。
俺達は、一回限りのキスを、した。