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第44話 ヤマツミの試練③

『さて、いよいよクライマックス!』


 実況席のコハクが銀色のマイクを掲げ、甲高く声を張った。


『本日のトリを飾るのは、トンボ合わせ! 村に伝わる伝統的な記憶遊戯ですがルールは単純。テーブルに並んだ絵札と文字札を正しい組み合わせで集めていくだけ!』


「百人一首みたいなもんか?」

「いやいや麻雀だろ」


『のんのんオーディエンス! 百聞は一見に如かず、まずはデモンストレーションから』


 そういって舞台上のテーブルに4枚の絵札と文字札、計8枚が並べられた。

 その様子はカメラで撮影され各所のモニターやスクリーンにて上映されている。

 さながらカードゲームの対戦動画のようだ。


「えーっと絵札は……青い空……白い雲……風景? どこかの田んぼ?? こっちの文字札は名前、姿、ご利益?? なんだか神様みたいな」


 壇上のミカはルールを分かりかねている様子だ。


『ミカ選手大正解! これはこの村の土地とそこに住まう土地神を表しているのです!』


 コハクは、観客席に向きなおる。


『その昔、飢餓や病魔がはびこっていた古の時代。人々は神々に祈りを捧げ、地上での名と姿を貸し与え田畑を守りはぐくむ神を招こうと考えました。現在では神々への祈りの文化はなくなり、圃場名として田畑に名前を付ける文化のみが残りました』


 うんうんと納得するもの、あほくせぇーと聞き流すもの観客席の反応は様々だ。


『昔は今のように詳細な地図がありませんでしたので、家の屋号と田畑の圃場名とを組み合わせて火事や水害の際の避難誘導に役立てていたそうです』


 ほえー頭いいな、と客席から視線が集まる。


『つまりトンボ合わせとは、避難訓練の一種なのです。土圃場名を遊びを通じて覚えることで災害に備えることを目的とした遊戯なのです』

「すんませーん、屋号ってなんすか?」


 客席から質問が入った。


『お答えしましょう! 屋号とはコードネームのようなものです、昔は位の高いものしか苗字を名乗れなかったので1つの村に太郎さんが10人いることも珍しくありませんでした。なので、家とそこに住まう家族に職業や土地柄にちなんだ呼び名を与え10人の太郎さんをよび分けていました』

「ふーん」

『ちなみに屋号はトンボ合わせの由来にもなっています、屋号→ヤゴ→トンボといった具合に』


 そこまで言い終わると、ヒイラギが絵札と文字札を手に取った。


「いつまでやっとんじゃ! はよ進行させんか!」

『ごごめんなさい! で、では、トンボ合わせのデモンストレーションを始めていきたいと思いまーす。ではヒイラギ選手どうぞ』


 コハクに促されヒイラギは手にした札を、カメラに映るように並べなおした。


「こりゃ林田さんの土地じゃな、名前は枝日鹿、毛皮をまとった狩猟の神じゃ」

『大正解、ヒイラギ選手5ポイント獲得』

「こっちは黒亀さん、良伊代子の札は無しか……ならこいつか」

『正解、ヒイラギ選手3ポイント獲得』

「えっと? なんでポイントが変わるんですか?」

「良い質問じゃな」


 ヒイラギが答える。


「ここに並ぶ絵札と文字札は、50を超える札の中から適当に並べておる。土地と名前がぴたりと当たれば5点。田の神や水の神、名前違いでも土地と相性が良ければ3点、全く見当違いなら2点が加点される。最後に得点の多い方が勝者となる」

「なるほど、火や水、神様の属性と土地の属性があって、それを覚えてより高い点数の組み合わせを作る。そういうルールなんですね」


「なんかポーカーの役みてぇだな」

「ぽいぽい」

 そんな声が客席から聞こえてきた。


「さてルールは理解したな。本来なら互い違いに札を取るが、それではわしの勝利は明白。小鳩よおぬしが先に札を半分持っていけ、わしは残り半分で役を作るものとする」


 舞台中央に置かれた木製のテーブルには八枚の札が整然と並んでいる。

 ミカは緊張した面持ちで指を伸ばした。


「えっと……これとこれ!」


 ミカは迷いながら、絵札と文字札を選び抜いた。

 スクリーンを眺める客席から「あちゃー」とか「おしい」とか「となりとなり!」といった声が聞こえてきた。


 ヒイラギは、余裕の表情で二組の札を取り上げる。


『ミカ選手、 4ポイントゲット!  ヒイラギ選手は6ポイント獲得!』


 観客席から歓声が沸き上がる。

「あちゃーもう差が出ちゃったよ~」


 ヒイラギは得意げに鼻を鳴らす。


 使用された絵札と文字札は、山札へと戻され切りなおされる。

 ゲームが続けば、また同じカードが2度3度と登場することもある。


 ミカは、肩を落としつつも次の札に集中する。


 ——そしてゲームは中盤へ


『試合もいよいよ佳境を迎えました! 両選手ともすでに多くの札を手にし、記憶力が鍵を握る局面へと突入しました』


 コハクの実況に合わせ、会場のテンションが一段と上がる。


「ではこれとこれをペアへ。残った2枚はどちらも炭焼き場、水の神とは相性が悪いはず」

「ぐぬぬ、前回の札をもう覚えおったか。おまけに小癪な真似を……」


『ななな、なんとなんとなんとミカ選手、ここでパーフェクトを取らない!? あえて弱い札を渡すことで点差を縮めてきた!』


「なあどういう意味だ?」

「ほらさっきのだと5+2で7点取ると相手は6点になるだろ、あえて3+3で組んで相手を4点に抑えたのさ」

「げげげ、おれなら迷わずパーフェクトとっちまうぜ」

「だよな~」


 カードゲーマーとしての記憶力、カード間のシナジーやリソース管理、さらには先手番の優位を最大限生かして立ち回っていた。


 しかし……


『今現在、得点差38対31! ミカ選手追いつけるのか!?』


 ミカは、まだ何も知らない。

 絵札の土地が、畑か田畑か草原なのかが分からない。

 文字札の神が、何の神様かが分からない。


 分かるのは、点数の動きだけ。

 

 まるで、未知の図柄と文字で書かれたトランプでポーカーをしているようだとミカは感じていた。



続く

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