第42話 ヤマツミの試練
「よっ要役よ! 待っておったぞ」
「遅くなってわりぃな、みんな」
俺は、祭りの中央広場へ向かった。
そこでは既に、村の老人たちが集まり酒盛りを始めていた。
「おぉ要役! 遅すぎるぞ!」
「待ってましたぞ、お楽しみはこれからじゃ!」
老人たちは俺を見るなり口々に文句を言いながらも笑顔で迎えてくれた。
彼らの周りには祭りの料理や酒が並び、既に盛り上がっているようだ。
「ちょっとバタバタしててな……それで紹介したい人がいる」
俺は背後に立つミカを手招きした。
「こいつが小鳩、俺の女房」
「はじめまして、小鳩といいます!」
ミカは元気よく頭を下げた。その瞬間、広場全体が驚きの声で満たされた。
「おお! なんと! ついにか!?」
「これはめでたい! 盛大に祝わねば!」
「こんな若くて可愛い娘さんが要役の嫁とは!」
老人たちは一斉に立ち上がり、拍手と歓声でミカを迎え入れた。なかには涙ぐむ者までいる。
「小鳩ちゃんか! なんて美人じゃ!」
「さあさあ座れ座れ! 今日は朝まで飲むぞ!」
「村に若い娘が来るのは久しぶりじゃ! 祭りがさらに盛り上がる!」
老人たちは我先にとミカの隣に座り、質問攻めを始めた。
「要役のどこが気に入ったんじゃ?」
「祭りはどうじゃ? 楽しんでいるか?」
「孫にも紹介したい! 今度家においで!」
ミカは少し困惑しながらも笑顔で応対している。
「はい! とても楽しいです! 皆さん優しくて嬉しいです!」
その様子を見て、俺は胸が温かくなった。
この村の住人たちが、新しい家族をこれほど温かく迎え入れてくれて。
しかし、その和やかな空気を切り裂くように……
「けっ! 何が要役の嫁だ! 村を荒らしに来た狐じゃねぇか!」
一人の老人が大声で叫んだ。
白髪を逆立てた痩せ型の老人。
その周りに数人の男たち。
「土盛さん、そんな言い方は……」
他の老人たちが制止しようとするが、土盛は構わず続ける。
「土盛さん! 小鳩さんは悪い人じゃありませんよ!」
「そうだそうだ! 要役が選んだ人だぞ!」
ミカは驚いて身を引く。俺は咄嗟に土盛とミカの間に立ちはだかった。
「まあ土盛さん、抑えて抑えて。要役の前ですよ」
「黙れ! 村の伝統を知らない他所者が。こいつみたいなよそ者のせいでこの村がおかしくなるんだ!」
「「「そうだそうだ!!」」」
「…………」
土盛は唾を飛ばしながら罵詈雑言を浴びせかける。その視線は明らかにミカに向いている。
ミカの顔から血の気が引いているのが見えた。
「お前さん、今日どこに行っておった」
「どこに?」
ミカは質問の意図をつかめないでいた。
「昼間、祭りの準備しとるあいだどこにおったんじゃ!」
「友達と、隣町へ行ってました」
「なんて奴だ」「祭りの準備もしねえで」「友達と遊びに」
「旦那をほったらかしてか?」
「はいストップ、そこまでだ土盛の爺さんそれに皆も。ミカは……小鳩は俺の命令で出かけてたんだ。俺は村から離れらんねえ、だから小鳩に外の様子を見て回らせてんだ、飯とか流行りとかな。それに朝飯と昼夜の弁当だって用意してもらってる、何もしてねえとは言わせねえよ」
しかし、や、だがといった不満の声はいまだ残ったままだ。
「ならばヤマツミの試練を受けさせよ!」
突然現れたヒイ子が、その場を一括する。
「ヤマツミの試練だと……?」
俺は眉をひそめた。
「試練を受けて実力を示せば、奴らも納得するじゃろう。要役の伴侶となる者ならば、そのぐらいできて当然」
「おいおい、何の準備もなくそんな……」
ヒイ子はミカの方に向き直った。
「小鳩といったな。見極めさせてもらおうか、おぬしが要役の女房が務まるか否か?」
ミカは一瞬言葉に詰まったが、すぐに顔を上げた。
「受けます!」
予想外の答えに俺は息を呑んだ。
「ミカ……」
「だって、ボクはここで暮らすんだから、みんなの信頼を勝ち取らないと」
ミカの瞳には決意の光が宿っていた。
「よろしい」
ヒイ子は微かに微笑んだ。
「ではさっそく試練開始じゃ。最初の1つは、この後行われる山狩りにヤマツミ役として参加すること」
「待てヒイ子!」
俺は抗議の声を上げた。
「夜中の山道なんて危険すぎる!」
ヒイ子は冷静に答える。
「危険じゃなきゃ試練とは呼べんじゃろう。それに、この地を治める要役の妻となるなら、最低限の体力と判断力はあって当然」
土盛老人がニヤリと笑った。
「見ものじゃのう。都会の嬢ちゃんにできるかな?」
「よし。それでは準備をしてまいる。着替えたら舞台上に集合じゃ」
ヒイ子はそう告げると、ミカを連れて広場を後にした。
続く
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