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第39話 決戦前夜

「なにぃ! 明日の祭りで焼きそばを!?」

「お願いします、担当の人間が腰やっちまいまして」


 シュンカとシュウトが大河村観光をしているころ、カナメは祭りの準備のため東奔西走していた。

 朝からあちこち走り回り、やっと終わりが見えたころにはすでに日が傾きかけていた。


「おう、全然OK」

「本当ですか!?」

「祭りの日はうちの店閑古鳥だからな、問題なし」

「ありがとうございます!!」


 カナメは深々と頭を下げてから、店を後にする。


「ふぅぅ、何とかなったぁぁぁ」


 カナメは車の運転席に寄りかかり、ほっと胸をなでおろす。

 

「おっと、ちゃんと連絡入れねえと」


 スマホを取り出し連絡を入れ、村まで戻るカナメ。

 村に着くなり、長身の男性に出迎えられた。


「ごくろう、そちらも無事片付いたようでよかった」

「あんたのおかげで助かったよ、委員長」


 委員長と呼ばれたその男は、市役所の職員。

 特産品の開発や祭りやイベントごとのサポートを行う、村おこし町おこし委員会のトップでカナメが要役についてから何かと世話を焼いてくれている。


 今回のトラブルも、彼が人員を手配してくれたおかげで早期に解決することができた。


「謙遜することはない、そもそも君が前もって用意していたこの対策マニュアルがあればこそ我々も素早く動けたのだ」

「去年はマジやばかったからな。俺に連絡が届いたのが当日の早朝、スケジュールに穴開けて迷惑かけちまったからな」

「流石というべきかな、転んでもただでは起きぬというわけか」


 会場まで戻ると、祭りの本部テントの周りに皆集まっていた。

 そこから本番前最後の打ち合わせが始まり、終わるころには空はすっかり暗くなっていた。


「やー終わった終わった、ささどうですカナメ様これから一杯」

「悪ぃ、もう帰らねえと」

「ええー」「飲みましょうよ」「付き合い悪ぃぞ」

「朝から飯も食ってねえんだよ、休ませろやこの!」


 村の衆に悪態をつきながら、カナメは帰路につこうとする。

 そんな彼に、急接近する人影があった。

 その人影がカナメをさらい、茂みの奥へと消えた。


「お前様、お前様よ。今までどこへ行っておったんじゃ、探したんじゃぞ」

「……ヒイ子、だよな、久しぶり」


 カナメは、地面を確認しながら足をつく。

 月明かりでははっきり顔は見えないが、聞こえてきたのはよく知る声。

 水城ヒイラギ、カナメの元婚約者である。


「その、すまねえ、なかなか戻ってこれなくて」

「よいよい」

「顔、合わせづらかったんだ、お前と」

「分かっておるよ、許す」

「けどよ!」


 「じゃかぁしいわボケェ!」、とヒイラギの足蹴りを腹にくらうカナメ。ヤマツミとして鍛えられたその一撃で、カナメは背後の幹に叩きつけられた。


「お前様よ! お前様はこの村の要役ぞ、山を開き田畑を耕し、役所や国の人間とも関わっていかねばならんのじゃろう。いちいち女子1人にうじうじするでないわ!」

「うじうじってなんだよ! 大事な話だろうが!」

「その大事な相手が許すといったんじゃ、それではいかんのか!?」


 歯切れが悪いカナメに対して、ヒイラギが続けた。


「のう、わしらが初めて会った時のことを覚えておるか?」

「な、なんだよ急に、覚えてるよ。お前はそん時学校帰りで、畑仕事してた俺を馬鹿にしていきやがった」

「そうそう。土いじりなんぞして、よっぽど暇なんじゃのう、とな」


 同じ村で暮らしているので、実際にはもっと前から2人は出会っている。

 しかし、2人の年齢は7つも離れており当時ヒイラギは中学生だった。互いに互いの興味関心はなく、顔を合わせても印象に残っていなかったのだ。


「わしはな、この村はとっくに滅ぶと思っとった。人が減り田畑は荒れ、山を崩してソーラーが立ち始めて、おまけに山奥過ぎてピザのデリバリーさえこん始末! ……わしも高校に入ったら、そのまま就職して村には戻らんつもりでおった」

「そんな話も……あったっけかな」

「ガキの頃はよう分らんかったが、今ならわかるぞ。お前様がこの地にどれだけの価値を見出していたのか、その価値を本物にするためにどれだけ手間暇をかけてきたのか」

「ああ、夜も眠らず昼寝をしながら頑張ったぜw」

「じゃから……じゃからな! わしはお前様に恩を返したい。嫁が欲しいならこの身ぐらいくれてやるし、いらぬならいらぬでかまわぬ。じゃから……」


 ヒイラギは、興奮のあまり言葉に詰まっていた。


「じゃから! わしのことでもううだうだするでない。わしに頭を下げる暇があるなら、もっと良き未来をわしらに見せとくれ。良いな!」

「お、おう……」

「返事は!」

「おう!」


 そのあとカナメは、用事は済んだからと茂みの外にけり出された。

 そして別れ際、明日の祭りを楽しみにしていると一言添えてヒイラギは背を向けた。


「そうそう言い忘れとったわ」


 そう言いながら、話を続けるヒイラギ。

 背を向けているため、その表情をうかがい知ることはできない。


「明日の祭り、名は小鳩というらしいな、そやつを必ず参加させよ」

「ミカを? ああ、せっかくの祭りだし楽しみにしてたぜ、今日は用事があってよんでねえけど。そういやまだちゃんと紹介してなかったな」

「そうじゃ、わしからも一度あいさつをと思うてな」

「了解、ミカに伝えとく」


 ヒイラギがそこまで伝えると、カナメの腹の虫が響き渡った。

 今日のカレーは何カレーかと、そんなことを考えながらカナメは帰路につくのであった。



 続く

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