第37話 大河村の要(カナメ)
カードから離れてちょっと寄り道。
最終章に向けての情報整理回です。
(まだまだ続きます)
「テイオォォーーー!! 米が、米がどこにも売ってねえぞぉぉーー!!!」
「隣町でも売り切れだったわ。ねえどうしようテイオー君」
「……うどん買ってあるぞ。米がないならうどんを食べればいいじゃない」
土曜の静かな昼下がり。
昼寝でもしようと寝転がる俺のもとへ、居候のシュンカとシュウトが静かな昼下がりをぶち壊しながらやってきた。
なんでもこの夏の猛暑で米がやられて、どこにも米が置いてないんだとか。
「知ってるよ、いろいろ用意があるのは。けど米とそれとは別もんだろ」
食い物がないのは困るので、米の代わりになるものをいくつか用意しておいたんだが不服だったらしい。
「……そんなに必要なら細井さん達から、分けてもらってくるよ。あいつら俺の実家で米作ってるから」
「なんであの2人がお前の実家で米作ってんだよ!?」
「あれ、言ってなかったか? カード修行の一環だよ」
「ますます分からん。カードと稲作に何の関係性が!?」
「体力づくりさ。あいつら腕はいいんだけど、大会とかの長期戦に弱かったからその対策でな。おまけにできた米とバイト代も入るって寸法さ」
ちなみに俺の実家は、土地はあるが人にそれを貸してるだけ。
自分達じゃほとんどやってねえ。
2人がどうしてもというので、俺は実家に向けて車を走らせる。
海越え谷越え山越えて……海は越えてないな、横切っただけだ。
山を越えるたび道路から信号が消え、標識が消え、ついにはアスファルトに引かれた白線が消えるころ目的の場所に到着した。
家を出て15分、対向車を交わさずに済んだので思ったよりも早く着いた。
「あれ? カナメじゃん。収穫祭、今日だっけ?」
「よおカズマ、ちょいと米が欲しくてな」
車を停め親に挨拶をしていると、田んぼの方から見た目中学生の小柄な男が姿を現した。
こいつは能美カズマ。
稲作をするため東京からやってきて、今はうちの土地で働いてもらってる。
「実はかくかくしかじかで」
「えぇ~~、困ったなぁ、もう蛟様に捧げちゃったよ」
「だから俺が出向いてきたんだ。カナメ家の当主が頭を下げれば、蛟様もお許しになるさ」
「まあカナメが頭下げるなら、そうだね」
カズマが呼ぶ、カナメとは俺の事。
厳密には俺達の屋号、いわゆるミドルネームって奴だ。
昔ここら一帯を取り仕切っていた一族なので、要家と呼ばれているらしい。
「荷車持ってくるよ、蔵の周りは祭りの準備で車入りづらいから」
「おう、わざわざすまねえな」
「いいよ」
カズマに荷車を引かせて、蔵まで徒歩で移動する。
蔵の場所は山のてっぺん、三野尾神社。そこに奉られた水の神、蛟様に捧げられた後じゃないと作物は口にしてはならないと言い伝えられ今もそれは守られている。
「ねえ三野尾ってさ、スサノオに似てるよね? パクリ?」
「かもな。三野尾は3の尾、昔ここらを分断してたでっかい3本の川、そこを埋め立てた要家の初代当主が実は旅の途中のスサノオだったなんて説がある」
「でもスサノオって、おとぎ話で実在はしないでしょ」
「そうでもないさ、俺が調べた感じ日本神話ってのは実際の出来事をモデルにしてる部分が結構あるらしいんだよ。ヤマタノオロチ退治も、当時の治水工事の様子を言い伝えるためって説がある。スサノオは実在しなくても、それに近しい誰かがここいらに派遣された可能性は十分にあると俺は思う」
俺がプロジェクト・ヴァベルの主人公をスサノオの子孫のオオクニヌシに選んだのは、この三野尾神社の伝説があったからだ。
学生の頃、スサノオについて学業そっちのけで調べまわった。
テストの点数は悲惨なことになったが、おかげで作品づくりに生かせてるんだからプラスマイナスはプラスといっていいだろう。テストの点が悪くても、ちゃんと就職して生活できてるからな。
「へぇ、ちゃんと調べてんじゃん」
「まあな」
「けど、だったら、少名毘古那が戦闘要員は変じゃない? あいつたしか医学の神様とかじゃなかったっけ?」
「見たのか?」
「見てるよ。ヒーローシティのボブがどんな奴か気になってる」
「まあそのうちな。でスクナビコが医学含めて多才な神なのは俺も知ってる、そのうえでオリジナル設定をぶち込んだ」
「どんな?」
「あの世界で神に選ばれると様々な権限が与えられる……つっても車に乗れる運転免許のもっとすごいバージョンみたいな感じでな。でオオクニヌシの権限の1つが、スクナビコの座を誰でも好きな相手に与えられちまうんだ」
「……権限ってそれだけ?」
「なわけあるかよ、他にもあるよ。神話の中でオオクニヌシとスクナビコは両輪で国づくりを行ったとされる。それになぞらえて、オオクニヌシと一番相性のいい相手を選べるシステムになってんだ、それで選ばれたのが喧嘩番長の三上カズキだったわけだ」
「へぇ、意外とちゃんとしてたんだ」
とか話してるうちに、神社までたどり着いた。
後は蔵の管理人に訳を話して、米を持って帰るだけだ。
「ならぬ、なりませぬぞぉ、この米は大地の汚れを吸い上げ穢れておりますのじゃ。蛟様の神気が満ちるまで取り出すことは許されぬのじゃぁぁ」
「って設定で、飢饉に備えて米を蓄えてんだろ」
「まあ俗っぽく言うとそうですじゃ」
こういう建前と本音が混ざってるおとぎ話、俺は好きだぜ。
なのでそのしきたりに敬意をこめて、建前には建前で返させてもらう。
「この蔵にはいまだ洗礼を受けていない、よそ者の米があると聞く。そのような悪しき米、蛟様に触れさせるなど言語道断! よって要役として、その米を預からせていただく」
「米を買い取って、細井さんと長井さんにお小遣いを上げたいとな」
「……そこまで読み取んな、そこはもっと堅物であれよ」
ともあれ倉は開かれ、いくらかの奉納金を神社に収めた後無事に米を得ることができた。
この売上k、奉納金はもろもろの手続きを終えたのち、細井さん達への報酬として支払われることになっている。
「んじゃ、俺は帰るから。また2人の事よろしくな」
「うん、来年はもっとたくさん作らせるよ」
俺は車に米を積んで、家に向けて走り出す。
曲がり角で一旦停止していると、カズマが猛スピードで追いついてきた。
「収穫祭、忘れないでよ」
「おう、今年の出店は多めに用意しとけ。なんせ大飯ぐらいが来るからな」
「分かった、伝えとく」
そういってカズマがいったん車から離れようとして、また戻ってきた。
「ひいちゃん、怒ってないってさ。そう伝えてくれって」
俺はその見知った名前に、背筋を凍らせる。
水城 ヒイラギ、三野尾神社の神主の娘。
……そして、俺の元婚約者の名前だ。
続く
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