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エピソード・ウララ 第1話 天才の魔女の旅立ち 後編

「アレクシスは……我々の目の前で、バクに変わってしまったんだ!!」

「………はい?」

「バクバクゥーー」


 動物症候群。

 それが、アレクシスに降りかかった災厄の正体。


 原因不明のこの病は、全身がゾウやライオン等の動物に変化してしまうという恐ろしい病で、地球の医学を学んだ現在においても治療法は判明していない。


 その歴史は古く、一説に人を動物に変える悪い魔女のイメージはこの病が元となったとされている。

 

 そして……この病に侵されたものは例外なく、半年以内に命を落とす…………。



「まあ、とりあえず……とりあえずは! アレクシスが無事でよかったわ」

「バクゥ~」

「だって皆顔真っ青で病院の前にいるんだもの、絶対死んだと思うでしょ」

「バクバク(うんうん)」


 半年以内に命を落とす。

 が、今のところ体がバクに変化した以外に健康に問題がなかったアレクシスは帰宅を許可され、今はココの部屋に招かれ絨毯の上をゴロゴロしていた。


「あと半年……何から始めようかしら? まず結婚式のやり直しでしょ、それから新婚旅行に行って……その後は?」


 アレクシスとココ、2人には輝かしい未来が待っている……はずだった。

 才能あふれる夫と名家の跡取り娘、成功が約束されたような2人の未来は突如として閉ざされてしまったのだ。

 その事実を、今になってやっとココは認識した。


「バクゥ~~」


 そんな中、アレクシスは結構吞気していた。

 生きてりゃ不幸の1つや2起こるもんだろう、と既に覚悟を決めていたからだ。


「そうだわ、アレクシスご飯の途中だったでしょ。待ってて、私何か用意してくるから」 


 ココは現実から目を背けるように、キッチンへと向かった。

 その道中、客間から父親と見知らぬ男性の声がした。

 

「自室にいるはずだ、すまないがココを呼んできてほしい」

「かしこまりました」


 一礼を済ませ、部屋を後にする使用人と鉢合わせするココ。


「おお、ちょうどよかった、アルバート殿あれがココです」

「お初にお目にかかります、ラッセン家次期当主アルバート=ラッセンです。以後お見知りおきを」

「うっわ、超イケメン!」


 アルバートと名乗った人物は、二十歳そこそこの男性で。

 まるで童話の中の白馬の王子様を思わせる、超絶イケメンだった。

 

「紹介しよう、彼の名はアルバートお前のd「どうもどうもはじめましてアルバート様、このような場所までご足労頂きまことにありがとうございます。え? まさか私に合う為に遥々? いけませんアルバート様、私にはアレクシスと言う心に決めた殿方が。あ、でもでもお友達として3日に1回ぐらいのお茶会ぐらいでしたら喜んで」」


 超絶イケメンを前に、ココは有頂天の極みだった。


「そのアレクシスとの婚約だが……ご破算にさせてもらった」

「……お父様、今なんと」

「すでに、彼のご両親とも話しはついている。急な話になるが、お前には明日、ラッセン家に嫁いでもらう」

「なぜそんな! 意味が分かりません!」


 突然の事にココは、怒りをあらわにする。


「アレクシスは、半年の命なのだろう」

「それは……そうだけど……」

「お前と彼の交際を許したのは、彼の才能が素晴らしかったからだ。しかしあの姿では、その才は無いも同然、今の彼にウォルシルドの名は相応しくない」

「けど、お父様……」

「それに世継ぎについてはどうするつもりなのだ? 先の戦乱でウォルシルドの血筋の物はみな死に絶えた。ウォルシルドの血筋を守れるのはもうお前しかいないのだ」

「けど……だけど……」

「分かってくれ、我々には民を守る義務がある。この家も服も食べ物も、我々は国を守る事と引き換えに貸し与えられている立場なのだ。それらは自分達の人生を賭けて、返済しなくてはならない」


 ココは何も言えなかった。

 ただ、はいと頷く以外は。


 部屋に戻ると、相変わらず吞気やってるアレクシスがいた。

 そんな彼がピタッと止まり、ココの元に駆け寄ってくる。

 自分の愛する人が、涙でぐちゃぐちゃの顔をしていれば当然であろう。


 全てを察したアレクシスは、ココに身をゆだねる。

 自身の背中に顔をうずめ、泣きじゃくるココが落ち着きを取り戻すまでそばに寄り添い続けた。


 落ち着いた頃を見計らって、アレクシスは大き目のカバンの中に使えそうな物を詰め込んで背中に背負うと、部屋の窓を大きくあけ放った。


「バクゥ(こいよ)」

「でも、私達には責任が……」


「バクゥバクバクバーク(はっ責任だぁ! 皆それぞれ飯の作り方も家の建て方も知ってる、自分達で生きていけんだろうが、原始時代じゃあるめえし。大結界の維持だってそうだ、今じゃ仕組みが解明されて誰にだって維持管理ができる時代になった、今更血筋を守る意味なんてないだろうが、そうだろ!)バクバクバークバクバクゥ!」


「ごめん、何言ってるか全然分かんない」


 意味話分からなかったが、何をしたいかは理解できた。

 駆け落ち。家を捨て自分達だけで生きていこうと言っているのだと。


 時刻は夜。

 2人は窓から庭へ飛び下り、屋敷の外へと走った。


「う、うん! 何をしておるのかね、ココ?」

「お、お父様! ……アレクシスを家まで送ってきます」

「今日はもう遅い、今晩はうちに泊まっていきなさい。……さあ」

「お父様ごめんなさい!」


 じりじりと距離を詰めてくる父を横目に、走り去るココとアレクシス。

  

「ストーーップ、先輩達ストーーップ!」

「止~ま~れ~」


 2人の進路を遮るように、何者かが姿を現す。

 ココの後輩、ウララとリタである。


「ウララちゃん、それにリタちゃん……何しに来たの」

「君達、ココの友達だな。頼む、その子を止めてくれ」

「ねえ聞いてパパったらひどいのよ、勝手にアレクシスとの結婚をなかったことにするのよ」

「それは、お前の幸せを考えてだな」


「とりあえず、今日はもう真っ暗ですよ先輩。積もる話はまた明日に……」

「ダメよ! 明日には私他の人と結婚させられちゃうんだから!」

「じゃあ結婚は延期で、今後の事をゆっくり話し合いましょう、ね先輩」


 その後も彼女達の押し問答は続く。

 ついにウララは説得を諦めたのか、ココに対して背中を向ける。

 そして、背後に待機していたリタと共に武器を構える。


「どうしても、そこを通す気はないのね……」

「はい、全力で止めますよココ先輩。 やるよリタ!」

「ほ~い」

「「勇×合(クロスブレイズ)!!」」


 互いに向き合い、指を深く重ねるウララとリタ。

 短い詠唱の後、2人の体は溶け合い混ざり合い竜の姿へと変化した。


 勇×合(クロスブレイズ)、それは所謂合体魔法。

 その昔、伝説の勇者様が使用されたとされる技法であり、2人分の魔力をかけ合わせる事で本来ではあり得ない現象を引き起こすとされている。


「私、ドラゴンなんかに絶対負けない!」

 ココは、この後2秒で負けた。

  

 術を解き、倒れ伏すココにウララは手を伸ばす。


「さ、帰りましょう先輩」

「…………はい、分かりまし隙ありぃぃぃ! ぎゃぁぁ痛い痛い! 腕をひねらないで!」

 隙を突こうとしたココの腕をウララはひねり上げる。


「離して、もう逃げないから、折れる折れちゃうぅぅぅ!!」

「どうしよリタ? また襲ってくるかも「しないから、もう抵抗しないから、ね」」

「う~~ん、肩関節外しちゃう?「え、嘘でしょ、リタちゃん冗談よね!?」」

「あ、それ名案、外しても後で戻せばいいし「ストップストップストップ! 謝るから、不意打ちしかけた事は謝るから、もう抵抗しないから、いったん落ち着いて」」

「ていっ」

「ギャーーー!!!」


 娘の肩関節を戻しながらねぎらう父ダンナーと、父の腕の中で悪態をつくココ。


「お前が家を飛び出していったとき、……本当に心配で心配でもうこんな事しないでおくれ」

「お父様が心配なのは家の後継ぎがいなくなるからでしょ! ご愁傷様、私もうこんな家知らない、どこかに宿と仕事を探してアレクシスと出ていくから」


 行きましょ、

 とココはアレクシスに手を伸ばすが、彼はダンナーの元へと歩み寄っていた。


「バクゥ~(なあおやっさん、あんた本当は跡継ぎとか責任とかどうでもよかったんだろ? 目を見りゃ分かる、俺もあいつのこと大好きだからさ。あんたは娘に幸せになってほしかった、だから一生を共にするいい旦那を見つけたかった。それだけの話なんだろ)バクバク」


「すまん、彼は何を言っているのかね?」

「ごめんなさい、私にもさっぱりだわ」

「そんなことより、ココやパパが悪かった。私はお前に幸せになってほしかった、本当だよ、だからより良い家や仕事やそして夫を与えてやりたかったのだ。だが……」


 ダンナーは、アレクシスの姿をよーく目におさめる。


「お前の幸せは、アレクシスと共にあるんだな」

「そうよ」

「動物の姿でもかい?」

「かわいいじゃない」

「その選択を後悔「しないわ」「バクゥ」」


 あの~と、遠慮がちに話に割って入るウララ、

「先輩の病気、治るかもしれません」

 と。 


「先輩の体に石化の呪いをかけて、病気の進行を停止させます」

「なんだと!?」

「石化中は健康状態が維持されます。治療法が見つかる未来まで、先輩を送り届ける事が出来れば」

「彼の病気が治る……」

「勿論、本人の意思が優先ですけど」

「バクゥ!(おう、やってくれ)」


 アレクシスの決意は、石のように固いようだった。

 ウララはさっそく、石化の準備に取り掛かる。

 

「待ってウララちゃん、私も一緒に石にして!」

「ふぇココ先輩も?」

「そうよ、アレクシスが治るまで何年かかるか分からないじゃない、彼が目覚めた時私だけしわしわのおばあちゃんだったら嫌だもの」


 ウララは、ちらりとダンナーの方を見る。

 彼はココに近づき、ギュッと抱きしめる。


「それが、お前にとって一番幸せか?」

「ええ、そうよ」

「分かった……愛しているよココ」

「ちょっとなんで泣くのよ、一生の別れじゃないのよ」

「そうか……そうだな。またそのうちにな」


 ダンナーはココを放すと、その背中を優しく押した。


 2人の体にそっと触れ、ウララは言う。


「じゃ行きますね」


 彼女が詠唱を終えると、その体から光が発せられた。

 2人は光に包まれながら1つに交わり、そして弾けた。

 光が消えると、そこには石となった2人の姿があった。

 

 そして、長い長い夜が明けた。


 そこには旅支度を済ませた、ウララとリタの姿があった。

 彼女達は、アレクシスを治す方法を探るべく旅に出る事に決めた。

 目指すは、古の七賢者の像。伝承によればその像は、時を超えるべく自らを封印した本物の賢者であるとされている。

 2人はその封印を解き、知恵を借りるつもりなのだ。


「んじゃ、行きますか」

「まずはギルドで情報収集かな」


 モンスターひしめく外の世界に足を踏み入れる2人。

 彼女達は最初の拠点となる、冒険者ギルドなる施設を目指す。

 城壁を出て徒歩5分、その場所はあった。


「未来の勇者諸君、ようこそ我がダンジョンへ。歓迎しよう、我が贄として遥々――」


 入り口に設置された巨大モニターに、角を生やした魔族風の男が映し出されていた。

 冒険者ギルド。正式名称、勇魔王連合共同教育育成組合本部。


 またの名を、魔王城ディスカバーンである。



 エピソード・ウララ 第2話へ続く 


ウララ「最初の街の隣が魔王城って変じゃない?」

リタ「魔王の魔は、魔法の魔。六英雄の1人、魔法使いカバンが建てた研究施設だよ」

ウララ「へぇ~」

リタ「ちなみに今の魔王様は魔力ゼロの、普通の人だよ」

ウララ「魔法の王なのに!?」

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