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エピソード・ウララ 第1話 天才の魔女の旅立ち 前編

「うーん、足りない」

「太るぞ~」

「いや、ご飯の話じゃなくてね」


 ここは地球から遠く離れた場所、すなわち異世界。

 そこの一番大きな大陸の

 一番大きな王国の

 一番大きな建物。

 レギルド国立魔法学園。


「うちらもうすぐ卒業でしょ」

「来年ね」

「だからさ、学園にいる間に取れる資格は全部取っときたいんだよね」


 その魔法学園の食堂で、2人の少女が席を挟んでいた。

 今日は学園の卒業式。式は滞りなく進行し、式場の片づけを終えた彼女達は遅めの昼食をとっていた。


「私、将来勇者を目指してるでしょ、足踏みしてる時間がもったいないよ」


 窓際に座る、勇者志望の彼女はウララ。

 彼女は10年に一人と言われる天才で、()()()()()の異名を持つ。


「う~ん、それより魔法スキル以外を伸ばしたほうが良くない?」


 ウララの向かいに座る彼女はリタ。

 彼女もまたウララに勝るとも劣らない才能の持ち主で、2人合わせて100年に1度の天才コンビなどともてはやされている。

 あとちなみに、2人は宿舎のルームメイトでもある。


「魔法以外って例えば?」

「例えば~、筋力を鍛えて魔法戦士を目指すとか」

「あっそれ名案! 早速、知り合いの「ごめん待って! 魔法戦士からは勇者に転職できなかったはず」それゲームの話じゃん! 「あでも、新しい方の魔法戦士からなら転職できたはず」やっぱゲームの話じゃん!」


 リタは異世界地球から持ち込まれる、漫画やゲームが大好きだった。


「良かった、本当にこの時代に生まれてよかった。もし、地球と転移門が繋がる前の時代に生まれていたら……私は何を糧に生きていけばよかったのやら」


 リタの大好きな地球の物資は、条約により厳しく制限され最新のものは滅多に手に入らないのが現状だ。

 なので彼女は、将来的に地球の居住権を手に入れ移住する事を目指している。

 そのための社会的信用や実績を積み上げるうちに、彼女は周囲から天才と呼ばれるようになったのだ。


「ところで話変わるけど、ウララは今日の準備できてる?」

「話の腰折った張本人が……えと、準備? この後は卒業パーティーのはずだけど、準備って何かあったっけ?」

「じゃなくて、その後、ほらプレゼントとか」

「パーティーの後…………あ! ココ先輩とアレクシス先輩の結婚式!!」

 

 ウララ達の1つ上の先輩、ココとアレクシス。

 この2人は幼いころから交際を続け、今夜永遠の愛を誓う手筈となっている。

 学園を卒業するとはいえ、年齢的にはまだまだ子供。もう少し人生経験を積んだうえで夫婦となるのが一般的ではある。しかし、本人達の意思と何より親からの強い勧めもあり、本日中に式を執り行うことと相成った。


「アレクシスーー、お昼まだでしょ、はい今日の分のお弁当」

「おう」


 噂をすればなんとやら、ぬぼっと道端に佇む男子生徒とその彼に届けるべく、弁当の包みを抱える女子生徒の姿があった。

 アレクシスは弁当を受け取ると、箱までかじる勢いで料理を平らげる。

 口元のソースをそのままにアレクシスが去ろうとしたので、ココがナプキンでそれをふき取る。

 学園内では見慣れた光景だった。


「あ、ごめーんアレクシス! 今日この後、卒業パーティーと披露宴があるのよね、こんなの食べたらせっかくのご馳走が入らなくなっちゃう!」


 後悔先に立たず、自身の犯した失態に弁当ガラを抱えておろおろする事しかできないココ。


「舐めんなよ。お前が今日も弁当作ってくるなんざお見通しなんだよ。……だから今日は、朝飯抜いてきたんだ」

「そうなの? あ! だから今日はいつにもましてポケ~としてるのね」

「うっるせえ」



 仲睦まじい様子の、ココとアレクシス。

 その様子を、はやし立てる生徒達。

 その生徒達をかき分け、急いで結婚祝いを買いに飛び出すウララと、その姿を横目にほくそ笑むリタ。


 卒業式を終えてなお、学園は平穏な日常の空気が流れていた。



 ~~その夜~~


「ちょっと男子ぃ~、何料理がっついてんのさ!」

「(がつがつ)おい、お前らも早めに食っとけ! アレクシスの野郎が来たら、皿も机も残らねえぞ!(もぐもぐ)」

「……それもそうね。オラァそこどけやぁ! そのステーキはわしんのじゃボケェ!!」


 乾杯を待たず、食料を巡る醜い争いが勃発。

 そんな中、ココは会場の隅っこで軽く料理を摘まむと、アレクシスより一足先に結婚式場へと向かった。



「お嬢様、お待ちしておりました。ささ、こちらへ」

「ええ。お父様は、まだなのかしら?」

「はい。旦那様は現在、大結界の修復作業をされております」

「まあ! こんな日に、不吉だわ……」


 ダンナー=ウォルシルド。

 ココの父であり、代々レギルド全土を覆う大結界の維持管理を務めるウォルシルド家の現当主。そして、レギルド初代国王と共に戦い国を築き上げた、六英雄の子孫でもある。


 そんな高貴な生まれのココとは違い、

 アレクシスはごくごく平凡な鍛冶屋の息子として生まれ育った。

 本来であれば、そんなどこの馬の骨とも知れぬ男と名家のご令嬢が結ばれるなどありえない話なのだが、彼の才能がそれを可能にした。



 それは、ココの七歳の誕生日。

 学校の同級生に綺麗なイヤリングを自慢された彼女は、自分も同じものが欲しいと駄々をこねた。

 ちょうど七歳という記念すべき年、父ダンナーも娘の喜ぶ姿見たさに娘のわがままに付き合う事にした。

 しかし、目当ての品はどこへ行っても見つからない。


「あ~、それ俺が作ったやつだ、だから売ってないぞ」

「な、まさか、君が……」

「こらこら、うそはだめよ坊や、めっ!」

「嘘じゃねえよ! ついてこい証拠見せてやる!」


 イヤリングを探して、数店舗。

 それを作ったのは自分だと言い張る少年に、店の奥まで案内される。

 少年は作業場の片隅から、例のイヤリングを引っ張り出してきた。


「俺、早く一人前になりたくて、でも親父はダメだっていうからこっそり練習してんだ。作ったやつは隠したり人にやったりしてばれないようにしてる。こんなんでよければやるよ」


 ほいっと無遠慮に渡されたそれを、ココは嬉しそうに身に着けた。


 これが、少年アレクシスとココが出会った日。

 そして、ウォルシルド家指導の元、アレクシスの修行の日々が始まった瞬間でもあった。



「それでね婆や、アレクシスはそれから勉強も頑張ってね、この前なんて錬金術に関する新技術を開発したらしくて、まだ学生なのにもう学会から注目されてるのよ」

「はい、婆やの耳にも届いております」


 ココはドレスのフィッティングを行いながら、長年お世話になっている婆やにアレクシスがいかに素晴らしい人物か言って聞かせる。

 婆やはそれに、うんうんと優しく答える。

 

「ああ、早くアレクシスこないかしら」

「焦ってはいけませんよ、お嬢様。短期は損気、待つ事も大事なステップですよ」

「むぅ、分かってるわよ」


 ――ドォン!!!

 と、蹴破るように控室に何者かが姿を現した。


「お父様!」「旦那様!」

「落ち着いて聞いてくれ。ココ、式は中止だ。着替えて、すぐ病院まで向かうんだ」

「病院? 中止? アレクシスに何かあったのね!」


 ココはドレス姿そのままに式場を飛び出すと、病院へ向けて走り出す。

 病院の入り口では、パーティーに参加していたであろう生徒達の姿があった。皆一様に落ち着きがなく、事態を呑み込めていない様子だった。


「皆、何があったの!? アレクシスはどこ!?」

「ココ……。アレクシスは……」

「オレ達じゃ、どうしようもなくて」「すぐ医者は呼んだんだけどさ」

「あいつパーティーに来るなり料理に飛びついて、オレ達も競い合うみたいに食ってたら、アレクシスの奴急に苦しみだして…………息、しなくなっちまった」


「………………噓でしょ」

 目の前が真っ暗になり、糸が切れた人形のように崩れ落ちたココ。

 そこに涙は無い。

 叫びもない。

 ただただ、魂さえ抜け落ちたような空っぽな器だけがそこにあった。



 ――トコトコトコ、ツンツン

 そんな状態のココに1匹の獣が歩み寄る。

 体はクマ、鼻はゾウ、目はサイ、尾はウシ、足はトラ。

 地球では、バクと呼ばれる動物だった。


「バクゥ~~」

「……あら、慰めてくれるの、君は優しいのね。……あら、この子?」

 謎のバクに慰められ、ココの瞳に少しだけ光が戻った。


「どこだ、どこへ行った」「先生、見つけました!」

 しばらくして、病院の外へお医者様が姿を現した。

 お医者様はココ、そしてそばにいたバクの元へと駆け寄る。


「君は、アレクシスの婚約者のココさんだね」

「あっはい」

「落ち着いて聞いてほしい、今は信じられないかもしれない、現実を受け入れられないかもしれない、君の婚約者アレクシスは――」

「(ゴクリ)」

「バクゥ~~」


 お医者様が、アレクシスの容態を告げる。

 そばにいた、謎のバクに手を添えながら。


「アレクシスは……我々の目の前で、バクに変わってしまったんだ!!」

「………はい?」

「バクバクゥーー」



 後編へ続く

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