第20話 エースオブワン製品化に向けて(禁止制限と大型アップデートについて)
「うわぁぁぁあああん! おじさまのエクス・マキナ、モフモフのぬいぐるみに負けちゃったよぉぉぉ!! 禁止! もうあれ禁止! これじゃあ神龍の面目丸つぶれだよぉぉぉ……!」
「よし、じゃあ禁止!」
「そんなあっさり!?」
とある日曜の夕暮れ時。
仕事帰りに俺ところもが、いつもの駄菓子屋に寄ってみるとミカ達とコハルがそろい踏みでゲームにいそしんでいるところだった。
詳しい事情は分からないが、シルバーレクイエムを禁止にしてくれとせがまれたので俺はそいつを禁止カード送りにする事にした。
禁止カードのページが、さっそく役に立ったな。
「ちょちょちょ先輩! 良いんですかそんな簡単に!?」
「いいに決まってんだろ、だってシルバーレクイエムだぜ」
「ええええ! 理由になってませんよ大事なカードじゃないんですか!?」
???
ころもがやけに食い下がってくる、何故だ。
と考えたところで、ころもはシルバーが何者か知らない事に気が付いた。
「よ~し、分かった分かった、今からシルバーレクイエムが何故禁止カードになるのに相応しいのかじっくり説明してやろう」
「禁止に相応しい!? 強すぎる以外にあるわけないでしょう!」
「ああっ?あるに決まってんだろ!」
俺はスマホを使って、家のパソコンを遠隔操作する。
そして、シルバー選手が活躍する自作アニメを再生した。
「うっわ! アニメや! ……殆ど静止画やけど」
「すごいすごい! ……セリフが全部機械音声ですけど」
みんな食い入るように、スマホの画面をのぞき込んでいた。
「…………あのこれ、だんだん動きが……あ、ついに文章だけに」
「あれれ? 静かになっちゃったよ?」
「あははは……個性的な作品だね……」
「どうだ、かっこ良かっただろうシルバーレクイエム選手は」
「うんうん! 途中のシーンで敵の必殺シュートが飛んできてチームが全員場外に吹っ飛ばされて、もうだめだ! ってなった瞬間に颯爽とシルバー選手が飛び出してきて、シュートを止めるシーンとかもう最高だよ!!!」
「だよな! その後、相手が押し返し始めるんだけど、あえてキーパーを信じて自分は前に出てカウンターを決めようと動く仲間の為に、囮として3人のディフェンダーを引き連れて左サイドに走りこむシーン! パワーとスピードは勿論、頭脳も併せ持ってますぜってアピールしてくる感じがたまんねえよなぁ!!!」
「なになに!? コハルとおっちゃんには、何が見えとったん!??」
「う~~ん、あ! ここに書いてあるよ」
「本当ですねぇ、今言った内容の事が全部このシーンに文章で書いてあります」
「アニメ言うとんのに! ならこれ動画の付いた小説やんか!」
女子組の反応が芳しくない……。
「まあともかく、この後シルバー選手は活躍しまくって、話の最後で出場禁止命令が競技会から出されちまうんだよ」
「なるほどう、だから禁止カードになるのは所謂原作再現ってやつなんですね」
「そういうこと」
ころもは、俺のやりたい事を理解してくれたようだ。
「……なあこれ、今の試写会必要あったん?」
細井さんの視線が痛い。
「……ま、まあ、あれだ。カードゲームってさ、今じゃ禁止制限があるのが当たり前な世界だろ? 無いとなんかさみしいと思ってさ、発売前に何枚か禁止カードは欲しいと思ってたんだ」
「え!? 先生、禁止カードってないほうがより良いのでは?」
長井さんの問いに、俺は答える。
「可能ならな。けど実際、歴史のあるカードゲームは禁止制限、それかルール変更やエラッタで対応してるのが現実だ。ましてや俺ら素人開発のゲームなんざ、ぶっ壊れる前提で作るのが正気の沙汰ってもんだろう」
「それとこれと、バグを無くす努力をせんのはちゃうくないん?」
今度は細井さんからの問いに、俺は答える。
「当然努力はするさ。けどそれは、いざって時の備えを怠る理由にはならねえ。シートベルトや家の鍵もそうだろう? してませんでした、って事故った後に気が付いても遅いだろう?」
「備えって?」
「まずは禁止制限、あと警戒カードのページを用意しておく。その禁止リストに予め、シルバーレクイエムみたいなぶっ壊れカード、無限ループや過剰なアドバンテージカード、テキストの解読が難解でゲームの進行を損なうカード……を何枚かわざと発売前に作って入れておく」
ちなみに警戒カードは、デッキ構築に影響は与えないカード群だ。
将来的にヤバそうなカードを予告していくためのリストで、ユーザーやショップがカード資産を突然損なう事が無いよう存在している。
古い賞金付きTCGにあったシステムで、俺も真似しようと思ったわけだ。
「わざと! わざわざ使えんカードを作るん!?」
「ユーザーへの無言のメッセージだ。小難しい公約並べるより、実物見せて禁止制限を実演したほうが分かりやすいだろ」
というわけで、俺はリモート起動させたパソコンを操作する。
そして、やめた。
「ん、どしたん?」
「やめだやめだ、今度の大型アップデートの時にまとめてやることにする。それよりさ、せっかく集まってんだしどっかで晩飯にしようぜ」
「カツ丼! カツ丼にしましょう!」「好きだねぇ~、俺もだけど」
「大型アップデート!? なになに、今度何が起こるん!?」
「好きだねぇ~、んじゃその辺の事も食いながら話すか」
といった感じで、俺達は店を後にした。
「hey店長! DXマシマシ丼、3つぅぅ!」
「わ、出た!!!」
「出たって……完璧に化け物扱いだな、ころも」
というわけで、昼飯で世話になったカツ丼屋まで移動した。
DXマシマシ丼は大勢で分けると、値段換算でカツが1枚多く乗っかるのでそれを皆で突っつく事にする。
「(ぱくぱくぱくぱく)」
「んでまあ大型アップデートってのは、今後の商品化に向けてルールやテキストを整えようって話だ」
「ん? ルール変えてまうん?」
「流石にな、今のまんまだと開発の負担が高すぎだと思ってな。具体的には、カードごとに色の要素を入れるのがまず1つ」
「「色!!」ええやん、めっちゃカードゲームっぽい!」
……今でも立派なゲームだと俺は思ってるんだが、まあいいか。
現状エースオブワンは、素材カードは全カード共通。
そこにメスを入れて、赤のカードは赤素材を、青のカードは青素材を要求するようにする。
自由にカードが使える今のルールも魅力的だが、凶悪なコンボデッキを見落とさない事を優先して先人の知恵を借りる事にした。
でだ、色拘束が出来た事で1つ試してみたい事がある。
というかコンボうんぬんより、そっちをやりたいがための色拘束と言っていい。
「実はな、構築デッキ専用素材を作ろうと思うんだ」
「イラスト違いってやつ?」
「いや違う」と、言葉を切って俺は説明する。
初心者でも勝てる構築デッキ。
これはよくある売り文句だが、強すぎるとパックが売れない、しかし弱すぎるとデッキが売れない。
これもよくあるジレンマだ。
まあ売り方の話は専門家に丸投げるとして、それを見てやってみたくなったのが今回の案。
構築デッキのカードだけが使える、専用素材の開発だ。
こいつがあれば、無改造限定ではあるが色事故を無視した強力なコンボやシナジー搭載のガチデッキを開発できるし、従来通りばらして改造パーツにしてもいい。
「おお! ええやんそれ、天才やんおっちゃん!」
「ええ、ええ。素晴らしいアイディアですよそれ。ノーベル賞3つはもらえますよ」「もらえねえよ、ノーベル賞は流石に」
ま、いつも言うようにデッキ作りと同じで、神アイディアに見えるデッキが実際回したらカスみたいなゴミデッキなんてのはよくある。本当に面白いアイディアかは回してみてからのお楽しみってやつだな。
そこが楽しいから、今ゲーム作ってんだけどな。
細井さんに答え終わると、今度はころもの奴からも質問が来た。
「え、え~っと先輩? なんかゲームを発売するってさっき聞こえた気がしたんですけど~、聞き間違えですよね!?」」
「いんや、するけど発売」
「絶対無理ですって! えっと、そうお金は!? 印刷所の手配は!? お店との契約とかは!? え~っと、あとはあとは……そう! CMとかどうするんですか?!!!」
ころもが心配するのは、良く分かる。
「まあ焦んなよ、将来的にはって話、10年後か20年後かもって話だ。今だって仕事はあるし、来年あたり子供の世話だってあるだろうし、そこをないがしろにしてまでやるようなつもりはねえよ」
俺がそこまで話すと、
「な~んだ」ところもは拍子抜けした様子になった。
「のんびりやるって言っても、知り合いの印刷所へ明日にでも挨拶に行って、話がまとまれば来週……早ければ2,3日中にはコピーカードじゃない普通の紙のカードでプレイできるようにするつもりではいるけどな」
「じゃあ、それを大量生産してお店に置いてもらえばいいんですね」
「いや、んなわけねえだろ。あくまで作るのは身内用のテスト版、客から金をとれる代物じゃねえよ。こっからイラスト、カードの裏面、フレーム、各種アイコン、テキストの仕様、カードのサイズ指定、それを担当できる人間を探して仕事を振り分けて一個のカードとしてまとめて、それでやっとこさ売り物になるんだよ」
俺がそこまで話すと、
「……」みたいな様子でころもは固まった。
「自分で言ったんだろ、物を売るのは大変だって。……まあ俺が損する分には良いんだけどさ、好きでやってる事だし。けど物を売る以上、他の誰かが関わる事になる」
「お店とか配達の人……ですよね……」
「そうだ、そこいらに迷惑が掛からないよう、まずは自分が手の届く範囲の事をやる。……というか自分の舵取りもできねえ人間にそもそもプロが手を貸すはずもねえしな、暇してるわけじゃあるまいし」
俺は少し口を閉じ、ころもの反応を待った。
「……先輩……これって趣味ですよね? 先輩の?」
「え? ああ、そうだけど、趣味」
「にしてはすっごいガチじゃないですか? 取引先の事まで考えたりとか」
「趣味だからこそ、本気でやるんだよ。お前だって、デッキ組むのに徹夜した経験の1つや2つあるだろう?」
あ、そういう感じ。
といった表情がころもから返ってきた
「つうわけでだ、うだうだ言っててもなんも始まんねえから、その印刷したカードを使って今度イベントを開こうと思ってんだ」
「イベント! なになにぃ?」
「急かすなよ細井さん。やるのは商品説明会……って名目の体験会だ。流石に今のぺら紙の状態だと格好がつかなかったからな、やっとこさ人前に出せるってわけだ」
「おめでとうございます、先生!」
「あんがとよ、長井さん」
確実に前に進んでいる、どんどん面白くなってる。
そんな確かな実感が、俺にはあった。
――第4章 完――
「遅くなったし、家まで送ってくぞコハル」
「いいよ大丈夫、1人で帰れるから」
「小学生に夜道を1人歩きさせられるかっての」
俺はコハルを車に乗せ、1駅向こうの家まで送る事にした。
「ねえおじさん、今度うちの学校に来てもらえないかな?」
「どうした、授業参観でもあるのか?」
「学園祭でね、クラスのみんなとカード屋さんを作るんだ」
「へぇ~、自分達で作ったのか?」
「うん! それでね、おじさんと一緒にやってみたいと思ったんだ」
コハル曰く俺とゲームやるのが面白かったから、クラス中を誘って企画を通したらしい。嬉しいやらたくましいやら、俺がコハルぐらいの頃にそんなガッツは無かったぞおい。
「俺も仕事があるからなぁ……何とか本番は見に行ってやりたいが……」
「休めば、仕事」
「お、いいねえそれ、一週間ぐらいパァ~~ッと、てんなわけいくかよ!」
コハルの子供ジョークに、俺はツッコミを入れる。
たくましいく思えても、まだまだ子供だなw。
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