第15話 神竜を討伐せよ!
「うわぁぁぁあああん! おじさま、お願い見捨てないで1人にしないでぇ!! 私もう、おじさまにお賃金入れて貰わないと生きていけないだよぉぉぉ!!!」
「捨てねえよ! 捨てねえから、離れろ、くっつくな!!」
とある土曜の夕暮れ時。
俺とミカがデートから戻ってくると、細井さん長井さん、
そしてメイド役のコハクさんが俺の家で騒いでいた。
まあ、それ自体は別段問題ない。
人が居座っててくれた方が、防犯になるからな。
問題なのは、コハクさんが掃除中に見つけたそれである。
「大切断刀、武器は大きく重いほど強い、その反面取り扱い「音読すな!」」
そう、俺がガキの頃から書き溜めて、ベッドの下にこっそり隠しておいた設定資料のことだ。
それをコハクさんは、あろうことか皆に見せびらかしていたのだ。
「はぁ~~~…………死にたい」
「そんなに!」
「ええやんべつに、めっちゃおもろかったで」
「そうですよ、特にバトルシーンが「言うな! もう何も!」」
しばしの沈黙……。
「そ、そういえば、おじさまと細井さんて本当に仲がいいんだね」
沈黙に耐え兼ねて、コハクさんが切り出した。
「ほら、このミナカって子、細井さんがモデルなんでしょ?」
「あ~ちゃうねん、それには元ネタがあるんよ」
「……元ネタ?」
細井さんは、関西弁を話しているが関西人ではない。
彼女は東京生まれ東京育ちの両親に、出張先のマダガスカルで育てられた。
そんな彼女は動画サイトを通じてとある日本のアニメにドはまりし、そのアニメキャラの口調を真似るようになった。
俺も偶然同じキャラを気に入り、ミナカというキャラの参考にしたのだ。
「へ~。おじさま、他にはないの裏話?」
「せやせや、ミナカはこの後どうなるん? 続きがないんよ」
「あ~。そのうちな、俺明日も仕事だから」
「「「え~~~!」」」
「じゃあさじゃあさ、これだけ、このセリフを読むだけ」
そう言いながら、コハクさんがそばにあった本を押し付けてきた。
何かの台本のようだ。
「実はね、この資料をもとに皆でゲーム作ってたんだ」
「ほ~ん」
「でね、雰囲気作りの為に、セリフが欲しいなって」
「分かった分かった、どっから読みゃいい」
「ちょっと待って、今最初からやるから」
コホンと咳払いしてから、コハクさんは紙芝居を取り出した。
「それではこれより大討伐ゲーム、
題して『ヴァベルの試練』をスタートしま~す」
「「「いぇ~~い!」」」
「……いえーーい」
ぱらりと紙芝居をめくるコハクさん。
そこには毎度おなじみ、創世神竜 エクス・マキナの姿があった。
「貴方は、強敵を求めて旅する冒険者です。
噂を聞きつけて、ここヴァベルの書庫まで来ています。
さあ、まずはこのドラゴンを倒してください!」
「おいおいエクス・マキナをそんな「よっし、まずはオレからや」」
「♪テンッテンッテン、テレレレン~~」
コハクさんは、BGMを口ずさむ。
そうしながらデッキをシャッフルし、エクス・マキナのカードを配置する。
「え~、今からバトルぅ~、どんだけかかるんだ?」
「私のターンドロー! エクス・マキナ『はたく』」
――ぺちん
対戦相手の細井さんのライフが2削れる。
「♪テンッテンッテン、テレレレン~~さあ、細井さんどうぞ」
「よーし、ドロー!」
細井さんはカードをドローすると、ミナカのカードを3枚場に出した。
どうやらこのゲームは、エースオブワンのカードを使うらしい。
「全員で攻撃」
「バシュン、バシュンバシュン、♪テッテレ~。大勝利!」
は?
は?
「ちょっと待て、ふざけんなよ! 神竜ってついてるから分かると思うけどエクス・マキナはなあ、作中最強のモンスターなんだよ! それをたった3発で撃破だとふざけんなよ! 設定資料読んだんだよなあ、だったら何でこんな雑魚なんだよ!!!」
「さ、おじさま、セリフセリフ」
「お、おう」
俺は言われるがまま、台本を読む。
エクス・マキナ「ふぁ~~よく寝た」
お前、寝てたんかい。
エクス・マキナ「おっと、畑に水やりする時間だ。起こしてくれてサンキューな」
そうそう、こいつ普段は大豆農家やってんだよ。
豆腐が好物でさ、自分で豆の品種改良までやっててさ。
「♪じゃじゃーん、ステージ1クリア! はいどうぞ」
「お、おう……なんだ、このカード」
「ヴァベルの鈴、略してヴァ・ベル。エクス・マキナをはたき起こした事で友好関係を築いた貴方は、彼の助力を得る事が出来るようになりました」
普段、暇してるからなこいつ。
近くにいたら、呼べば来てくれるぞ……10回に1回ぐらいで。
「強敵を求める貴方はヴァ・ベルを使用して、
エクス・マキナとの再戦を希望します」
ステージ2へ続く
「え、まだあんの? 俺の睡眠時間が……」
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