幕間 コハル君、神になる。そして、イノシシの肉を食う。
「おじさん助けて! 今大変な事になってるんだ!」
『コハルか!? どうした何があった!』
数日前、エースオブワンに続きコマンダーVSの公開が開始された。
その知らせを受けてコハルは、とある放課後に人を集めてコマンダーVSの交流会をやろうと思い立った。
学校中に声をかけて回り、興味を持った生徒達がコハルのクラスに集まってきた。人数は10人ほどどろうか。
コハルは、まずまずの成果にホクホク顔だった。
コハルは自ら司会進行を務め、交流会をスタートする。
「おい、それカードちっげえぞ!」
「え、本当?」
そして、開始早々トラブルが発生した。
参加者の1人が、間違えてエースオブワンのデッキを持ってきていたのだ。同時期にキルモーフ大進撃(仮名)が発表されていたため、そちらのカードを用意していたのだ。
「実は俺も」
「私も」
「え~、3人もいるの……」
コハルは、どうしたものかと考えた。
そしてふと、ナイスなアイディアをひらめいた。
「じゃあさじゃあさ、どっちも混ぜて遊んじゃおうよ」
「「「どっちも?」」」
「ほらたまにふざけて、P〇KEMONカードとかバトス(ピー)とか混ぜて遊んでるでしょあれと同じ感じで」
「おう、動画でそんなの見たことあるな」
「でしょでしょ」
コハルの提案に、参加者は全員のっかる事になった。
もしも、コハルがあらかじめカードを余分に用意しておけば。もしくはコピー機を借りて、新たなカードを用意しているかしていれば問題はなかった。しかし、ナイスなアイディアを思いついたと、はしゃぐコハルにその発想はなかった。
「なあエースとユニットって同じ扱いか?」
「そうだよ」
「じゃあさ、アクションと魔法も?」
「もちろん」
「なあコハル、エスワンには打点の表記がないんだけど」
「ああそれはね、ルールの方で全部2点になるって書いてあるよ」
「サンキュ」
この程度の質問は、コハルの予想済みだ。
コハルは、自分が思い描いたとおりに事が進んでいる事に満足していた。
問題が起こったのは、そのあとだ。
「おーいコハル、ここはどっち優先なんだ?」
「なになに、何でも聞いてよ」
問題になったのは、直接火力について。
エースオブワンにはシールドが存在し、それを破壊して初めてダメージが入る仕組みになっている。
では直接火力はシールド、ライフどちらを優先する効果なのかという話だ。ちなみに、そのあたりの処理が複雑なためエースオブワンには直接火力が存在しない。
「シールド……かな? ユニットの援護に使うんだよ」
「そっか、ユニットのアタックと連携するのか!」
「あはは、解決して良かったよ」
そして、また新たな問題が発生した。
エースオブワンのアタックは、対象をエースまたはプレイヤーの2つから選ぶ。一方のコマンダーVSは正面を攻撃し、敵ユニットがいなければダメージになる。このどちらを優先させるべきかという問題だ。
「う~ん、お互いいつも通りじゃダメなの?」
「それだとこっちは、シールド突破できないだろ」
「じゃあ、全部プレイヤーを攻撃できるようにとか」
「それされたら俺のライフが消し飛んじまうよ」
ここで問題になったのは、ルールの乖離ではなくゲームバランス。
シールドが存在するため直接攻撃を許されるエースオブワンと、ユニットが壁となるためシールドが存在しないコマンダーVS。その2つを戦わせれば、こうなる事はある意味当然であった。
答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。
よそのテーブルでは、既に最初の試合が終わろうとしていた。
「え~と……ごめん、ちょっと待ってて!」
コハルはスマホを取り、教室の外へ走り出した。
そして話は、冒頭へ戻る。
「おじさんどうしよう……このままじゃ皆帰っちゃうよ……」
『そうかそうか。コハル、その場の主催はお前で間違いないな?』
「主催!? うん……多分……」
『だったら話は早ぇ、そういう時は――
『イノシシが逃げたぞぉー!』
――こっちもトラブルだちょっと待て。
グリル班、山火事になる一旦火を消せ!
女子供は部屋の中に!
おいそこ死にてえのか! 追い回すな、逃がせ逃がせ!!
……それでだなぁ』
「おじさん大丈夫なの! 山火事がどうとか聞こえたけど!?」
『ああ、平気平気もう片付いたから。でだ、今みたいなときはコハル、お前が全部決めるんだよ』
「僕が!? でも間違えちゃったら、イベントが滅茶苦茶になっちゃうよ」
『安心しな、間違いは誰にだってあら。例えば昔からある将棋、あれも――
『どすこぉぉぉい!!! ふぅ~びっくりした♪ あ、先輩薪集めてきました』
『すげえぜお嬢ちゃん!』
『あの子、蹴りでイノシシをのしちまいやがった!』
――てな感じで将棋だって完璧じゃねえ』
「お、おじさん、今お姉ちゃんの声が! イノシシをやっつけたって……」
『ああ、こっちのことだ気にすんな。でまあ、全部を全部完璧にしようとしたら、時間も金もべらぼうにかかる。だから、普段気にしてないあいまいな部分をこうだって決めつける為に、主催や審判がいるんだよ』
コハルは返答に困った。
学校では、問題は話し合いで解決するよう習った、
『あいまいな部分を決めつける』
そんな事を自分がしていいのだろうかと。
コハルの気持ちを察したのか、おっちゃんが続けた。
『こう考えてみな、コハル、今日1日お前は神様だ』
「神様!?」
『そうだ。スポーツの世界でも審判の判断は絶対、選手は従うほかないし、リーダー以外話をすることもできない。話し合いしようにも、給料もらってるプロが対戦相手に折れてくれるわけがねえ。あ~だこ~だ言って試合が長引いて、最悪殴り合いだってあり得る』
「ケンカはだめだよ」
『だから、スポーツには決めつける為に神様が必要なんだ』
おっちゃんは、コハルの返事をしばらく待った。
「うん、やってみるよ」
『そっか』
コハルは通話を切り、教室に戻った。
「お待たせー」
「で、どうだった、こっからどうする?」
「ごめん。結局わかんなかったからさ、ルールが食い違ったら……
ジャンケンで決めちゃうって言うのは、どうかな?」
コハルの返答を聞くなり2人は……
「よっしゃ! 生死をかけたジャンケン対決!」
「勝っても負けても恨みっこなしだぜ!」
「いいや、俺は恨む~」
「何ぃー! だったら俺も恨む~」
静まり返っていた教室に、元気なジャンケンコールが響く。
その後もコハルは分かる範囲でルールに答え、
半分じゃんけん大会になりながらイベントは幕を閉じた。
なんやかんやあったが、最後は皆笑顔でイベントを終える事が出来た。
――その夜
「どうこれ、今日お姉ちゃんが職場でイノシシのお肉を貰ってきたそうなの」
「うん、すっごくおいしいよ、お母さん(モグモグ)。ごちそうさま」
「あら、もういいの?」
「うん、流石にもう食べきれないよ。だから明日はイノシシ鍋にしよう」
「いいわねぇ、お鍋」
コハルは食器を食器を片付けて、部屋へと戻る。
適当なノートを手に取り、何やら書きこみ始める。
――企画――
エスワン&コマV
・問題点 etc.
「成功させる、次は……必ず!」
続く
新企画 コハル杯、開催決定!?
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