第1話 開発アシスタントがやって来た
「おっちゃああああああああん、
おっちゃんおっちゃんおっちゃん、おっちゃ~ん」
土曜の静かな昼下がり、俺の住むアパートの玄関扉を蹴破るように小柄な
女子中学生が現れた。
「すごいてこれ! なあ見て見てこれ! マジヤバいてなあなあこれ!」
「分かった分かったから、あんま跳ねんな、床が抜けちまうだろうが」
飛び込んできた女子中学生は、興奮した様子で俺が寝転がっている
横でぴょんぴょんと飛び跳ね続けていた。
彼女は、細井さん。俺の年の離れた友達だ。
俺が趣味で開いている、ギター教室に去年から通っている。
まあ、ギターを口実に遊びに来てるようなもんだけどな。
「じゃん!」と、
そんな細井さんが取り出したのは、ゲームに使うカードの束と1冊のメモ帳だった。メモ帳の表紙にはこう書かれていた『開発アシスタント募集中』と。
「これな、駅前の店で見つけてな、やり方教わったらこれがまたドチャクソおもろくてな、そいでおっちゃんに自慢しよ思うて…………なんで!!?」
細井さんは、目玉をギョロっとさせて俺を見た。
正確には俺が戸棚から取り出したカード。細井さんが持ってきたのと同じようなカードの束とメモ帳をだ。
「ようこそ、俺の開発室へ。喜べ、アシスタント第1号だぜ」
俺は、細井さんに語り掛ける
「はわわわわわわわ。まじで? まじなん!? おっちゃんがゲームを、丸々1本!!?」
「いんや、まだ完成してねえ。書いてあるだろ、アシスタント募集って」
俺はガキの頃からカードゲームってやつが、死ぬほど好きだ。
けどガキの小遣いじゃロクにカードは買えねえから、デッキの強化もできずじまい。親に好きなだけ買ってもらえる他の奴らがうらやましくて仕方がなかった。
だから、自分で作って遊ぶ事にした。
ノートに名前や効果を書き込んで、クラスの奴らとな。
いつからだったか、俺は自分でオリジナルのゲームを作るようになった。けど生まれてきたのは、ゲームのゲの字もないような駄作ばかり。
高校受験や就職で忙しくなったのもあって、それからめっきりゲーム作りとはおさらばしてた。
それから幾年月、俺は大人になった。
そして、世間には数えきれない程のカードゲームが生み出されてきた。
そいつらを参考にすれば、今ならちったあましなゲームができるんじゃないかと思いついちまたんだ。
「最終的には、どっかのホールを貸し切って
俺のゲームで大会を開きてえと思ってる。どうだ、協力してくれるか?」
そして、チャンスがあれば実際に売り出してもみたい。
といっても、まずはきちんと物を作るとっからだけどな。
「もちろん! オレはなんぼでも手を貸したる。まず何したらええのん?」
「そうだなぁ、まず――
――ビタァァァン!!
2人の気合に水を差すように、何かが倒れる音がした。
ちらりと音のした先に目をやると、開けっ放しの玄関に人が倒れていた。
「ぜえぜえ、待っ、細……さん、待っ、ガクリ」
「「長井さん!!」」
倒れていたのは、背の高い女の子。
『長井さん』、細井さんの親友でクラスメイトだ。
俺のギター教室の、生徒2号でもある。
「え? 君、今日、補習言うとらんかったっけ?」
「お……終わらせてきました……速攻……で(ガクリ)」
「「…………」」
しばしの沈黙。
「とりあえず、長井さんを何とかしてからだな」
「せ、せやな」
続く
――――
「ところで補習って、長井さん何やったんだ新学期早々」
「なんやクラスの子とシール交換やっとったらしいわ、朝礼すっぽかして」
「あ~居たなー俺の時もそんな奴。それで居残りかよw」