映画と恋と冬
頑張ったご褒美に一人で映画を観る。
お一人様が平気な女って可愛げがないだろうか…?
でも誰かに合わせる必要がなくて好きなように観られるのって最高なのよ。
「あの、お一人ですか?」
「…えぇ、そうですけど。それが何か?」
眉間に皺を寄せイラついた表情で答えた私を見て、申し訳なさそうに頭を下げたのが彼だった。
…まさかこんな会話から恋が生まれるなんて思わないじゃない?
「あの、お隣いいですか…?急にすみません。」
なんて勇気のある人なのかしら?私なんかに声をかけるなんて。
「構いませんけど他にも席空いてますよ?」
面倒だな…と思った私は遠慮がちに隣に座った彼に一応、声をかけた。
「ご、ご迷惑ですか?あの、実は前から時々お見かけしていて素敵な方だなぁと思ってたんです。」
「えっ?あ、これってナンパですか?」
驚いた顔で言った私を見て、彼の顔が赤くなる。
耳まで赤くして俯きながら言う。
「すみません。勇気出してみたんですけど、ご迷惑なら他の席に行きますね。」
そう言いながら席を立とうとした彼の手首を私は咄嗟に掴んでしまった。
「大丈夫ですっ!……あっ!ご、ごめんなさい。」
パッと手を離したが思ったよりしっかりした感触に胸がドキドキと高鳴る。
「い、いえっ!驚いたけど嬉しいです…」
はにかんだ笑顔にまた胸がチクリと痛む。
初めて会う人なのになんでこんな…!?
「きちんと自己紹介させてください。俺、遠藤達也といいます。急に声をかけて本当にごめんなさい。」
私より少し年下なのだろうか?
笑うと可愛らしい雰囲気だけど、背が高くスラッとしている。
しっかりと目を見て話す彼に好感を抱いた。
「あ、大丈夫です。…ありがとうございます。」
「あの、お名前…伺ってもいいですか?」
私は自分の名前が嫌いだ。名前負けってやつ。
可愛い子じゃないと似合わない名前。
「…大和田菜穂です。」
「菜穂さんって言うんですね。可愛らしい名前だ。」
ニコニコ笑って本心から言ってるように見えた彼の様子に何故か笑ってしまった。
「えっ!なんで笑うんですか?」
「ううん。何でも。」
クスクス笑いながら、これから始まるであろう恋の予感に胸を弾ませている私がいた。
そのまま映画を観て、映画館を出た所で連絡先を交換した。
…二人で観るのも悪くないと思った。
「またここで。」
「はい!またここで。」
歩き出した私達に雪が降りてきた。
思わず振り返ると彼もこちらを見ていた。
『またね!』
二人の声が重なった。