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 海中から敵機が次々と姿を現した。

『敵の数は十機!』

 ララが緊迫した声で報告してくる。

『それだけか?周辺をもう一度スキャンしろ!レオ、ディー、被害状況を報告だ』

『十機?と言うことは一人三機。残りの一機を倒した人が勝ちってことで良いわね』

 ディーは被害報告そっちのけで不遜な提案をする。

『なんでもすぐに勝負にするのは止めろ』

 呆れた感じで窘めるレオの一号機の姿が噴煙の中から現れた。レオは集中攻撃を受ける寸前に機体を人型に変形させて、カニの甲羅に見える装甲を盾代わりにして攻撃を防いだのだ。ディーの機体も甲羅盾の内側で守られている。

『だったら、好きなようにやらせてもらうわ』

 ディーは戦闘機形態に変形して防壁から出た。

全てを貫き通す角アレスドルヒドゥリンゲンホーン

 そのまま一番近い敵機に突撃してその腹に大穴を開けた。

『まず一つっ、って何よ!』

 今度は得意げに快哉を上げている余裕はなかった。直線的な動きになったところを狙われて砲撃を受ける。

『ディー』

 レオが駆け付けようとするが、その行く手には三機の敵が立ちふさがった。

『どけ!全てを切り裂くハサミアレスシュナイデンシザー

 両腕に装備された巨大な刃で二体の敵機を切り裂いた。しかし、残る一体の触手に脚を絡めとられて、新たに背後から迫ってきた敵機の砲撃を受ける。

『くっ』

 レオは脚に絡みつく触手を切って逃れようとするが周りを囲まれて身動きが取れない。

『ディー、レオ、変形して一度距離を取れ』

 ジーナから指示が飛んでくるがそれすらも簡単にできる隙を見せてくれない。


 今から考えると最初に倒した三機はあまりにも手ごたえがなかった。脱出装置の射出がなかったということは無人機であった可能性がある。遠隔操縦なのか、自動操縦なのか?

 そして次に現れた十機の中には明らかに強いやつがいる。こちらには無人機だけではなく、有人機が混ざっており、それは無人機よりも強いのだろうと予測できる。

 定番であれば、有人機を倒せば無人機の動きも止まるのだろうが、敵味方が入り乱れる戦闘中にそれを見分けるのは容易ではない。

 見極めようとしている間にどんどんと追い詰められていく。


 レオの援護をもらえなかったディーは追い詰められていた。手に持った角を振り回すが、敵は届かないギリギリの距離から攻撃してくる。戦闘機形態に変形して全てを貫き通す角アレスドルヒドゥリンゲンホーンで包囲網を突破したかったが、エネルギー残量が心もとなかった。特殊攻撃は多量のエネルギーを消費する。最初に二回使ってしまったのは明らかに失敗だった。

『こんのおおおお』

 気合を込めた角の大振りは空を切り、体勢を大きく崩してしまう。その隙を見逃さずに蕾が殺到する。

 動きが止まってしまった二号機の眼前で、光線を発射しようとしていた蕾が爆発した。

 二つ、三つと次々に蕾が爆発していく。

「ディーさん、逃げてください」

『セイ?』

 ディーは戦闘機形態に変形して、バランスの崩れた包囲網から脱出した。

「そのまま、四時の方向に避難してください」

 セイはディーが指示通りに待避行動をとったのを確認してから、今度はレオを取り囲んでいる敵に照準を向けた。


 取り囲まれて最初の攻撃を受けた後、セイは一時戦線を離脱した。それを追いかけてくる敵はいなかったので、少し離れた場所から戦況を伺っていた。

 レオとディーが苦戦しているのは分かっていたが、すぐには援護しなかった。数の劣勢はまだ続いている。セイが戦闘に参加しても数で押し切られてしまうかもしれない。戦況は一気にひっくり返さなければならない。その機を待っていたのだ。

 構えている長距離狙撃銃ロングレンジライフルは、ヴァウピリー四号機の標準装備ではない。出撃の直前に整備士長のアダに頼んで載せてもらったものだ。

 先日のストーム・ネスト(ゲーム)での対戦でディーが前衛タイプであることは分かっていた。レオはディーの近くで闘いたいと思っているように思えた。となるとこちらも前衛になる。

 二人が前衛なら自分は後方支援を担当するべきだ、腕の調子も完全ではないので激しい行動はしないほうが良いだろう。そう考えての選択だった。




 三人が出撃してすぐ後に、アダからジーナに「事後報告になって悪いんだけどね」と連絡が入っていた。セイの注文で四号機に長距離狙撃銃ロングレンジライフルを搭載したとの報告だった。

 ジーナはそんな短時間で長距離狙撃銃を装備させる整備士たちの腕に驚いたが、即座にセイの意図を把握して、その考えの速さにも舌を巻いた。

 そしてセイは、その考えが正しかったことを目の前で示してくれている。

 標準装備ではない長距離狙撃銃の威力はあまり強くなく、単発では敵本体を叩くことはできない。しかし本体から伸びる触手の先に付いているバラの蕾状のパーツを撃ち抜く程度なら可能だ。

 セイはレオとディーに迫っていた蕾を次から次へと撃ち落として苦境を救っている。

 敵の意識が狙撃手へと向けられる。

 その瞬間、レーダで戦況を見ているジーナにははっきりと一本の道が見えた。

『ディー、今だ!』

 セイが短く指示する。

 天才パイロットはその一言で意図を理解してみせた。さすが天才。

『アレスドルヒドゥリンゲンホオオオオオーン』

 頭の先端に角をはやすイッカクを象った二号機が銀色に輝き、突撃する。

 一直線に並んでいた敵機四機の腹に大きな穴が開いた。

「これを狙って指示したのか?」

 その想像に、ジーナの顔に冷や汗が流れた。

 大スクリーン上で大きな爆発が四つ確認され、四号機はそれを満足そうに見た後で次の目標に向かって行った。




 一撃で四機の敵を撃破したものの、三回目の特殊攻撃を行ったために二号機はエネルギー切れとなり、徐々に高度を下げていっていた。激しい攻撃を受けていたために損傷も酷い。

『もう、動きなさいよ!私はまだ闘えるんだから』

 ディーは荒々しくシートを叩くが、二号機は徐々に戦線から離脱していく。

「ディーさんは待機していてください」

 セイはお願いしながらソナーを使って周囲を索敵して、海中、空中に隠れている敵の気配がないことを確認した。残る敵は三機。

 レオは、三機の敵を一人で相手にして苦戦していた。

 一号機の両手足を触手で縛られ、電撃攻撃を受ける。

『ぐわあああああ』

 体の自由を奪われ、絶叫を上げる。機体に施された耐電装甲のおかげで感電死することはなかったが、ぐったりと項垂れる。操縦席にアラート音が鳴り響く。

『触手を切って逃げて』

 ジーナの指示が聞こえるが、それができればこんなことにはなっていない。もう一度今の電撃攻撃を受けると気絶してしまうかもしれないと弱気になったところで、その攻撃が来た。

『がああぁっあああ』

 電撃を受けると体が自分の意志とは違う動きをしてしまう。悲鳴を上げるのも困難になりながら、なんとか意識を保とうとする。

 意識を失う寸前に、その攻撃が止んだ。

 敵は拷問のセンスがある。

「レオさん」

 自分の名を呼ぶ声に応えるように操縦桿を動かす、そうすると先ほどまではびくともしなかった操縦桿が動いた。

 驚きながら力を振り絞ってモニターを見ると、機体を縛っていた触手が狙撃を受けて次々と切断されていた。

 敵の意識が狙撃手である四号機の方に向けられた。四号機は長距離狙撃銃を捨てると、剣を抜いて接近してきた。一号機を先に倒すのか四号機を迎え撃つのか、判断が遅れ、これまで統率が取れていた敵三機の連携が乱れた。

『アレスシュナイデンシザー!』

 レオは不用意に背中を見せた二機を切り伏せた。

 残りの一機は瞬く間に形勢逆転されてしまったことで一瞬動きを止めてしまった。そこに四号機が切りかかる。

 敵機はその場で高速回転をした。

伸ばされていた触手が空を切って回転し、四号機に叩きつけられた。

「くっ」

 思わぬ攻撃をまともに受けて四号機が海面へと落ちていく。

 損傷した触手を切り離した敵機の四隅の部分が指上に変形し、全体として巨大な手のような形になった。背部の推進機関から大きな炎を噴出しながら速度を上げ、落下していく四号機に襲い掛かって見事に捕まえた。

 巨大な指に力が込められ、四号機は握りつぶされそうになる。

 機体の各所から火花が走る。


「くそっ」

 金属が押しつぶされていく音が操縦席まで響いてくる。

 セイは操縦桿を操るが、敵機を振りほどくことができない。

 ついにコクピットのあちらこちらで小爆発が起こる。

「またダメだっていうのか」

 セイはあがきながらも呟く。

 長距離狙撃がうまくいって少し調子にのってしまった。

 単純な自分のミスだ。

 また役にたてなかった。

 もうループはない。

 こんなところで、世界を救うこともできずに終わってしまうのだ。

 またコクピット内で爆発が起こる。

「うわあぁぁぁっ」


『動くな!』

 その声と同時に大きな衝撃が来た。


 ヴァウピリー四号機を握りつぶそうとした敵機の本体部分の右側に金色の刃が、左側には銀色の角が突き刺さっていた。

『『たああああああああ』』

 右から差し込まれた刃は切り上げられ、左から差し込まれた刃は切り下げられた。

 指の力が弱まったのを見逃さずに、四号機が束縛から逃れる。

 それと同時に敵機が爆発した。

 暗闇が落ちてきた空のそこかしこでは噴煙が上がっているが敵機の姿はない。十三機の敵を三機で倒すことができた。ヴァウピリー隊初出撃は大勝利であった。



 機体のダメージはかなり大きかったが、戦闘機形態に変形させると、なんとかまだ飛行可能だった。

『大丈夫かな?』

 金色の機体が横に並んできた。その向こうを飛ぶ銀色の二号機もみな、かなり損傷している。

「はい。助けてくださってありがとうございました」

 セイのお礼に、レオは爽やかな笑みを見せる。

『お礼を言うのは私の方だよ。ありがとう、助かった』

「そんな……」

 まっすぐな感謝の言葉をもらってセイは感動して喜んだ。

『ふん、まぁ、けっこうやるじゃない。その調子でこれからもよろしくね』

 照れているのか怒っているのか分からない口調のディーは赤い顔をしている。

『お疲れさま。三人ともよく頑張った』

 ジーナから通信が入った。

『ただ機体はもう限界だ。こちらに戻るのは無理そうだから、アメリカの施設を借りて修理することになった』

『アメリカの?大丈夫なの?』

 ディーが軽口を叩く。

『大丈夫じゃないときは、そっちでなんとかしてくれ』

『そんな無責任な』

『迎えの戦闘機に付いていってくれ』

 頭上を轟音を上げて飛んで行ったアメリカ軍の戦闘機は爆装しており、迎えに来たわけでないのは明らかだった。ヴァウピリー隊のおかげで出番が無くなってしまい、送りオオカミを命じられてしまったのだ。パイロットたちはさぞ不満であろう。

 翼を振って合図してきた戦闘機に対して『追い抜いてやろうかしら』と唇の周りを舐めながら加速したディーであったが、二号機に軽い爆発が起こって一気に失速した。

『大人しくしていろ』

 レオは窘めながら助け上げる。


 セイは二人の後ろを付いて飛びながら、水平線に太陽が沈もうとしているメキシコ湾の美しさに目を奪われていた。



#19~#21はエアコミティア140参加作品です。


※2022年8月10日 #1~#18を加筆修正しました。

※2022年9月1日 #17~#18を#17~#21に再構成しました。

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