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ヒトの歴史が終わるまで  作者: スモアmore
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喪失、真実、奮起

 目を覚ますと、そこには廃墟と化した首都が広がっていた。

 

「っ!?」


 上を向くとあのカラス型の『モンスター』が私をつかんで、空を飛んでいた。猛スピードで飛行しているから、風が体を激しく揺さぶってきて、独特の獣臭と合わさり吐き気を催す。

 視界の隅、地上が光ると私の顔の真横を鉄塊が矢のように飛んでいった。

 見ると、これも先程襲ってきたトラ柄の『モンスター』達が消化器を咥えて、首を振ると勢い良く投げてきた。

 走りながら放り投げてきたので遠心力も加わり、今度はカラス型の『モンスター』に当たった。

 カラスは白目を剥きアスファルトの上に墜落した。掴まれていた私も一緒に地面に投げ出される。

 勢いよく地面を転がり、膝は擦りむいて血が滲み、右腕は内側から味わったことのないような痛みを感じた。

 痛みと吐き気に気を失いかけるが、それよりもと私は転がった拳銃を握ると、リロードをしっかりと確かめ、カラスを貪る(むさぼる)トラ柄の『モンスター』達に、3発発砲した。

 カラスに夢中で私に気づかなかったのか、あっさり絶命してくれた。

 肩で息をしながらも、一度冷静になった途端、頭から血が出ていることに気がついた。その瞬間、美空みそらちゃんが海に落ちていったことを思い出した。

 あのとき、私が手を離したから。美空ちゃんは海に落ちた。橋の上から、何十メートルもある高さから、海に落ちた。つまり、美空ちゃんはもう――

 全てを理解したとき、美空ちゃんを死なせた罪悪感と誰もいない世界で本当の意味で一人きりになった孤独感で、私は押しつぶされた。


 声になら無い嗚咽を漏らし、私は一歩も動けなかった………。




     □ □ □


 目が覚めたら、私は空港と思わしき建物にいた。頭には乱雑でありながら丁寧に包帯が巻かれ止血され、体には毛布がかけられていた。

 未来みらいちゃんが掛けてくれたのかと思ったが、周りには生き物の気配はしなかった。

 誰が掛けてくれたのか、不思議で仕方ないけど今は未来ちゃんがどうしいるかだ。

 私が落ちた後、車から炎が上がっていた。まずはあそこまで戻らなきゃいけない。そこに未来ちゃんが無事でいなくても、ちゃんと最期を看取らなければいけない。人類最後の生き残りだからではない。私が大好きな未来ちゃんとこれからも生きていくために――。

 私はこれからの行動を決めると、乱れた服を整え、毛布を綺麗に畳んでそこに置いた。


「誰かはわからないけど、治療してくれてありがとうございます。それでは私は行ってきます。大好きな、大切な人ともう一度会うために……」


 礼儀正しく名も知らない『誰か』にお礼をすると、私は自動ドアから外に出て駐車場に止まっていた白色の軽自動車に乗り込み、エンジンを掛けた。


「まっててね、未来ちゃん。今から迎えに行くから!」


 アクセルを踏み込み、出せる限りのスピードでレインボーブリッジに向け、走り出した。

 その光景を屋上から眺めている人ならざる者は、微か(かすか)に微笑む(ほほえむ)と、静かにその場から飛び降りたのだった……。



     □ □ □


 もう生きる気力もないのに、体は勝手に動いていた。『モンスター』に見つからないように建物に行かないと、傷を塞いで回復させないとと、無尽蔵に動いている。

 しかし、右腕に添え木を巻こうにも、利き手とは逆で全然うまく行かない。一人だけの部屋にカランカランと虚しく添え木の落ちる音が響く。

 もうここがどこなのか、何時なのかもどうでもいい。私は人殺しだ。たった二人しかいない最期の人類、その一人を殺した。好きになった、温もりをくれた人を、私は、殺した。

 もう、ここで死んでしまいたかった。そうだ。人間は何も食べなければいつかは死ぬのだ。それまでここでじっと蹲って(うずくまって)いよう。そう最後の思考をすると、私は背中に寄りかかった。

 途端、あるはずの壁がガコンと音を立てなくなり、私は後ろに倒れた。

 そして頭の上に大量の本やらファイルやらが降ってきた。

 みると、そこにあったのはコンクリートの壁ではなく錆びた鉄製の本棚だった。

 私が寄りかかったせいで本棚の足が私の形にへこみ、倒れたらしい。

 しょうがないので立ち上がって反対側の壁に移動しようとした。

 しかし、ひとつのファイルがくぐもった私の目に写り込んだ。

 大して興味もなかったが、何故か私はそのファイルを手に取り、ページを捲った。

 そこには『各国研究所からの報告書まとめ』と書いてあった。下にはフランスやイタリア、アメリカなどよく聞く国もあれば聞き慣れない国まで、様々な研究所の報告書があった。

 ほとんどが日本語で書かれておらず、内容はわからなかった。しかし、私は英語の成績はよかったので、アメリカの報告書だけはなんとなく読めた。

 英単語を考えていると、何年ぶりかのような思考に自分の目が光を取り戻す感覚がした。

 そして、読み進めていくと、ひとつの文で手が止まった。

 そこに書いてあったのは・・・日本語に訳して「魂に感染するウィルスの存在を確認。また、その生成方法の開発成功」とあった。

 魂――それは時にオカルトとして、時にロマンとして語られる代物。

 死んだら体重が21グラム減ったなどの話は存在するが、私はそういう類のものを一切信じないたちだった。

 そんな眉唾のものに感染するウィルス・・・?一気に胡散臭くなった。

 しかし、続きを読み進めると、「感染後は、99.5%の確率で実験対象が死亡。また、骨格が不自然に歪み、臓器の消失も確認。しかし、今なお生命活動を行う個体も確認。感染手段は皮膚接触により、接触からおよそ5分で死亡する。唾液を使い増殖し、飛沫感染も起こる」と、幻想を現実にする、ありえたくない研究報告が綴られていた。

 ふと窓の外を見ると、そこには鉄骨が折れ崩壊した建物や、無人の都市に鳴り止まないサイレンの数々、血肉を燃料に消えることなく燃え盛る炎があった。

 本当に今更ながらに、目の前には地獄があった。

 この悪夢を引き起こした原因が、今、手元に綴られているものだとしたら・・・

 私達はここに書かれている0.5%を引いたと言うのだったら・・・

 頭が理解した途端、自然と涙がこぼれた。

 あの時、どうしても流せなかった雫が頬を伝った。

 わかった。やっとわかった。あの時、私は悲しくなくて泣けなかったんじゃない。わからなかったんだ。わからなかったから、頭が理解できなかったんだ。だから、泣けなかったんだ。

 心が、じんわりと満たされてきた。今まで訳のわからない黒色に支配されていた心に、ぬくもりと、様々な明かりが灯った。

 こんなところで死んでいられない――。

 気がつけば激痛の走っていた右腕も動かせた。喉に居座っていた塊も消えた――

 確かに、私は美空ちゃんを殺してしまった。助けることは、できなかった・・・。

 でも、だからと言って私が諦めていいことにはならない。逆に、みんなの分までちゃんと生き抜かなきゃいけない。そのために、今、立ち上がらなきゃいけない――!

 ふと入り口を見ると、あの日、何もわからなかった私を襲ってきたやつに似た、オオカミ型の『モンスター』がこちらを見ていた。

 拳銃の弾はもうない。使える武器は腰に備えていたお父さんのサバイバルナイフのみ。

 けれど、それで十分だった。今なら、何でもできる気がした。

 スラリと鞘からナイフを抜き、『モンスター』を見て私は言った。

「こんなところで死んでいられないの…!だから、私は戦う!」


 どこまでも聞こえそうな決意の言葉と共に、終わりゆく都市での戦いが始まった――。


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