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ヒトの歴史が終わるまで  作者: スモアmore
4/7

出発、温もり

 翌朝、二人で給食室に行くと、パックの牛乳とコッペパンを朝食にした。

 食べながら、今日の予定を話す。一度、二人の家に行くことにする。そこで荷物をまとめる事にした。

 午前9時頃、校舎を出て住宅街に向かった。

 道中、道の至る所に謎の肉塊が転がっているのを見て、昨日の出来事はすべて夢ではなかったと改めて実感した。

 まず、美空みそらちゃんの家に行った。青色を基調とした、落ち着いた色合いの家に二人で入った。

 家の中は謎の肉塊―いや、美空ちゃんの両親だったものが転がっていた。

 私は今は肉塊と成り果てた美空ちゃんの両親にゆっくりと手を合わして目を閉じた。

 目を開けると階段を上って『美空の部屋』と書かれたプレートの部屋に入った。

 全体的にマンガや雑誌類が多い印象だった。

 美空ちゃんは手早くリュックに着替えや防寒着、そして首に手鏡のついたネックレスを首につけた。

「パパとママに買ってもらった宝物なんだ」と教えてくれた。

 私たちは外に出た。美空ちゃんは玄関を閉め、さびしそうに「いってきます」と一言言って、その場を後にした。


     □ □ □ 


 学校をはさんで真逆の位置にある私の家までは結構な距離を歩いた。

 途中、交番で拳銃や警棒を手に入れた。これで、もしまたあの『モンスター』が襲ってきても大丈夫だ。

 私の家に着くと玄関が開けっぱなしになっていた。私が昨日飛び出したきりだったのを思い出した。

 恥ずかしくなりながら家の中に入ると・・・なかった。

 肉塊となりはてたはずのお父さんが、お母さんが、弟が、いなかった。

 さらに何故か車庫から車も無くなっていた。

 美空ちゃんは何も疑問に思って無さそうだったので、私は一旦そのまま置いておくことにした。

 美空ちゃんと同じように大きなリュックに着替えと防寒着を詰め、キャンプ好きのお父さんのサバイバルナイフも入れた。

 外に出ると突然疑問が起きた。


『ねえ、このあとどこに向かうの?』


―そう、旅をするのはいいけどどこに向かうかである。

 ルーズリーフのノートにそう書き、美空ちゃんに聞く。


「そうだなあ…とりあえず、東京に行ってみよう!都会だったら人もたくさんいるし、一人ぐらいは生きてる人がいると思うんだよ」


 美空ちゃんの意見に異論はない。だけど・・・


『どうやってそこまで行くの?』


「あっ・・・」


 私たちが今いるこの町は中部地方の山岳部に位置する。

 愛知や静岡に行くまででも相当キツイというのに、それが東京。移動距離はざっと200km。

 しかも移動方法は歩き。陸上部でもないただの女子中学生ができるものではない。

 美空ちゃんはしばらくうんうん唸って考え、「あっ!」と閃いた。


「未成年だけど、車の免許を取ろう!そうしないとどこにも行けないからね」


     □ □ □


「はあ、はあ、やっと、着いたぁ~」


『疲れたね~』


 あれから一日中歩いて、最寄の自動車学校まで来た。太陽はすでにオレンジ色に輝いていた。


「さて、ここまで来たけど、もうすぐ夜だから今日の寝床を探そうか!」


『自動車学校で寝ないの?』


「旅をするって言ったけど、さすがに寝泊りは乙女としてもしっかりしたところがいいのよ。誰もいないんだし、ホテルでも探そうか」


 そうして、近くのホテルらしい建物を探す。しかし、観光地があるわけでもない田舎にホテルなんてそうそう無く。

 唯一あった、世間一般的に『ラブホテル』と呼ばれるお城みたいな建物で寝ることにした。

 入るときはなんともいえない背徳感と興奮にドキドキしたけど、入ってみるとお風呂は大きいし室内は広いしと良さげな場所だった。

 でも何故かお風呂はガラス張りで恥ずかしかった。やっぱりここはそういう場所だと実感した。

 二人とも部屋に入るなり赤面して、一言も会話しなかった。というかできなかった。


「え、えっとさ!と、とりあえずお風呂はいろ?大分歩いて汗かいたし。未来みらいちゃん先どうぞ」


『いやいや、私は大丈夫だから美空ちゃんが先にどうぞ!』


「いやいや未来ちゃんが先にどうぞ!」


『いやいや美空ちゃんの方が先にどうぞ!』


 お互いに譲り合って一歩も先に進まない。

 で、結局一緒に入ることなった。

 体を手早く洗うと、ちゃっちゃと上がろうと先に湯船に入った。しかし、美空ちゃんも同じ事を考えていたらしく、一緒のタイミングで入ってしまった。

 お湯が熱いからなのか、恥ずかしいからなのかは分からないけど、猛烈に顔が赤くなっているのが良く分かる。

 ふと美空ちゃんの方を見ると、美空ちゃんもこれまでにないぐらい赤面していた。

 そして視界の隅に私の何倍も大きなおっぱいも見えた。少しだけショックを受けた。


「えっと~あんまり見ないで…?」


 あまりにじっくり見ていたせいで気づかれてしまった。


「…っ!っ!!」


「ちょっとぉ・・・恥ずかしいよぉ」


 声が出ないことがここにきて不便に思った。

 そのままお互いに何も言えずにお風呂から上がった。

 でも問題はまだある。ベッドのことである。

 私は美空ちゃんが何か言う前にシャシャシャっとノートに書いた。


『私は床で寝るので!おやすみ!』


 電光石火で部屋の入り口に行くとすかさず電気を消して私は床に寝っころがった。

 後ろのほうからごそごそと美空ちゃんが布団にもぐる音がした。

 私はドキドキうるさい心臓を置き去りにして意識を手放した。


     □ □ □


 あれからどれぐらいたっただろう。ふと寒さに目が差めた。

 お風呂を上がってからすぐに眠ったから、湯冷めした感じだ。

 暖かい布団が恋しくなるが、ベッドは美空ちゃんに譲ってしまった。

 私はどうすることも出来ず、手と足をさすさす擦ることしか出来なかった。

 こうしてみると、いつものように優しくしてくれていた両親が恋しくなった。

 でももう二人とも死んでしまった。亡骸すらもどこかに消えてしまった。寂しいと声を上げることも出来なくなってしまった。

 今更ながら、自分がもう孤独だということを理解した。理解した途端、静かに涙がこぼれた。そのまま消えてしまいたくもなった。そう思ったらさらに涙が出てきた。声を出すこともできず、一人静かに嗚咽を上げることしか出来なかった。


「どうしたの、未来ちゃん」


 突然、声がした。

 嗚咽がピタッと止み、振り返る。そこには、ベッドから顔を出して眠そうに目を擦っている美空ちゃんがいた。


「そんなところにいたら寒いでしょ?ほらおいで?」


 布団を手で開けて、美空ちゃんは優しく誘って来た。私はそこにゆっくりと入った。すると、突然抱きついてきた。

 びっくりしたけど声はでない。


「私ねーいつも寝るときはイルカの抱き枕を抱いて寝てるんだー」


 美空ちゃんは私に抱きつきながら一人話す。


「私ねー夜って怖くて嫌いなんだー。でもね、こうして何かに抱きついてると、不思議と落ち着くんだよー」


 私はゴロンと寝返りを打って美空ちゃんを見る。そこには、優しく、穏やかな笑顔があった。


「だから、未来ちゃんもー寂しくなったら、私に抱きついていいよー。そしたら抱き返して上げるからー」


 美空ちゃんは言い切ったのか、また静かに寝息を立て始めた。

 私は、そっと美空ちゃんに抱きついた。そしたら、美空ちゃんもそっと抱き返してくれた。

 私よりちょっと大きなその胸からは、確かな温もりを感じられた。


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