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苦手な方はご注意ください。

第七帝国艦隊VSアンノウン

作者: 黒桐

 星間国家タイタニア帝国。

 四つの銀河を支配するその銀河文明は更なる領土拡大のために、同じく惑星外へとその生活圏を広げた他文明と戦端を開いていた。

 その宇宙艦隊の一つ第七帝国艦隊は、敵対文明を滅ぼしその惑星系の実効支配を終えたのち、さらなる支配領域を求めて宇宙を進んでいた。

 恒星を圧縮収納し動力炉とした旗艦ティターンを中心にして、惑星級艦七隻、小惑星級百隻、護衛艦一万隻の大艦隊はさながら一つの惑星系が丸ごと動いているかのようだ。


「で、あの蛮族どもが支配できなかったという惑星系はあれか」


 旗艦ティターン艦橋。総司令である初老の男は巨大なメインモニターの先に映る惑星系を見ながら呟いた。


「接収したデータに間違いがないのであればその通りですな。彼らは禁断星系と名付けていたようです」


 総司令の言葉に応じたのは隣で端末を操作していた副長だ。

 彼がさらに操作を進めるとモニターに惑星系の観測結果が表示される。


「ほう、どうやら我らと同じ人間型の生命が発生している可能性のある惑星があるのか」


「ですが惑星外に出てこられるだけの文明は築いてはいないようですな」


「ならば恒星風かブラックホールなどの環境の問題で侵入困難というわけか?」


「いえ、そういったモノは観測できておりません」


 惑星の大きさから地表観測による動植物の誕生繁殖の有無まで様々な情報が補足されたモニターを眺めながら会話する二人に、観測官からの報告が入る。


「総司令、進路上に時空振動を感知、パターンから何者かが空間転移してくるものと思われます」


「なに、アンノウンが現れただと?」


「数や大きさどれほどです。予測数値で構いません、すぐに解析をしなさい」


 総司令は僅かな驚きの言葉を、副長はすぐさま対応の指示を出した。


「数は一、大きさは護衛艦よりもさらに小さい……弾頭サイズ?」


 返ってきたのは観測官の困惑の混じった声。

 彼の口にした弾頭サイズというのは、艦隊に採用されている実態弾のことで、50m前後の特殊な加工のない純質量弾頭を指したものだ。


「何者かの攻撃かもしれません、全艦防御態勢に移りなさい。合わせて出現場所をメインモニターに拡大表示してください」


 副長の声にメインモニターは惑星系全体から、真っ黒な宇宙空間にその映像を切り替える。

 一見、何もない空間のようだったが、すぐに目に見えた変化が訪れる。鈍い紫色の光を放つ方陣が描かれ始めたのだ。


「これはまた、随分と仰々しい転移ですな」


 どこか儀式めいたその光景に思わずといった様子で副長が声をもらし、総司令はその方陣を注視しつつも、頷きで同意を返した。

 やがて、何かしらの法則性のありそうな幾何学模様の正円の方陣が完成すると、その全体が発光し始め、ゆっくりと何かが出現していく。

 それはまるで別の空間からそこへ沈んで出てくるかのように、さながら降臨でもしているかのような様子で下から現れた。

 アンノウンは人型をしていた。

 サイズは予測どおりの50mほど。青黒い装甲、胸部や各関節部に発光体があり、全身に装飾と思われる突起や背面の後輪など、何かを模して造られたと思われる部分がある。

 そして頭部には明らかに人の顔を意識したと思われるツインアイや掘り込みがあった。


「く、くく、なんだあれは、こちらを笑わせに来ているのか、まさか蛮族どもはあれにいままでやられていたというのか」


 宇宙での戦いにおいて人の形を模すことに有効性はない。現に彼らの率いる艦隊はその全てが卵型の、全方位からの攻撃を想定した球体に近い形をしている。


「あのアンノウンは転移をしてきたのです。それなりの技術を持った何者かが背後にいるのは確実でしょう。もっともすでに滅んだ文明の防衛機構が未だ稼働している。という可能性もありますが」


 笑いをこらえる総司令官に、窘めの言葉とともに出自の予測を付け加える副長。


「そうだな、惑星系内にそれだけの技術を持った文明がないのだから、いずれかの惑星に先史文明の遺跡があり、そこから転移してきたというのがもっともベターな推理だ。ともあれ骨董品だと舐めてかかると第四艦隊のように損害を出しかねんな。艦隊を分けるぞ。惑星級一隻、小惑星級十隻、護衛艦千隻で先行艦隊を組ませて前進させろ、のこりは現在位置に待機だ」


 かつて稼働する先史文明の戦艦数隻が敵として帝国艦隊を認識し攻撃を仕掛けてきたことがある。

 即座に轟沈させたものの相手の動力炉が縮退炉であったために重力崩壊を起こし、その巻き添えで艦隊の半分を失ったという第四艦隊の失態を思い浮かべながら、総司令は指示を出す。

 旗艦の量子演算システムは各艦の選出を行い、すぐさま艦隊は二つに分けられた。

 その間もアンノウンは出現宙域から微動だにしておらず、それがこちらを待っているのか、実は動くことが出来ない代物のかさえも分からない状態だ。


「こちらの動きに対して対応がない……? アンノウンが実はデコイか機雷の一種で別に何かが潜んでいる可能性もありますかなコレは」


「その辺りもひと当てすればわかることだろう」


「ですな、念のため重力アンカーの準備を指示しておきましょうか。重力崩壊から先行艦隊を引っこ抜く必要もあるかもしれません」


「心配性だな副長は」


「私は杞憂を重ねるのが仕事ですよ」


 二人が会話をしている間にも、先行艦隊はアンノウンとの距離を詰めていき、やがてその射程圏内にアンノウンを捉えた。



 ソレは近づいてくる大巨大極大様々な卵型の人工物、宇宙艦隊をその目に捉えていた。

 その後方にも同じような形をした、さらに大きな卵型の艦影も見えるが動きを見せないことからまずは近づいてくる艦隊へ対処に動く。

 その背にある後輪に光が宿るのと同時に、艦隊から砲撃が開始された。



「な、んだと?」


 メインモニターに映し出された光景に、思わずといった様子で総司令は声をもらした。

 その声に宿る驚愕の感情は、副長や艦橋にいる観測官含めたメンバー全員の共通のものだ。

 先行艦隊の放った万を超える光弾の集中砲火が、アンノウンの手前の空間で見えない壁にぶつかったかのように止まっているのだ。

 光弾は全て爆散もせず縫い付けられたかのように止められており、続けて放たれた第二射、第三射も同じ。まるでそれ以上は進むことが出来ないと阻まれ停止している。

 先行艦隊を率いる惑星級艦から、指示を仰ぐ通信が届き、そこで副長はゆっくりと口を開く。

  

「どうやらアンノウンには空間に干渉する能力が備わっているようです。でなければあのようなことが出来るわけがありません。であれば転移してきたのも奴自身の機能であるかと」


「確かに優れた防御機構を備えているようだな」


「ええ、我々からは静止しているように見えますが、アレは特殊な空間に囚われているものかと」


「総司令、アンノウンに動き出しました」


 アンノウンの能力について議論しようとしたところで、観測官から声が上がる。

 アンノウンはその右手を動かし、こちらへ向けようとしていた。


「何をする気だ。先行艦隊に警戒態勢をとるように指示しておけ」


 向けられた手のひらに訝しみつつ、指示を出す総司令。

 そしてすぐにその動作の理由が示される。

 アンノウンはその向けていた手のひらを手首をひねりながら握ったのだ。

 だたそれだけの動きで、状況は大きく変化し始める。

 停止していた光弾がゆっくりと、アンノウンを中心として回り始めたのだ。

 万を超える光の正円が生み出されていく光景に、誰もが困惑する。それが一周したとき何が起きるのか、まったく想像できないのだ。

 たった数秒の思考停止。

 その代償は大きかった。


「なぁ――!?」


 一巡した光弾は、発射された際の弾道をなぞるように、まるで映像を逆回ししたかのように、先行艦隊へと送り返されてきたのだ。

 寸分たがわず先行艦隊へ戻ってきた光弾は自らを撃ち出した砲身を破壊する。

 先行艦隊の艦影に爆光に包まれていく。

 

「………先行艦隊、惑星級艦からの報告です。全艦主砲全損。ですが艦の運航に支障なしとのこと、指示を待つとのことです」


 唖然としていた総司令と副長の二人に、先行艦隊からの損害状況が告げられる。


「先行艦隊は下がらせろ、どうやらアンノウンはこちらの理解を超える兵装を装備しているようだ。生半可な攻撃では先ほどのように反射されかねん」


 後退を指示した総司令に副長が声をかける。


「ではどういたしますか。アンノウンの力の一端は確認できました。このまま撤退するという手もあります」


「いや、どうやら、奴はこちらにうって出るつもりの用だぞ」


 総司令が睨みつけるモニターに映るアンノウンは前進を始めていた。



 ソレは己に課せられた役目を果たすために行動を開始した。

 相手艦隊の懐を目指し加速するこちらに艦隊は攻撃を再開する。

 先ほどのような光弾ではない、実弾だ。弾速は光弾に比べれば鈍く、回避は容易い。

 最短進路を塞ぐ衛星クラスの艦は、収納空間から取り出した大剣で両断しつつ、真っ直ぐに進む。


『――な!? あ――ないだろう、なんであんな矮小な剣で艦を両断で―る。あんなものよりこちらの装甲の――が厚いだろうが』


 そこで相手の通信の解析が終わり、断片的ではあるが敵性存在の言葉を拾う。


『アンノウンをこ――上進ま――な、何かをするつもりだぞ』


『駄目だ! 小さすぎて副砲ではアンノウンをとらえきれない』


『惑星級からの指令がきた。後退ではなく散開、とにかくアンノウンとの距離をとれとのことだ。その後に重力波砲が使用される。巻き込まれるなよ』


 ソレは交わされる会話から対応策を決めた。

 胸部の装甲が展開し、その中に隠されていた発行体がせり出してくる。

 三つの球体状のそれは一際強い光を放ち始めると、放電現象を起こし、更には空間をゆがめ始める。

 そして頭上に黒い何かを作り出した。

 球体状の何かはまるで底なしの穴にさえ思え、それを見て周囲の艦隊では更なる通信が飛び交う。


『なんだアレは、解析いぞげ!』


『重力異常が発生しています! それだけじゃない、位置情報のエラー……? ちがう艦隊がアンノウンに引き寄せられている!?』


『だめだ衛星級じゃあ出力が足りない、逃げられない。誰が重力アンカーで艦を引っ張ってくれ』


『こっちだって現状維持で精一杯なんだよ、均衡が崩れたら一気に吸い込まれちまう』


『疑似ブラックホールだってのか? そんなものを作り出してなんでアンノウンは無事なんだ!?』


 怒号と悲鳴じみた声がかわされる中、黒い球体が僅かにその表面を波立たせ、弾けた。



 先行艦隊が黒い球体に飲み込まれていく。

 旗艦ティターンの艦橋にいた者たちはその光景をただ見ているしかない。

 アンノウンが黒い球体を作り出したかと思えば、先行艦隊は重力に囚われ脱出できないと連絡が入り、こちらが対策を講じる前に巨大化をはじめた球体の中に消えていく。

 そして先行艦隊を全ての見込むまで広がった黒い球体はそのまま消えていき、残ったのはアンノウン一体のみ。

 デブリ一つない宇宙空間の真ん中で、アンノウンはこちらを向いていた。


「奴は何をした。これはいったいどういう現象だ……?」


「わかりません。あの球体が広がる前は重力異常を感知していましたが、あの広がっていく現状に対して何の解析もできませんでした」


 忌々しげな声をもらす総司令に、副長もまた苦悶の表情で答える。

 第七艦隊の一割強の艦隊がろくな成果を得ることのできないまま跡形もなく全滅した。

 その事実に怒りを覚えながらも総司令は次の一手を思案する。幸いにも本隊とアンノウンとはまだ距離があり、このまま撤退するのも間違いではない。

 だが、怒りと誇りと犠牲が、その選択に否を示す。このまま逃げ帰ってよいのかと問いかけてくる。

 あれほどの攻撃を連発できるものなのか、ここで退けばアンノウンを倒す機会を見す見す手放してしまうのではないかと考えてしまう。

 そうして黙ってしまった総司令に声を駆けようした副長は、しかし通信士の悲鳴じみた声に遮られた。


「そ、総司令! 何者かがこちらの通信に割り込まれています、遮断できません!」


「――……彼方よりの来訪者よ。そこが分水嶺、境界線である」


 艦橋に低い音声が響きわたり、副長が驚愕の声をもらす。


「これは、アンノウンの声……? まさかこの短時間でこちらの言語を解析、理解したというのですか……?」


「そこより進むならば先の敵性存在と同じく侵略の意志ありと認識し殲滅する。立ち去るがよい来訪者よ」


「……どうやら先行艦隊と我々を別勢力だと認識しているようだな」


「そのようですな」


 アンノウンの言葉からその誤認を読み取る総司令と副長。


「副長はどうみる、今ならばこれ以上の損害を出すことなく引くことが出来るが、アンノウンのブラフかさきほどの攻撃の再使用のための時間稼ぎいう可能性もある」


 総司令はこれを次の手がないからゆえの脅しと見た。


「アンノウンの性能は未知数だ。戦えば旗艦ティターンとてただでは済まんかもしれん。……だが」


「だが、なんでしょうか?」


 アンノウンからの音声が繰り返される中で、総司令は一つの決断を下す。


「このままおめおめと逃げ帰ることなどできん。 奴が動かないというなら好都合だ。情報を持ち帰るための最低限の部隊を逃がし、残りで奴を叩く」


 交戦を選んだ総司令。そのことに副長は反論しない。

 彼もわかっているのだ。このまま撤退し後日再び挑んでも、先のアンノウンの手を破る手段の糸口すら掴めていない現状ではまた被害を出すだけだと。

 ゆえに未来の被害を抑えるために今の犠牲を容認するという総司令の選択に従い指示を出す。


「惑星級一隻に最低限の護衛を付け観測艇とし下がらせる。残りでアンノウンを叩きます」



 ソレは遥か先に集結している宇宙艦隊を注視しつつ、解析した言語で警告を発していた。

 このまま去るならば良しとして、見逃すつもりであった。

 しかし、宇宙艦隊は陣形を組みつつ前進を開始した。

 先ほどの殲滅した艦隊は眼前の艦隊と追いつ追われつの敵対関係を認識し、領域侵犯してきたほうだけを狙ったがゆえ、彼らは立ち去ると考えていたが、どうやら獲物を捕られたと考えたのだろう敵対を選んだようだ。


『前進行動を、こちらとの交戦の意志と認識させてもらう』


 最後にそう音声を送ってから通信を遮断した所で、相手艦隊の一部が下がっていくのに気づく。

 どうやら、彼らの中でも意見は割れていたらしい。

 だが、敵対を選んだ以上、ソレは相手を逃がすつもりはなかった。

 ゆえにまずは奥を狙うことにした。

 背中の後輪が強い光を放ち、空間に穴をあけていく。

 黒い渦のように広がるその穴に迷いなくソレは突入し、次にそのツインアイが捉えたのは巨大な艦影だ。

 一瞬にして宇宙艦隊の最後尾、逃げようとしていた部隊のもっとも大きな艦の前へと出現したソレはすぐさま大剣で切り付ける。

 刃の先が僅かに入った瞬間にその刀身に込められた機能が発動し、斬撃を伸ばし艦を丸ごと両断する。

 ズレ込み各所が火を噴き始める大型個体から距離を取り、全身の発行体から周囲に浮かぶ艦を狙って、重力弾を撃ち出す。

 重力弾の直撃を受けた艦は全方位からの押しつぶす力により、やがて外装に亀裂が入り、そのまま半分くらいの大きさにまで圧縮される。

 そして圧殺の力が消えた瞬間に爆散していく周囲の艦隊と合わせるように大型の艦を火を噴き大爆発を起こす。

 そこでようやく前進していた艦隊が転進を終え、ソレに目掛けて集中砲火を浴びせてくる。

 はじめと同じく跳ね返すべく反射機構を起動させようとしたが、飛来した光弾は己の少し手前のとこで爆散する。

 その衝撃と熱から逃げるために後方に下がれば、まるで追いかけるようにして、しかし手前で爆発を起こる相手の砲撃。

 それが反射機構に対する対策であり、直撃による撃破ではなく、衝撃と熱で己を少しずつ削りに来ているのだと判断する。

 対した損傷を得るものではない。だが如何せん相手の数が多く、そこから放たれる砲撃はさらに多い。もはや回避する先でも光弾が爆散している状況はソレから身動きを奪い始めた。

 しかし数の差、物量差だけでソレを滅ぼすことはできない。

 胸部の発行体が強い光を発し、再び黒い何かを生み出す。先ほどのモノと違うのは、その中に何かが写っていることだ。

 それは砲撃をする卵の形をした宇宙戦艦。さきほど両断したのと同じ大きさのものだ。

 ソレは迷いなくその穴の中に右手を突っ込み、その宇宙戦艦を握りつぶした。


  

 最初にその異変に気が付いたのは副長だった。

 アンノウンが初めに逃がすつもりだった部隊を狙ったのは予想外であり、転身しているわずかな間に全滅を許してしまった。しかしアンノウンはこちらへ近づいており、近接起爆設定にした砲撃はこちらの予想通りあの反射機構のよる送り返しはできていない。

 ならば、このまま一定の距離を保ちつつ周囲を艦隊で取り囲んで封殺をと艦を動かしていたところで、惑星級の動きが鈍ったのだ。

 何かトラブルでも起きたのかと確認させようとした時、


「空間に異常発生! 惑星級五番艦の周囲に歪みが発生しています」


「惑星級五番艦より連絡あり、操舵不能!」


「何ですって! いったい何が」


 観測官と通信士の言葉に、思わず声を上げた副長に総司令が声をかける。


「それもアンノウンの仕業だろう。見ろ、おそらくもう手遅れだ」


 モニターに映し出される惑星級。今も放っている砲撃は周囲のゆがみによって阻まれ無力化されている。

 それだけではない、その歪みが惑星級に干渉し始めその形を歪にへこませ始めている。

 惑星級の表面五か所が大きく陥没し、さらにその歪みは広がっていく。

 そこで副長は気づく。


「手の形をしている……まさか握りつぶしているとでも?」


 思わず自分の右手を見て開閉し、モニターへ視線を戻し、惑星級に刻まれた形と己の手の動きが重なることに恐怖する。


「……アンノウンにとって大きさなどどうでもよいというわけか」


 総司令の言葉を漏らしたのと同時に、惑星級は握りつぶされ爆散した。



 ソレは敵艦を閉鎖空間に捉え、そのまま空間ごと握りつぶしていく。

 一隻潰すごとに砲撃が弱まっていき、四隻目を握りつぶしたところで視界に爆光の途切れが見え始めた。

 そこで初めて気づく。

 敵対艦隊の最も大きな個体がその形を変え始めていることにだ。



「総司令、本当によろしいのですね」


 副長は改めて確認する。

 旗艦ティターン。その艦橋には総司令と副長の二人だけになっていた。


「君も退艦して貰って構わんのだがな。縮退の手動操作のための人員は一人だけでよい」


 それ以外の人員には退去を命じており、アンノウンが惑星級を破壊している間に全員が退艦を終えていた。

 周囲の衛星級が彼らを回収し、散開しつつ宙域からの脱出を始めている。

 また砲撃中の衛星級も自動操縦に切り替えつつ、人員を一部の艦に集合させて脱出している最中だ。


「いえ、私も付き合いますよ。総司令と同じくこの艦には思い入れもありますからね」


「そうか……まったくほんの一時間にも満たない前にはここまで追いつめられることになるとは欠片も思わんかったな」


「その名に偽りなしということですな、ハハハ」


 吹っ切れた様子で言葉を交わす二人。

 旗艦ティターンはその動力炉である恒星を重力崩壊させる準備に入っていた。

 そうして生まれるのはブラックホールを、彼らはアンノウンの足止めのために使おうとしているのだ。

 普通ならばさっさと逃げればいいし、アンノウンはブラックホールと思しきものを作り出すだけの空間や重力を操る力を持つ。耐えることすら容易いだろう。

 しかしアンノウンの目的は禁断星系を守ることにあり、ここで何もしなければあの星系は重力崩壊による衝撃波と発生するブラックホールによって壊滅的な被害を受ける。

 ならば、その対処に動き出すしかないと考えたのだ。


「おい見ろ、慌ててこちらに近づいてくるぞ。装甲を解放したのは当たりようだぞ」


「そうですな全速力のようです。重力崩壊現象の余波をわざと放出してますからね、転移では近づけないのでしょう」


 軋む音の響く艦橋内でモニターに映るアンノウンを眺める二人。その全身の発光体が今までにない光を放っている。


「興味深いですね。あの発光機構が重力や空間制御の要なのでしょうが、あれだけの砲火を受けて傷一つないとは」


「とはいえ、直撃弾を放った先行艦隊は光弾を送り返されたのだ、当たれば無傷というわけではあるまい」


「先ほどの砲撃の中に質量弾を混ぜるべきでしたかな?」


「いや、駄目だろう周りの爆発でまともに射線など通らん」


 二人は死が迫る中でも分析を続けているのは、この会話が随時転送されており、次また他の帝国艦隊がアンノウンに挑む際の一助になればと考えてのものだ。

 そうしてアンノウンが旗艦ティターンのそばに停止し何かを始めたところで、総司令は不敵に笑った。


「さあ、アンノウンよ。お前の力を俺たちに見せつけてみろ。我らの死をもっていつか帝国は貴様を滅ぼしてみせる」



 禁断星系と呼ばれていた宙域から逃げる護衛艦の中で、兵士たちはただその光景を見ていることしかできなかった。

 動力炉としている恒星を縮退させて内部から重力崩壊を起こしていく旗艦ティターンの姿と、それに対し何かを行い始めたアンノウン。

 アンノウンの全身から八つの光球が放たれ、旗艦ティターンの周囲を飛び回り始めた。

 光の軌跡を描きながら周回し始めた光球によって、いかなる作用によるものか重力崩壊が鈍りはじめた。

 そして光球の一つが弾けた時、旗艦ティターンの一部が消失した。まるでくりぬいたかのように卵型の巨大艦影の一部が消え去ったのだ。

 一つ、また一つと光球が弾けるたびに旗艦ティターンが宇宙から失われていく。

 その事実に誰からともなく、そして誰もが涙を浮かべていた。

 やがて艦の中心部、動力炉のみを残すだけになった旗艦ティターンを、最後の光球が包み込むかのように覆いかぶさっていく。

 そうして生まれた巨大光球にアンノウンが近づいていき、その左手を上に右手を下に大きく開く。

 そのまま何かを押しつぶすようにゆっくりと力強く、何かの抵抗を受けならも近づけていく。

 その動きに合わせるようにして巨大光球が段々を縮小していく。

 連動したその動きに兵士たちは否応なく理解する。

 アンノウンがその手でもって旗艦ティターンにとどめを刺しているという事実に。

 どんどん縮小していく光球。その内に囚われている旗艦ティターンももはやその形状がわからないほどに圧縮されている。

 やがて両腕で掴めるほどに縮んだ光球をアンノウンはその手に取る。

 兵士たち誰もがそのまま握りつぶさせる未来を幻視したが、その予想は最悪の形で裏切られることになった。

 アンノウンの周囲に空間のゆがみが生じ、穴が開く。

 ひとつではない、何十、何百という空間の穴だ。そこに光球から溢れ出るようにした光線が吸い込まれていく。

 その瞬間、護衛艦の一隻が爆散した。

 光線が一本、また一本と溢れる度にこの宙域から脱出を図っていた護衛艦が爆散していく。

 そうして兵士たちは気づく。

 アンノウンが旗艦ティターンの重力崩壊のエネルギーをそのままこちらの追撃に利用しているということに。

 アンノウンが誰一人として逃がすつもりがないという事実に、もはや兵士たちは抵抗する余力など残っていなかった。



 第七帝国艦隊が消息を絶ってより半年、彼らが最後に向かったとされる宙域にて発見された兵士の個人端末の解析により、帝国は禁断星系とそこを守るアンノウンの存在を知ることになる。

 その存在を疑いつつも、無人艦隊による星系への侵攻を行った第三帝国艦隊はその無人艦隊をすべて失うという結果をもって帝国中央銀河へと帰還した。

 帝国史において何度かあった先史文明の遺物との交戦。

 この人型のアンノウンもまたその一つとして数えられるようになったが、帝国がその内部からの腐敗によりその歴史を終えるまでの間、このアンノウンを攻略したという記録は残ることはなかった。


 はじめはもっとロボットが無双する様をイメージして書いていたのですが、アンノウンのイメージがネ○・○○○○ンだったせいか、書き上げてみるとなんか違った感じになってしましました。

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