僕らは遠い伝説になる
何もない屋上、光が僕らを包む。
嘘みたいに白いそれはとても綺麗だった。
ノストラダムスが大予言をした日から数百年。
この世界は滅亡するのだと騒がれていた。
日に日に惑星がこの星に近づいてくる。当日もそんなニュースばかりがテレビを埋め尽くしていた。
「最期の日くらいは面白い番組をやらないものなのかな」
幼なじみの乙葉は不満げにそう言った。
「仕方ないよ。みんな今日は面白い番組よりもそういう系のニュースを求めてるんだろうから。面白い番組を,求めてるのは乙葉くらいじゃないかな」
「そんなことはないと思うけどなぁ」
「なに、じゃあネットでアンケートでも取ってみる?」
「それ答える人、私よりものんきだよ」
僕らは目を見合わせて笑った。
終末?
そんなの僕らには関係ない。
なにせまだ十八年しか生きていない。
いきなりそんなフィクションみたいなこと言われたって、危機感を抱けという方が無理がある。
「でも、今日なのかぁ。一応」
突然そんなしんみりとした口調で言うからびっくりした。
「まあ、な」
乙葉は黙って空を見上げた。それにつられて僕も視線をあげる。
星が嫌味かと思うほど綺麗に光っていた。
乙葉に初めて会ったのもこんな星空の夜だっけ。母親の帰りが遅くて公園に一人でいたのを、習い事帰りの乙葉に話しかけられたんだ。馬鹿みたいに明るい彼女を鬱陶しいと思いつつ、でもそれが楽しかった。
ふと隣に視線を向ける。
「ずっと前から思っていたけどさ」
乙葉は言った。
「何もなくたって人はいつか死んじゃうのに、なんでこんなもの怖がってるんだろうって」
「うん」
「私、その答えわかった気がする」
こちらをみた笑顔には、涙が一粒流れていた。
「大切なものを知っちゃったから。それを失うリミットを提示されるとつらいんだよ。怖い、んだよ」
乙葉は僕にぎゅっと抱きついた。
「怖いよ、私。ずっと君と一緒にいたいよ」
わかってた。今日の彼女はから元気なことくらい。
嘘だと信じたかった。
星がすこしずつ近づいてくるのが肉眼でもわかる。
僕らの物語はもうすぐ終わりを告げるんだ。
「僕らはきっと伝説と同じ、いたのかどうかすらわからない存在になるんだろうね」
彼女の手をそっと握る。
「でも、僕らは確実にここに生きてた」
光が包み込むその瞬間。
「僕は君の事が好きだったよ」
儚い、精いっぱいの愛の言葉だった。