第一章 7.厚かましくて空気も読まない
「まあまあ、せっかく採集以外で二人だけでも受けられる仕事を紹介してくれてるんだから、もうちょっと検討してみようぜ、ソルさん」
俺は不満ばかり言うソルさんを抑えて、いかにも好青年な感じで話を続ける。マルシアさんの俺への好感度が急上昇中じゃね? へへ。
「狼狩りは確かに装備がないし、狩りの経験もない。身一つで出来そうなのは、下水道か古屋敷かなんだが、俺としても下水道に潜るのは最後の最後に取っておきたいな。それで、古屋敷の調査なんだけど、これは一日中屋敷に居ないといけないのかな? 夜だけ泊まっていれば良いということなら、掛け持ちで昼間に採集の仕事も受けたいと思うんだが、どうかな?」
「はい、今までの変死事件は夜間に起きているようです。現在の御屋敷の持ち主の方も、昼間には何度か御屋敷内を調べてみたそうなんですが、特に変わったことは起きなかったため、泊まり込みの調査を依頼してきたそうです。依頼人に確認をとってみますが、夜間だけでもおそらくは大丈夫ではないでしょうか」
「なら、昼間には掛け持ちで採集の仕事をしよう。ああ、それなら一昨日にソルさんが受けたっていう採集の仕事をもう一度受けるから、キャンセル料は無しにしてくれない?」
「承りました。一応は上司の確認をとってみますが、キャンセルをお申し出になったのが、つい先程のことですから問題ないと思われます」
「どーよ、ソルさん? これならまあまあの稼ぎになって、しかも宿代も一週間分浮くんだぜ。毎日の食費がかかるけど、それは昼間の採集でなんとかしようぜ?」
「ふむ、だが一つ問題がある。今の宿を引き払うなら、宿代を精算せねばならないのだが、それはどうする?」
「あっ、忘れてた……。で、でも、それを言うなら街から出る仕事なんか受けられないんじゃね? 前の宿もギルドの仕事で街の外に行くってことで、精算してくれと言われたんだろ?」
うーむ、どうしよう?
「ねえ、マルシアさん。他の冒険者の人は宿はどうしてるの? 毎回、仕事に行く度に借り換えしてんのかな?」
「ベテランの冒険者の方は長期契約で前金を払っているようですね。冒険者に成りたての新人さんは皆さんお金がありませんから、昼間の仕事で稼いだお金で宿を借りて、翌朝には引き払ってまた仕事に出てるみたいです」
ソルさんがいいコト思いついたみたいな顔で発言する。
「ふむ、では仕方ない、こうしよう。宿代もまだ二泊しただけで大した金額ではない。この仕事で入ってくる報酬から差し引いて構わぬから、ギルドから建て替えて払っておいてくれぬか? 何、心配することはない。私は帝国臣民で首都星に代々住まう高貴なる貴族のエルフだからな。この身体に流れる誇り高き血筋に賭けて、藩国の平民相手に約束を違えることなどないぞ」
ああ、またマルシアさんが涙目になってぷるぷるしてる。約束を違えるどうこうじゃなくて、新人冒険者の俺たちが依頼失敗して、〈貴族〉相手にきちんと取り立てられるか解らないのに、ギルド負担の立て替えが増えるのを嫌がってるんじゃないのか?
というか、ソルさんってエルフの貴族だったんだ! エルフで宇宙人かよ。どうなってんの、この世界は?
マルシアさんがまたギルド長にお伺いを立てて、お腹のせり出したギルド長が渋々と応接室にやって来た。規則がどーのこーのとか、新人冒険者にこれ程の特別扱いは前例ガー、とか口煩く言っていたけど、結局、帝国臣民で首都星のエルフ様の御威光には勝てず、宿代はギルドに立て替えて貰えることになった。
やあ、本当に済まないね。登録したての新人にこんなに面倒をみて貰えるなんて、本当に冒険者ギルドの皆さんって優しいなー。
俺の冒険者登録も済ませた。字は書けなかったがマルシアさんが代筆してくれた。俺の名前はターサン・マトゥーラになったらしい。別にいいけど。
ランクはソルさんと同じ銅級で、冒険者票だというペラペラの銅のプレートを貰った。裏面にステータスが浮かび上がるとかの不思議機能は一切無しね。
その後は、マルシアさんに問題の古屋敷まで案内して貰うことになった。ギルド長がマルシアさんに、俺たちの専属担当者になるよう命じていたのだ。
マルシアさんは、ギルド長の指示を聞いてる間ずっと涙目でぷるぷるしていたよ。あまり俺たちを嫌いにならないで欲しいなあ。
お読みいただきありがとうございますm(_ _)m
次話は20時に投稿します。