第一章 4.二人揃ってお金がない
「さて、マツーラー・ターカシよ。ちと相談があるのだが、良いか?」
「なんですかソルさん。俺のことはターさんかタカシさんって呼んでくれよ。マツウラが家名でタカシが俺の名前なんだけど、親兄弟でもないのにタカシとか呼ばれちゃうのはちょっと嫌なんで」
「おっ? 真名で呼ばれるのを忌む文化圏の生まれであったか。そうか、ターサン・マーツーラーか。……実はな、行き倒れたそなたを救助して、この街まで運び入れ、宿の手配をするなど、色々と費えが掛かっておってな」
「つまり謝礼を払えと? 申し訳ないけど無理ですね。この格好を見てくださいよ。タンクトップにスウェットパンツですよ。どこに財布を隠し持ってると思うんですか?」
「むむむ、帝国のクレジットクリスタルは埋め込んでないのか?」
「クレジット? 埋め込み? 生憎とまだ未成年なんで、クレカなんか持ってませんよ。まあ、そのうち出世払いで返したいと思いますから、待っててくださいね」
「はあ~」
如何にも落胆しましたみたいな表情だよ。やっぱり外国人は大仰で分かりやすいな。ああ、宇宙人だったっけか。
そういや、今、頭に手を当てて顔を大きく俯けた時に髪の間から見えた耳が、映画に出てくる宇宙人みたいに長くて尖ってるな。スポック耳だっけ? いや、あれよりももっと長いかな、エルフの笹穂耳みたいな?
「実はな私も手元不如意なのだ。ここは治安の悪いところでな。この街に着いてすぐに置き引きに会って、荷物を一切合切持って行かれてしまったのだ。実を言うと、ここの宿代を払う分さえも手持ちが足りない」
「えっ?」
異郷で金もないとかヤバいじゃん!
「そなたは見掛けが現地民とはまるで違っていたからな。同じ他星系からの宙航者の誼で幾らかは都合して貰えるだろうと、そなたの所持金を期待して、この部屋を借りてしまったのだ。帝国臣民の威光で支払いは出る時払いだがな」
「なにか換金出来そうな小物とかは身につけてなかったんですか?」
「私がこの街に着いて一週間だ。最初に取った宿の支払いの為にとっくに売り払ってしまった。街の外へ行くなら宿代を精算してくれと、前の宿の主人に泣いて頼まれてしまったのでな。なにか金策が出来ないかと、昨日この街の外へ少し出てみたところ、行き倒れてた其方を見つけたのだ」
「その、埋め込み式のクレジットなんとかは? ソルさんは埋め込んで無いの?」
「こ、これか?」
と、ソルさんが慌てた様子で左の手の甲を右手で隠した。
「……これはな、この惑星スメールに渡るための船賃で使い切ってしまってな。……もう小銭ほどしか残ってないのだ」
なんか怪しい。でもクレジットなんとかって手の甲に埋め込むのか。
「あれ? でも俺は手に何も付けてないんだから、聞かなくてもクレジットなんとかが無いなんて、分かりそうなもんじゃね?」
「クリスタルは外部から見えぬよう皮膚下に埋め込むものなのだ。私のも外部からは見えはせぬ。……なんとターサンは、クレジットクリスタルすらも普及してない程の僻地生まれであったのか。それにしても弱ったな。二人揃って一文無しとは」
なんかこの女は、田舎だ僻地だっていちいちムカつくよね。
「まあ、この宿に滞在中は帝国臣民の威光とかで、食事も後払いで出来るんだろ? 出来るだけ宿泊を延長して、その間になんとかするしかないな。さっき金策で街の外に出たとか言ってたけど、何をする予定だったんだ?」
「昨日、街の日雇い人足組合で、採集の仕事を斡旋して貰ったのだ。確か、あの建物は冒険者ギルドとか言う名前だったかな」
「冒険者ギルドだって!?」
来たよ! キタキター! 異世界でお約束の冒険者ギルドあるじゃん!
「よし、そこに行こう! 二人でモンスター退治とかの依頼を受けてガッポリ稼ごうぜ」
「私は血を見るのは苦手でな。それに採集ではなく、魔獣狩りをするのであれば、それなりに装備も整えねばならず、出費も相当なものになるぞ。ちなみに今持ってる武器になりそうな物は、小さいナイフが一つだけだ」
「えーっ、そんなー!」
「だが、二人で一緒に稼ぎに出ると言うのは悪い考えではないな。一人では無理だが二人組みでなら、費えが然程掛からずに受けられる割の良い仕事もあるやもしれん」
「そうだよ、ソルさん! まずは冒険者ギルドに行ってみようぜ」
という訳で、明日は朝から冒険者ギルドに行くことになった。
あっ、そうだ。俺は部屋で穴に落っこちて、そのままの格好でこちらに来たもんだから裸足のままだった。何処かで先に、ソルさんに靴を買ってきて貰わないとね。
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次回は明日の午後8時に投稿します。