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テラ生まれのターさん異世界に行く  作者: うゐのおくやま
第一章 異世界転移
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第一章 1.黒歴史で黒い穴

 誰が最初に言い始めたのか知らないが、某ネット伝説というかネット掲示板のネタに、寺生まれのTさんという有名なものがある。


 一般人が怪奇現象に巻き込まれ、たまたま居合わせたTさんが生まれ持った法力で解決し、やっぱり寺生まれって凄い! と感嘆されつつ去って行くのだ。


 それらの一連の物語の作者は一人では無いようで、不思議な事件に巻き込まれた不幸な人を、たまたま通り掛かった寺生まれのTさんが超能力を発揮して事件を解決して去って行くという、お決まりのパターンで何通りもネット上に流布してるのだとか。俺も一つ二つは読まされたことがある。


 で、最初に言っておくが、俺、松浦崇は別に寺生まれではない。寺の隣育ちなだけだ。この日本にはどの町にも寺の一つや二つはある訳で、その近所で生まれ育って、寺の境内を遊び場にしていた人もそれなりにいると思う。


 だが、門前の小僧習わぬ経をなんとやらで、お寺の近くで暮らしていれば朝夕の読経の声は聞こえてくるし、境内の掃除をしてる作務衣の坊さんと顔見知りになるしで、なんとなく寺の習わしとか行事とか仏教文化に親しんでくるもんだよな。


 オマケに年頃になれば誰でも罹る厨二病というものがあってだな。例外なく俺も罹ってしまい、特に仏教の密教系オカルトにズブズブになった訳だ。小学生の頃に漢字をろくに知らない奴らからタタリ、タタリと名前を揶揄からかわられたせいもあるかもね。


 残念ながら隣の寺は真面目な禅寺だったので、時折り本堂の方から参禅者を相手に、ソモサン、セッパ、喝っー! とかやってる声が聞こえてくるだけで、厨二病患者の琴線に響くものは然程なかった。


 なので、ネットや図書館で怪しげな除霊法だの、密教のマントラだの生半可な知識を仕込んできては、学校の同級生を相手に、漫画の真似して九字を切りながら孔雀明王呪を唱えたりとか、今になって思い出すと、ブラジルまで届く深い穴を掘って飛び込みたくなるような黒歴史な少年期を送っていたのだった。


 そんなこんなで、いつの間にか学校では寺の隣り生まれのターさんとか、寺育ちのタカシ君とか呼ばれるようになってた訳で、特に例の有名なネット伝説を知ってる同級生たちに持ち上げられて、夜中の肝試しとか、廃墟探検とかに連れ出されては、ここぞという場面で、オンマユラナンタラカンタラー! とか得意気に唱えてみせて、寺の隣り育ちってすげーなーとか感心される日々だったな。


 でも病気はいずれ治るもので、高校へ進学し、中学の同級生とは学校が別々になり熱も醒め、夜中に廃墟を探索した悪友たちも一人去り、二人去り、町でもそうそう滅多に会わなくなった頃、俺もそんな浅薄な知識を人前でひけらかすような恥ずかしい真似はしなくなった。


 ……俺のオカルトヲタクっぷりは、より重度な病膏肓に入っていたのだった。


「さあ、今宵こそチベット密教の秘法トゥルパ生成を成功させるぞ。これが百三十五回目の実験だ。この前は微かにアストラル体形成に成功しそうになってたのに、扇風機の風で消し飛んでしまったからな。――扇風機電源切断ヨシ、カメラ撮影準備ヨシ、っと」


 ああ、そうだ。扇風機を止めとくと暑いから、シャツも脱いでおこう。


 母ちゃんが早く御飯を食べなさい、明日こそ学校へ行きなさい、とドアの向こうで叫んでいたけど、そんなのはまるっと無視だ。惑星直列を迎える今夜こそ宇宙パワーの恩恵もあり、チベット密教の秘法を達成できる好機に違いない。もう三日も前から学校もさぼって徹夜で準備をしてきたのだ。


 最近のサブカル界隈ではトゥルパとは一種のイマジナリーフレンドのように捉えられてるが、古くはお釈迦様だって諸天界を訪れるための、特別な分身体を持っていたなんて話もあるし、中国仙道にも内丹を練って陽神という分身を作り仙界に遊ばせたとか、日本でも陰陽師が式神を使役したなんて話がある。

 それぞれ名前こそ違うが、己の精神エネルギーを分け与えて作り出す分身体は古来からあったのだ。


 ネットの動画でヨーガの修行を独習してチャクラの開発にも勤しんだし、古書を漁って仙道の内丹法も独学で身につけ気も練った。暇があればマントラの詠唱をし、夜中に家を抜け出して、寺の裏山で滝行もした。

 足を滑らせ死ぬかと思った。でも頑張った。修行だ! 修行だ! 修行だ!


 さあ、今宵こそチベット密教の神秘を解明するぞ! トゥルパの生成に成功すれば、時間も距離も飛び越えて己の意識を乗せた分身体を自在に操り、女湯も女子更衣室も覗き放題だ!


 さあ、やるぞー! と精神集中し、内臓が捩じ切れそうなヨガのポーズを決めて、はーはーふーふーはーふーはーふー、と仙道内丹法の調息呼吸を繰り返す。


 横目で時計を睨み、惑星直列で宇宙パワーが最大に達する神秘の刻を待ち受けながら、鼻血が出そうな意気込みで臍下丹田からエーテルを捻り出し、心意で練ってアストラル体に昇華させ、トゥルパのボディを俺好みのスタイルに仕上げようと、各種参考資料を床に広げて、観想で理想の曲線を思い浮かべつつ両手の指を広げクニクニとくねらせていたその時、それは訪れた!


「タカシー、あんた学校サボってご飯も食べずに、ずっと部屋に籠もって何をやってるのよ!」


 母ちゃんが部屋のドアを蹴破って、思春期の青少年のナイーブな秘密で溢れた俺の自室に踏み込んで来たのだった。


「まあ、あんた、何してるのよ! そんな半裸の格好で変なポーズで指をクネクネくねらせて、息遣いもハアハアハアハア怪しいし、おまけにエッチな雑誌まで広げてるじゃない。お母さん、恥ずかしいわー!」


「恥ずかしいわー、じゃねえよ! これから大事なとこだってのに、勝手に入ってきて邪魔しやがって! 出てけー!」


 突然の邪魔者に大いに焦って、観想中のトゥルパのアストラル体を心眼で確認してみる。

 なんと、母ちゃんの乱入による空気の撹拌の余波で、心血を注いで作り上げたトゥルパはバラバラに吹き飛んでしまっていた。ぬおぉぉぉー! 今度こそ成功すると思ったのにぃぃー!


「あらあら、お母さんはちゃんとわかってるから、そんなに慌てなくていいのよ。タカシもまだまだ高校生だものねえ。色々と溢れちゃって大変なのよね。ご飯を持ってきてあげたのよ。すぐに出ていくわ」


 と言うと両手に持ってたカツカレーとサラダの小鉢が載ったトレイを置いて出ていった。


「こっ、このクソババアー! オメェのせいで百三十五回目のトゥルパ生成実験が台無しにー!」


 腹の立った俺は、勢いに任せて母ちゃんの持ってきてくれた俺の好物のカツカレーを蹴飛ばしてやった。


 その時に、突如、床に黒い穴があき、俺はカレーを蹴飛ばした体勢のまま、漆黒の闇へと落ちて行ったのだった。



初めての方はハジメマシテ。前作も御存知の方はコンサクモヨロシクです。


前作 https://ncode.syosetu.com/n6080gg/と同じ世界の千年ほど前のお話です。独立した物語ですので、前作を読まずとも楽しめます。もし世界観に興味を持っていただけたら是非前作も御一読くださいm(_ _)m


今日中に4話まで投稿します。

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