贋作
贋作を作った。
オリジナルとは似ても似つかない贋作だ。
鮮やかな色を抜いた。
香しい香りを抜いた。
手触りの良い感触を抜いた。
しかしこれは言わばテクスチャを変えただけに過ぎない。概念としての“これ”はオリジナルと同じものである。
...我ながら、なんて醜いものを作ったのか。
見た目の良さを全て奪っておきながら中身はそのままだなんて、まるで利がない。どう見ても劣化版である。
だがそれでいい。オリジナルと異なるほどに実験の結果はより明確になる。これほどの贋作が完成した。あとは“これ”をオリジナルが認識される以前まで持って行くだけだ。
贋作に遅れるオリジナルは無い。
オリジナルが在るとされる以前に贋作を在るものとすれば贋作はオリジナルとなる。
さて、“これ”がオリジナルとなったとき、世界はどう変わるだろうか。
僕は“これ”に水という名前を付けた。