大目玉商品
あの軍人の言葉を完全に信じたわけではない。だが、信じられずにはいられなかった。
だが、闇オークションといえば金額がえげつないらしい。
幸い、適当に過ごして貯めていた金はあるが、それでも全く足りない。
だが、目玉商品が幾つかあれば、必ずはずれが出てくるはずだ。それに手を伸ばせば、俺はまだやれるかもしれない。
そうと決まれば目先の目標は金だ。とにかく金が要る。
朝起きれない時もある。だから緊急依頼などがないか張り込んだ。貴族、大商人、紹介、何でも使った。汚い仕事もたくさん引き受けた。
「あと少し、もう少しあれば。金が、金があれば俺は。」
金の亡者になった代償は大きかった。今まで仲良く話していた奴らも遠ざかっていき、ギルドですら俺との会話を面倒だとばかりの対応になっていった。
だが、おかげで闇のオークションの情報、チケット、場所、時間。すべて把握することができた。これもスラムで培ってきた情報網の作り方が役に立った。
情報の信憑性と、貯金で闇オークションまでの時間は全て使い果たした。
あっという間に迎えた闇オークション当日。
似合わないスーツを身に纏い、番号札235番を手にした俺は、足早に席に着いた。
席に着くまでの間、オークションとは別の催し物として、席までの道で大道芸や、オークションには出していないが、珍しいものを売る商人などもいたが、そんなものには眼もくれずに、歩いて行った。
「買えればいい。それだけだ。」
そうつぶやいた俺の声はバカみたいな笑い声をあげながら横に座った大男によってかき消された。
「23番、よろしくな。」
「24番だ、こちらはよろしくする気はない。」
金にならない会話は全て断ち切ってきた俺からすれば、軽い嫌味をぶつけたにすぎない。この大男はそんな俺の嫌味なんてどうでもいいのか更に会話を続けてきやがった。
「今回の目玉は、復活草だ。よかったな。」
「…、お前どこでその情報を手に入れやがった。」
「これは失礼、普段はここに来る客に興味はないから自己紹介するのを忘れていた。
俺の名はアレク。家名は、言わなくても分かるだろう。」
なんだこいつの自信は。
さも俺のことを皆が知っていて当然だとばかりの態度だ。
筋肉を見る限り戦士タイプか。剣か矢理でも使うのだろう、手の皮が分厚い。身長も人間にしては高い方だろう。他の客より頭一つ抜けてやがる。
だが生憎と金を貯めてた期間は情報も金になること以外には使わなかったから、もしかしたら有名な外部の人間なのかもしれない。だが今の俺にはそんなことはどうでもいいことだ。
そう、俺が軍人から盗み聞いた目玉商品は確か超薬草だったはずだ。超薬草とは、煎じる人間の技量により、使えば死んでさえいなければ全て完治するような代物だ。当然煎じる人間のレベルが下がれば、ただの回復ポーションレベルまで落ちる欠陥品だ。
そんな欠陥品にですら縋り付きたくなるのは単純。
俺の失った右腕の再生だ。こればかりは片腕で生活していた時からどうにかしたいと思っていた。ただ日常を送るだけではない、あの忌々しいクレイジー元魔王から受けた傷が無くならないとどうにも生きた心地がしなかったからだ。
「復活草…か、それが本当なら俺の金額では心もとないな。」
復活草。またの名を妖精の息吹。
これは超薬草が煎じる人間の技量によるものだが、復活草はそんなランダムではない。なんでも復活草を絞ってでた液を治療したいところにかけるだけで、四肢の欠損、不治の病も直せるという代物だ。
数多の研究者が幾年もの歳月を費やしてはみたものの、未だに成分すら解析できないためか、人工で再現が一生できないといわれている。
だが、超薬草と復活草では価格が段違いだ。復活草ともなると、各国のお偉いさん方が死者を使って出張ってくるだろう。そんな中を左腕一本で稼いだ俺の軍資金で戦おうというのも酷な話だ。
だが、やれるだけやる。出せる分だけ出す。最悪借りれるところから借りて、腕が直ってから返していけばいい。今は俺の腕が最重要だ。
だが、大男アレクの次の言葉に度肝を抜かれた。
「今回は大目玉商品がある。それだけ伝えておこう。」
「なん…だと。」
そう言い終えると、アレクは俺の反応を見終えるわけでもなく一瞬で目の前を向いて動かなくなった。大男がガン見している先には何があるのかこの人数の中では把握しきれない。
アレクの言葉が気になって仕方がない。
普通、オークションでは目玉商品が一個、ないし二個でれば成り立つ。主催者がその気になれば次回のオークションの目玉にするだろう。それが目玉商品がある中でさらに大目玉商品ときたのだから意味が分からない。
「大目玉か…。」
少なくとも復活草よりもいいもののはずだ。そんなもの、世界にそんなに数は多くない。エリクサーか、ドラゴンの眷属か、予想はしても俺の出せる金額ではない。
大目玉商品が何になるのか。
俺は真剣に復活草だけを欲しがりに来たが、単純に大目玉商品が気になって仕方がなかった。
ゆっくり更新となるかもしれませんが、続けていきたいです。次話は16日予定です。