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出来心

少し短めです。


「朝か。おい起きろ、身支度を済ませたらすぐに仕事に出る。」


起きた瞬間に俺のベッドに少女がいたことに若干驚きはしたが、眠ったふりをしてゆっくりと昨日起きたことを思い返してみたら当たり前のことだった。


こんな小さい子供を床で寝かせるわけにもいかず、スラムでガキどもを世話していた時に比べればガキ1人の相手なんてまだいい方か。


「分かった。」


少女は機敏に起き上がり、じっと俺の方を見てくる。残念なことに俺はエスパーでもないし、この少女が何を考えているかも分からないからじっと見てやることにした。


数秒、数十秒と時が経ち、瞬きした瞬間に視界から少女が消えた。きっと昨日のでっぷり貴族が言っていた魔眼の能力でも使ったんだろう。俺はチート持ちでも勇者様でもないから、ありえない速さで移動したといわれても別に納得はする。


そう、この世には強すぎて各種族を辞めたような者たちをチートと一括りにする。俺の情報網は広くはないが、隣の国では勇者が召喚されたらしい。そんなチートや勇者、はたまた実在するかも怪しい魔王なんて怪物もいるが、俺たち平民には全くと言っていいほどご縁がない。まぁ、ご縁を作れますよと言われたところで、こっちからそんな面倒ごとに首を突っ込むわけはないがな。



国ではどうか知らないが、スラムでは好きに名前を付けたり、付け合ったりしていることなんて日常茶飯事だ。しまいには貴族ですらないのに名字までつけるバカもいる。


だが、そんなお遊びも意外と捨てがたい。俺はスラムで面倒を見ていたガキどもを呼ぶのに面倒だからと勝手に名前を付けたが、各々成長して名前が俺の情報網にひっかかると少しかゆいものがある。



俺はなぜか兄貴、兄ちゃんなどで呼ばれ続けた結果、スラムで十数年生きてきたにもかかわらず、名前がない。名前なんてなくても、大体俺が呼ばれているかなと思ったら適当に反応すれば何とかなってきた。世の中名前なんてお飾りだ。



そう思っていたが、一人の人間とずっと行動を共にするなんてことがなかった今、非常に困った。この少女を何と呼べばいいか分からん。おい、とかちょっといいか、で切り抜けられるのは毎日一緒にいない奴限定だ。



「今後依頼をこなすとなると、こいつの名前が必要か…。」



そうつぶやいた瞬間に目の前の空間が軽く揺らいだ気がした。



「…そういう仕組みか。」



なんとなく状況を察した俺は、柄にもなく面白がってしまったことを後悔することになるとは知らなかった。


こいつの心を揺らせば、魔眼の効果を消せるのか検証するとしよう。



「あーあ、あの少女に名前を付けてやらないとな。」


少し揺らいだな。もう少し性別を意識してみるか。



「どうせなら可愛い名前を付けてやりたいな。キャサリンとか、リリア、アルト、ステファとか…。」


おうおう、結構揺らいでんぞ。動揺しすぎだバカか。けどこれは面白い。もっと踏み込んでみよう。



「お前と一緒に仕事出来たら楽しいだろうな、可愛い子がいればどれだけでも頑張れるわ俺。」



もうほとんど姿見えてるけど、やめない。

そう、だって面白いから。


「好きだよ…よー、よー、よっ、ヨル。」


なんとなく口から出たヨルという言葉。名前なんて深く考えても仕方がないし、出た名前でいいか、と思っていた。



その瞬間、目の前で姿を完全に表した少女は、一瞬にして視界から外れた。というか俺の視界が塞がれた。


…というか眼も鼻も耳も全部塞がれた。

このままではまずいと思って全力で振りほどこうと顔にかかっている何かを取ろうともがくがうまく取れない。


(あぁ、まずい。呼吸出来ねぇ。)



そうして俺の意識はあっけなく沈んでいった。




―――――――


「恥ずかしい。」


出会って二日目でまさか告白されるとは思ってもみませんでした。

恥ずかしさのあまり目の前のこの人の意識を落としてしまいました。


今までお母さん以外からは可愛いなんて言われませんでした。スラムで育った私には、女として生きる事なんかより、やることがたくさんあったのです。


けど、悪い気はこれっぽっちもしませんでした。


「それに…ヨルって。」


今まで誰に呼ばれるにも、おい、そこのやつ、白い奴、ちびなどでしか呼ばれなかった私には、誰かからもらえるもので、一番嬉しい名前をいただけました。


「今日から私はヨル。ヨル、ヨル、ヨル…」


目の前で気絶させてしまったこの人をみて、私は何度もつぶやきました。


「あなたの、ヨルです。」


そう言って、気絶しているあなたの隣で、一緒に寝ました。










あれ、今日一日何もしていないような…。





次話は4日を予定しています

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