9番
魔導書の中でも、禁書には個別の名前がない。
それもそのはずで、どの本からどの悪魔が出るかなんてものが分からないからだ。昔、本に傷をつけたり、色を付けたりして区別しようとする研究者がいたらしいが、どれも本を傷つけたり汚したりすることができず、結局完全ランダムという結果に落ち着いている。
「9番の禁書か。」
俺は手にした禁書を眺めながらそうつぶやいた。
「この禁書を開くと、悪魔が出てくるか。適性者と認められれば代償を求められて、代わりに力を与えられる。適性者に選ばれなかったら、死あるのみか。物騒な代物だ。」
そういいながらも禁書から目が離せない。
33体の悪魔のことはよくわかっていない。
代々一体の悪魔と契約をしている貴族がいるだとか、王は悪魔に操られているだとか、33体もいないだとか、どれも噂の域を出ない。
考え事をしたくても、どうしても禁書が気になってしまう。せっかく右腕を治せるのではと期待していたのに、代わりに手に入ったものは物騒な本一冊のみ。
「これでどうしろと…。」
とりあえず宿に戻っていた俺は、明日にでも禁書のことは考えようとベッドに禁書を放り投げた。
「困ったら寝るに限る。」
起きたら美少女がいてくれたらな、そんなバカみたいな夢を思い描きながら、ゆっくりと目を閉じた。
足の裏がかゆい。猛烈にかゆい。
意識がだんだんと清明になってきた。
美少女の代わりに、頭からは角が、背中からは羽根が生えた身長が俺と近い程度の奴が足元に座っていた。
「あちゃ~、起きちゃったか。うん、僕の負けだね。うん、仕方がない。」
そういい放った奴はゆっくりと立ち上がり、隣に余っていたベッドのスペースにまっすぐに寝転がった。
突然のことでよく理解できていないが、とにかく行動の一つ一つの意味が分からん奴だ。コソ泥でも、暗殺者にも見えない。
「お前、何者だ。答えによっては俺はお前を殺さなければいけなくなる。慎重に答えろよ。」
そう言うと同時に、ベッドの端に置いてあった短刀を奴ののど元にピタリとくっつけた。
奴はにやりと俺を見て笑った。
「僕の名前は9番だよ。」
9番。それは今日俺が買った禁書の番号以外には思い浮かばない。
俺は寝る前にベッドに投げて、そのままのはずだ。寝相は悪くないし、勝手に本を開けることもないだろう。
「君さ~、僕の扱いひどくない!?
いきなりベッドに投げ倒して、見られたくない恥ずかしいところを広げられちゃったんだよ!」
この際こいつが本当に9番の禁書から出てきた悪魔だとしよう。だかしかし、こいつの言ってることは分かるが、表現の仕方がひどすぎる。だがそのような言い方ではまるで俺がこいつを押し倒しているようにしか聞こえないのが気に食わない。
「俺、お前のこと嫌いだな。」
「ひどい!!」
「あと用はないから本に帰れ。」
「さらにひどい!!」
「おやすみ。」
「あ…おやすみ。」
ふう、これでようやく俺の素敵な睡眠の時がやってくる。
「ってちっがーーーう!!
起きて、僕の話を聞いて!そして契約の内容を聞いて!」
「いやだめんどくさいきらいつかれたねむいだるいおやすみ。」
「一息でまとめられた!?」
再度俺が眠りに入ろうとすると、子どもが駄々をこねるように俺の体を揺らしてきた。
「ねぇお願いー、起きてよー。」
何度も何度も体をゆすられていい加減めんどくさくなってきた。
まだ俺にはやることが残っている。寝ることだ。
冷静に考えてみる。こいつが9番の禁書から出てきた悪魔で、そいつの契約の話を聞かないとなると俺の命が危ういかもしれない。こんなひ弱そうなチビに殺されてやる筋合いはないが、悪魔の能力も不明な今、こいつの駄々こねている間に乗った方がいいのかもしれない。
「分かった、わかった。話くらい聞いてやるから俺から降りろ。」
いつの間にかうつぶせの俺の上にまたがっていた性別も分からないこのガキに降りてもらい、とりあえず話し合いの場を設けることにした。
「あのねあのね、話を聞いてくれる気になってくれてありがとう。
簡単に僕の自己紹介をするね。その後で僕と契約する気になるか聞くから、ちゃんと聞いててよね!」
こうして俺の眠れない夜は始まった。
ゆっくりと書いていきますので、まったりとお楽しみいただけたら幸いです。
次回投稿日は27日の予定です。