俺
メイドが主人を殺す。
そんな事俺は一度も聞いた事がない。
ましてや特別恨みや憎しみがあるわけでもないのに。
「早く殺してよ!」
あんなことを言う令嬢なんて初めて見た。
あそこまで追い詰められていたとは。
メルンの跪く姿に、俺は昔の自分を思い出した。
ボロボロになって跪いて、泣いている俺だ。
(もしかしたら、お前も俺と似ているのかもな。)
そして俺は大きく剣を振り上げた。
(この世界に来て17年、初めて人を殺すのか。まぁ、前の世界でも殺したことなんてないが。)
周りはさっきよりも歓喜の声で満たされている。一部を除いてだが。
俺はこんなにも一人の人間の命を殺めるのに喜ばれているのは、初めて見た。
(本当に腐ってやがる。)
(もういいや、覚悟を決めよう。)
自称『神』からは、この世界で腐った性格を改心されろと言われてきた。
だがこんなに俺の性格よりも腐った世界で改心なんか無理だ。
ならやる事は一つだ。
「さようなら、メルン様!」
「お前が殺すなら、私もなんの悔いもなく成仏できよう。」
「さぁ、頼む。」
メルンは嬉しそうに、でもどこか悲しげに泣きながら俺を見つめた。
その顔に俺も覚悟を決めた。
そして俺は笑顔で剣を垂直に振りかざした。
「おぉぉぉぉーーーーー!!!」
「やったか?」
俺の振りかざした剣は垂直に床を貫いていた。
その剣も俺も返り血を浴びていない。
メルンの首もしっかりと胴体と繋がっている。
「えっ、なんで?」
メルンは呆然としている。
それもそうだろう、あんなに殺される雰囲気だったのに生きているのだから。
「おいルミナ!なぜ殺さぬ!」
「そうだそうだ!早く殺せ!」
「どないしたんルミナちゃん、怖くなったんか?」
「そんな情け無い!早く殺してちょうだい。」
「そ、そ、そうですよ。は、早く殺さないと。」
「ルミナ様、なぜ殺さぬのです⁈早く殺して下さい。」
周りは、俺が殺していないことに驚き慌てている。
俺は剣から手を離し騎士たちのいる方へ向かった。
そして、手前にいた騎士から剣を抜き、持ち手の部分を議員たちの方へ向けた。
「そんなに殺したいなあんたらでどうぞ。」
俺は、真顔で冷静に言った。
「な、何を言っている!」
「こいつに死んでほしいんだろ?ならお前がやれよ。はら。」
「さっきの話を聞いていなかったのか?貴様がやらなければ、いけないんだ!これはルールなんだ!」
「それがどうした?」
「それがどうしたって・・・、貴様ルールを破るとどうなるか分かっているのか⁈」
「しらねぇが、お前は知っているのか?」
「・・・!」
「しらねぇならごちゃごちゃほざくな。」
「だがルールを破ったら何か大変な事になるかもしれんぞ!」
「そんなの知ったこっちゃねぇよ。」
「殺したい奴が殺せばいい。俺は別にこいつを殺したいとは思わない、だから殺す理由もない。」
「・・・!」
「お前らはこいつに死んで欲しいんだろ、なら早くやれよ。こいつは早く死にたいらしいしな。」
しかし、誰も動こうとはしなかった。
「やっぱり誰もやろうとはしないか。そんなのに俺に殺せとか・・・呆れるよ。」
俺は小さくため息をついた。
「貴様・・・」
「ルミナ?」
議員の奴らは険しい顔で俺を見つめ、メルンは驚くようにこちらを見ている。
「ルミナあなたは・・・」
「貴様は・・・」
ついさっきまでの俺のように混乱している。
(面白いものだな。)
俺は笑顔で、アドスのいるステージの前に行き、みんなの方を見た。
「どうも改めまして、『俺』の名前はルミナ・ジェーミンです。以後お見知り置きを。」
読んでいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




