秘密~死神の彼~
<略>
「そういえば梨花。アンタ、小学校の頃、テストで賭け事してたんだって?」
仕事を中抜けして病室に見舞いに行った際、何気ない調子を装ってそう話を振ってみる。
その結果、梨花は食べていたプリンを不自然な音を立てて飲み込み、咳き込んだ。
どうやら、本当だったらしい。やれやれ、だ。
「ちょ、いきなりっ、何・・・」
「アンタが寝てる間、見舞いに来てくれた男の子がその時もらった、とかで鍵を返しに来てくれたのよ。確かに、あの頃頻繁にモノがなくなるのはおかしいと思ってたけど、おばあちゃんが大事にしてた鍵まで賭けの景品にするなんて、何考えてるのよ」
「もう時効、ってことで許してよ~。ってあれ?鍵を持ってる男の子?何ソレ・・・?」
「え」
「だって、鍵は持って行こうとしたらおばあちゃんに見つかって、止められたんだもん。代わりに、次の日から散々勉強させられた記憶あるよ、あたし」
だとしたら、彼は一体
「・・・アンタが寝てる間、『日下部君』っていう 昔同級生だったっていう男の子が訪ねてきてくれたんだけど、心当たりは?」
背筋に冷たいモノを感じながらも重ねて聞いてみると、案の定梨花からは訝しげな視線が返ってきた。
「確かに、日下部君とは小・中と同じクラスになったことがあるけど、あり得ない」
「へ。何で」
断言する梨花に違和感を感じながらも、続きを促す。
「だって、日下部君は中学の卒業式の夜、火事で亡くなってる」
「え」
言われて、梨花が中学校の卒業式の次の日、再び制服に身を包んで火事で亡くなったという同級生の葬儀に出たことを思い出した。あれが、彼だったのか。
だとしたら
「何で・・・」
うっかりそう呟いたとき、梨花が白い目でこちらを見ていることに気づく。一体何だというのか。
「うっわぁ、ホントに気づいてなかったの?このニブチン」
「は?」
<略>
【第6章 黒幕】
「これで、心残りはありませんか?」
晴れた日の朝、焼け跡になった家の前に立ち、彼は優しげにそう訊ねる。
「ええ。大丈夫よ、逝きましょうか」
自分を迎えに来た死神だ、と告げた青年にそう笑いかけ、八重子は晴れ晴れとした気持ちで微笑んだ。
「それにしても、貴方がお迎えの人だなんてねぇ。嬉しくなっちゃうわ」
彼は確か、下の孫が中学生くらいの頃に惚れた腫れたと騒いでいたお相手だった。一度、孫が『テストの点が悪くて・・・』と言いながら自分が大事にしていた鍵を持ち出しそうになったとき、事情を聞くために会った記憶がある。その時『中学生のうちからそんな賭け事をするな』と叱った記憶のせいか、彼は複雑そうな顔で苦笑いを浮かべていた。
「貴方のおかげで、淳也さんにも久々に会えたしねぇ」
その表情を払拭するために笑顔でそう告げると、彼の方も何故か思慕を募らせたような表情をする。
「俺も、久々に顔を見れて嬉しかったですよ」
「あら。じゃあ、貴方と梨花は両思いだったの?」
「梨花さんじゃありません」
「あらあら」
梨花じゃないということは・・・、そこまで考えて、八重子は自分の思考に蓋をする。どちらにせよ、それ以上は言葉にしない方が良さそうだ。
とかく人の世は面倒で、互いに好意を持っていたとしても共に生きていけるとは限らず、幸せになれる保証もない。だが、その思いを糧にして未来を生み出すことはできるだろう。だから、遺された彼らには幸せであってほしい。
それだけを願って、微笑みと共に八重子は空気に溶けていった。
END
※時間の関係上カットした設定ですが、今見たら、文字数も超えなかったし入れても良かったかな、と思いました(笑)。実は、小箱に入っていた指輪(その昔、早崎サンから贈られたモノ)がお値打ちモノで・・・という裏設定もあったりするんですが、こちらは話に入れる隙がなく、諦めました。(^◇^;)




