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ボツ案『タイトル未定』 執筆者:◆◆

 メタ的手法を用いた小説は、案外書きやすいものだ。書き手自身が主人公と同化し、書き手の気持ちをひたすら投影していく。こう書くとなんだか難しそうに感じるかもしれないが、なんのことはない。主語を主人公の名前に変えて、後は自分の思いをぶつければ良いのだ。私はそうしていつも逃げてきた。

 前回上梓した小説は、頭の中の構想だけが先走っていた。連載という発表形態に押し流されるようにして、勢いのままに書き続けた結果、途中で私自身を投影したキャラクターにご登場願い、そして消えてもらうことになった。しかし、あれは逃げである。本来であれば、元からいる登場人物たちのみを用いて小説を収束させなければならない。それを分かりながら、締切に追われた私は逃げた。担当編集の椎名君にため息を吐かれたことは言うまでもない。

 そして私は、今こうして前回の失敗を繰り返している。朝起きて、パソコンの前に座る。パソコンは確かに立ち上がっているが、何をするでもなく、ただひたすらに座っているだけである。本当は小説を書こうとしているのだが、何も思い浮かばず、脳内はまさしく無になる。そのうちに手持無沙汰になり、携帯電話をいじり、友人からの連絡を確認し、にやけ、来週の遊びの予定に思いを馳せる。空腹感を覚え、昼食をとり、またパソコンの前に座る。小説を書こうと思ってwordを開く。あれこれ考えようとしているうちに手持無沙汰となり、携帯電話をいじる。友人からの返事はまだ来ていないが、カルロス・ゴーンがまたしても逮捕されたというニュースが目に入る。何をしているんだかねえ、と思いながらその他にもいくつかニュースをチェックする。夕方になってきたので、今日こそは自炊するという決意のもと、キッチンへ立つ。冷蔵庫の中に腐ったキャベツとマヨネーズしかないことに気付き、仕方なく食材を買いに出かけ、焼きそばと人参、玉ねぎ、豚バラ肉、キャベツなど必要な材料を購入する。帰宅してさっと焼きそばを作り、お腹が満たされたところで少し休憩する。さて、休憩もそこそこにして小説を書かねばと思い、パソコンの前に座る。どう書きだしたら良いものかと思案するうちに夜も更けたので、明日も生活リズムを崩すのが最もいけない、と言って布団に潜り込む。このようなことが毎日の日課となって幾日も過ぎた。違いがあるとすれば、一念発起して焼きそばを作るか、それとも外食で済ませるかの違いだけである。

 ここまで美しく非生産的な日々があるだろうか。私は一体何がしたいのだろうか。このまま何も生み出すことなく、ただ漫然と日々を過ごしていくのだろうか。

 そんなことを思いながらカレンダーを眺めた私は、あまりの驚きにアッと声をあげた。今日は、今回から新連載することになっていた小説の第一回の締切の前日だったのである。すでに23時を回っている。締切は明日の15時である。あと15時間余りしかない。進捗のほどは、賢明なる読者諸君ならお分かりだろう。0字だ。

 やむを得まい。少しだけ締切を遅らせてもらおう。確か、原稿を書き上げてから編集者が確認し、校閲し、入稿するまで幾日かある。このうちの誰かから1日拝借することとしよう。誰の1日かは私の決定できるものではないが、おそらく編集の椎名君が身を削ってくれるに違いない。なにせ、私がこうして締切を遅らせた責任が、彼にも少しはあるからだ。

 私は意気揚々とパソコンの前に座り直し、椎名君にメールを打った。締切直前に申し訳ないが、どうしても明日の15時には間に合いそうにないから、1日だけ遅らせてはくれないか。

 送信してホッと息をつくと、すぐに電話がかかってきた。

「清川先生、何言ってんすか。昨日締切延ばしてくれって言ったのにまたっすか。さすがに待てるわけないでしょう。ほんとふざけないでくださいよ。絶対に明日の15時ですからね」

 彼はそう言って一方的に電話を切った。同時に家のインターホンが鳴った。心臓が止まるかというほど驚いた――いや、実際に2秒ほど止まったのではないだろうか――私は確信した。椎名君である。一体どんな剣幕で怒鳴られるか分かったものではない。椎名君は私よりも3歳年下なのに、物怖じしないどころか、平気で私を怒鳴りつけてくる。理由はいつも同じだ。私が原稿を出さないからである。しかし、賢明なる読者諸君も、人の心を持っているならばご理解いただけるだろう。人は、恐ろしいものから逃げるものだ。いかに自分自身が悪かったとしても。

 私は心を決め、裏口へと向かった。静かに、物音一つ立てずに。財布だけは持っていくことにした。そろり、そろりと足を滑らせ、やっと裏口のドアへ着いた。ノブをゆっくりと回す。ゆっくりと押し開けようとした瞬間、ドアは外部からの信じられないほど強い力に引っ張られ、勢いよく開け放たれた。椎名君がいた。

「どこに行くんですか」



 清川先生は性根が腐っている。何も清くない。毎朝起きて机に向かっていると聞いていたのに、午前中に電話をかけても出たためしがない。初めて先生と会ったときは緊張しすぎて、会社の自分のデスクから応接室に向かうまでの間に3回ほど躓いた。今となっては、あんなに緊張した自分が恥ずかしくなってくるくらい、先生には呆れ果てている。うちの会社の新人賞を取って作家デビューしたものの、それ以降は全く売れていない。正確には、ほとんど売りに出せていないという方が正しい。

 賞を取ってデビューしてから、この4月で丸2年が過ぎ、3年目に入ろうとしている。その間、連載をまとめるなり、なんなりして出した本は1冊だけ。それも、打ち切りになった連載を3つほど束ねて、とりあえず1冊の本にしたというだけである。なんのつながりもないし、全てにオチがないのだから会社としても推しようがない。

「期待の新人、初の短編集!」

 こんな全く中身のない帯をつけて出版する羽目になった。これでは売れるわけがない。

 なぜ連載を打ち切りにされたのか。いや、理由は単純だ。書かなかったからだ。清川先生は本当に書かない。世には遅筆の作家というのがごまんといるが、清川先生ほどの人はなかなかいないだろう。だらだらして日々を浪費し、何も書かず、締切が近づけば何かてきとうな言い訳をつけて引き延ばそうとし、これ以上引き延ばせないと知るや体調を崩したと言って放り出してしまう。そして連絡をしばらく断って消息を絶ち、連載は打ち切りを余儀なくされる。そして、もう打ち切りが決定して、その号が発売されたころになって、ひょっこりと顔を出して謝罪してくる。体調を崩していたはずの期間に旅行に行った話をする。

「私はもうついていけない。泣く子と地頭の方が何倍もマシだ」

 これは私の前に清川先生を担当していた編集者のセリフだ。同じようなセリフが3度、繰り返されたという。清川先生はデビューから1年半の間に3人の担当編集を鬱の淵に追い込み、辞めさせたのだ。

 そして4人目が私である。まだ入社2年目の新人編集だ。担当してから半年の間、私は清川先生に仕事を与えようと方々を駆けずり回った。文学雑誌の編集部に行き、どうにかして清川令に連載をくださいとお願いした。半年の間、ずっと1件も取れなかった。どこに行っても、清川先生のことなんか知らないか、知ってても悪評だけだった。


便乗して投稿してみました。私のボツ案です。

椎名君はなぜ清川先生に仕事を与えようと奔走していたのでしょうか。

そこを中心に描く恋愛ものをと思ったのですが、この辺で筆が止まりました。

さて、私は誰でしょう。

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