たったひとつだけぎゅっとこの手のひらに握りしめる事が出来たなら
どれだけ願っても、叶わない事はある。
どれだけ祈っても、届かない事もある。
願った事、祈った事、何もかも実現するなんて、どれだけ大富豪でも(それこそビ〇ゲイ〇でも)無理だろう。むしろ何でも願いが叶ったら超ダメ人間になってしまう、と思う。多分。
もがいても、足掻いても、死ぬほど頑張っても叶わない届かない事なんていくらでもある。
でも、だからこそ、つかみ取れたものはとてつもなく輝いて見える。
きっと、私は生涯、大金を得る事も地位を得る事も無い。
昔描いた夢が叶う事もないだろう。
この手からは本当に色々なものが、ぽろぽろと零れ落ちた。
「普通」と呼べる生活を送る人達が普通に得ているものすら、この手には残らなかった。
たったひとつを除いては。
私の手はちっこい。
手のひらは、肉がついていて肉球のようにぷにぷにしているとよく言われる。
手の甲は、なるべくクリームを塗るようにしているがささくれがあってガサガサだ。
貴方の手にすっぽりと収まる私のちっこい手。
私の手にひとつだけ残った、ぎゅって出来るもの。
私の手のささくれが貴方の手を傷つけても、貴方は私の手を握ってくれる。
きっと、他の人達は
もっともっとたくさんのものをぎゅっと握る事が出来るんだろう。
昔はそれが凄く凄く羨ましくて、自分の手に何も無い事が哀しくて辛くて仕方なかった。
でも、今は。
「今日も寒いね」
「寒いね」
たったひとつだけ、手の中にあるこの手さえあれば。
他に、何も要らない。