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Blue Cactus  作者: 秋之
6/6

始動



遊ぶ予定の街は結構栄えている。


大きな駅も、大きなショッピングモールもあって、ホテルが競う様に並び、よくCMでみるメーカーの本社だろう大きなビルが至る所に建っており、駅から各ビルまで行ける遊歩道を兼ねた連絡通路もある。


眩いばかりにきらきらしい。


そして、私は知っている。


ここには夜なんて存在しないことを。



一度終電ギリギリになった時に見上げたビルには明かりがまだ爛々(らんらん)とついており、そのひとつひとつの明かりに誰かが仕事をしているんだと思うともはや切ない程に胸が締め付けられた。


昼とか夜とか関係ないやん!と内心突っ込んで、自分も将来その一員になるのだと思うと、今すぐにプールに飛び込みたくなったのを今でも覚えている。




遠い目をしてビルを眺め、今は考えまいと蓋をした。



私達が到着する頃には何人か集まっており、

挨拶も早々に先輩は同期達からの質問責めにあっていた。

冷やかしの声を受けつつも和気藹々(わきあいあい)と楽しかった。




それから新しくできたというショッピングモールへと入り、食事をしたり、スポーツショップで水着を物色したり、セレクトショップや、下着売り場まで見に行ったりした。まあ、先輩は臆することもなく、下着売り場に入ったのは流石だと思ったが...。


「先輩慣れてますね。」と皮肉を言えば「美矢ちゃんの好みが知りたくてさ。」と満面の笑みで返ってきた。




........。






お巡りさん!!!

此処です!!

この人です!!!


今すぐに連行してください!!






そうこうしてショッピングモールを一通り練り歩き、足休めも兼ねてお洒落なカフェに入ることにした。





「誰だっ、誰だっ、誰だぁ~♪ ふんふん♪

みるくとこーひーの、はぁ~もにぃ♪

そっれっは♪そっれっは♪」





「カフェオレでしょ?」






「.......。うぁああああぁあああああ!!!!」



こんにゃろ!

先輩め!!


後で先輩のアイスコーヒーに

ガムシロップ大量に投入してやろう!!

ふふんとしたその顔...

そうですね、腹立ちますねえ。



その後「先輩、席を取っておいてもらえますか?私運ぶので。」と言えば「そんなこと美矢ちゃんにさせられないよ。」と困り顔フェイスで言われ同期たちの心を鷲掴(わしづか)みにしていた先輩。


目がハートになっている同期達に気付かれない様に私の耳元で「美矢ちゃん、悪戯させないよ。」と低音ボイスで言われたときは、心臓の辺りから【キュゥ..!!】という音が鳴った気がした。



作戦は失敗したが、なんだかんだで楽しい時間を過ごしていると、同期の1人である相澤(あいざわ) 那月(なつき)がトイレに行くと言った。


那月は水泳のリレーで平泳ぎ担当。結構おっとりしていて、みんなからは癒しキャラとして愛されている。

那月とは小中高と同じ学校だ。小学校から水泳部に所属しており、私はスクールに通っていたので交流は無かったが、中学の部活がキッカケで仲良くなった。



そのまま待ちながら、先輩に那月の可愛らしさを力説する。


「那月はリレーで平泳ぎ担当で、

おっとりしてるのに水泳だとすごく速いんです。

いつもふわふわしてて癒されるし可愛いし、

蛇好きって言っても偏見ないし、大好きな仲間です!」


饒舌(じょうぜつ)に那月の素晴らしさを語る。


「へぇ。美矢ちゃんは那月ちゃんが好きなんだね。」


珍しくうんうん、と聞いている先輩に、嬉しくなって興奮気味に「もっちろんです!世界一ですっ!!」と答えると、一瞬射殺されそうな目をされた。




おっふ。




同期が気付かずに那月の素晴らしさを私に変わり先輩にしてくれたのが唯一の救いだった。




しばらくして戻ってきた那月がそろそろ電車に乗らないと。と困ったように笑った。


確かにいつもならここで帰路につく時間。

楽しい時間もあっという間だと考えながら、その日の感謝を述べ、解散することとなった。




外に出ると夕焼けで辺り一面オレンジに染まっていた。

この時間が1番好きなんだよなあとしみじみ考えていたら、先輩がそっと手を握ってきた。


それはほんの一瞬だけだったけれど、胸が破裂しそうな程跳ね、手の感覚が麻痺した様な気がした。


思わず先輩を見ると子供の様に悪戯っぽく笑って、口がパクパクと動く。





なに、えっと..



"..覚えとけよ?"





理解した瞬間、

ぼふん!!と頭の何処かで破裂音がして、

頭がぼーっとし、のぼせた様な感覚に陥る。




跳ねる心臓が(うるさ)く響いて、未だ麻痺した手の感覚や、頭がのぼせた様な状態のまま、家が同じ方面の那月、そして先輩と電車に乗る。


ガタンゴトンと揺れる電車に身を預け、那月と談笑している先輩を見つめる。


楽しい、1日だったと、思う。

先輩も元気そうで良かった。


こんな日が、またすぐ来ると良いな..。









そう思った瞬間だった。






鉄と鉄がぶつかる様な酷い金切り音と共に、激しく電車が揺れたと思ったら【ガコンッ!!】と一瞬止まる電車。


混雑している車内では悲鳴が響き、座席についていない人達は前方へと吹っ飛ばされるか、渾身の力で手すりにしがみついている。案の定、手すりに摑まってさえいなかった私は先輩の方に吹っ飛ばされた。間一髪で先輩に受け止められたが、先輩が受け止めてくれていなかったらそこに崩れている社会人達の上に覆いかぶさる様に吹っ飛ばされていたことだろう。



一体何が起こったのか理解できなかった。


急停車した電車はすぐにまた嫌な音を響かせながら、また動き出した。徐々にスピードを上げる電車は先程までとはまるで違うスピードで、あっという間に次に停まる筈の駅を通過し現在も加速し続けている。


猛スピードの電車は加速に伴い酷い揺れ方をしていて、それはまるで..地面を這う蛇のようだった。


各駅停車の普通列車なのに停車しないことも。何のアナウンスもないことも。明らかにおかしい電車の様子も。乗客の不安を煽るには十分すぎるほど条件が重なりすぎていた。




ざわめきだす乗客、酷く泣いている子ども、ぐらぐら揺れて手すりに摑まることさえままならないお年寄りも、異常な空気にどこか寒気を覚えつつ、とにかく先輩と那月の3人で近くにいる人達に手を差し伸べてどうにか手すりに摑まれるようにする。







「これより、選抜を始める!」







酷い喧騒の車内に鋭く響いたその言葉は、


やけにノイズが掛かって聞こえた気がした。











おまけ


下着売り場にて



「先輩まじで入ってくるんですか?」



「うん。一応平気だよ。」




........。




「そうですか...。」


なにこの人...。





とにかく先輩から離れて物色しよっと。




「あ。可愛い。」という同期達の声に釣られて見に行く。


そこには花がプリントされている薄ピンクの下着を持つ那月の姿。




「あ、本当だね、すごい可愛い。

那月に似合いそうだね♪」



「えへへ、ありがとう~

ちょっと試着したいなぁ。」




なんて言っている那月にほかの同期が

「那月ってば胸大きいから羨ましいわ。」

と囃し立てる。



赤い顔をしてやめてよぉ、という那月。




そんな照れ顔の那月も可愛いよっ!!!!!




試着している那月をよそにまた同期達は物色を開始。




あ...


「これ可愛いなあ。」



「美矢なんのやつー?」


「このオレンジのやつ。

オレンジ色の下着って可愛いよね。」



「美矢ってば、そういうところほんと可愛いよね。

那月と違って赤色とかネイビーも似合いそうなのに、下着はいつもオレンジとか黄色、ピンクの刺繍系。

プリント系でも似合いそうなのになあ...。


あ!でも前着てたシニョンブランドの濃いラベンダーの刺繍ブラめっちゃ似合ってた~!あれ本当色っぽかったよ!!本当に極たまにしか付けてこないのが不思議なくらい!」




「あー...。

アレね...。」




「シニョンブランドとかめっちゃ良い下着ブランドなのに、ほんと不思議よ。」



と心底不思議そうに聞く友人。




「似合ってるなんて思わなくてさ...、似合って...た..なら、良かった..デス。」



「うん。だから、むっちゃ似合ってたってww」


「アハハー....」



不思議そうな顔の同期は違う所から、

「これ可愛いー!!」という声を聞いてすっ飛んでいったので、助かった。




はぁあ....



焦ったぁ...。






「へえ...。

美矢ちゃんはオレンジと黄色とピンクの刺繍系ね。」





「みぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」





絶叫がこだまし、店内の人たちからの視線が刺さる。


同期達はこちらを一瞬見ると、いつものことか。と、にやっと笑ってまた会話に戻った。




後ろを見ると、先輩....。


「心臓飛び出そうになるんでやめてくださいよ。」


「いい情報が聞けたと思って。」






.........。


さっき警備員さん居たよね。





「彼女サンの好みを知りたいと思う男心です。」



しゃらくさ...




「今しゃらくさいって思った?」



「イエ、思ッテオリマセンガ?」





「ところで美矢ちゃん。」


「なんでしょう?」



「濃いラベンダーの下着って、誰の贈り物なの?」



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



なんで気付くの?!

おかしいよね?!


なんでわかったの?!



だめ!!ここで挙動がおかしいと、そうです。って言ってるようなものよ!私!!がんばれ!!




「....え?

ああ!!あれですか!!アレは通販で色指定を間違えちゃったらしくて!アハハ!こういう肝心なところ間違えちゃうなんて!ほんとびっくりですよね!うふふ!!」




「でもシニョンブランドって完全店舗販売型のオーダーメイドのブランドでしょう?」





なぜ知ってる!!!!!



くぁああああああ!!!!!!







「で、誰からの贈り物なの?」








お前は名探偵か。


名探偵ナンコ君か。








「まあ、何思ってるか追及できるところだけどね、名探偵じゃないからこうやって聞いているわけだよ。」




..........。






「で、誰からなの?」




もうさ、そのまま察して黙っててくれないかな。


先輩からの尋常じゃないほどの視線と、有無を言わさないこの圧力。



「ほかの奴からの下着を着けさせるほど、

俺は心広くないからさ。」


と言われて、もう陥落した。



「...........ち....です。」



「え?」








「.......ぉにぃ....ちゃんです......。」



「は....、


え...?



陽先輩?!」




うぁあああああああああああぁぁあぁん!!!


だから言いたくなかったのに!!!っていうか!!!


そもそも付けるのだって本気で嫌なのに!!



『みゃーちゃん、いつも明るい可愛らしい色合いだけど、こういう色もきっと似合うよ。』

と綺麗に可憐に、ふわっふわにラッピングされた箱を渡された。


何の話かと思ったが....。


そのままにこにこと微笑むお兄ちゃんに開けてみてと促されて、開けて時が止まった。



ラッピングを取って現れた箱には 

【シニョンブランド】




..........。




まさかと思いつつ開けてみれば濃いラベンダーの下着。





絶叫しましたよね。



なんでお前がサイズ知ってるんだよ。



妹に下着を送る兄ってどうなの?

私的に世間一般の優しいお兄様ならアリだとは思うけど、この人から送られるのは大分怖いわ。と当時は震えた。



目ざとい兄は本当に怖い。


ずっと付けなかった時に、

『みゃーちゃんの、お兄ちゃんによる、みゃーちゃんの為のプレゼントだったのに...』といつかの社会科で言われたような言葉を言われ、しょげてしょげてしょげまくったお兄ちゃんに、ゴメンネと言い続けるのは ほんっとうにしんどかった。


普段ドSの癖にそんな面を見せれば妹は陥落するって知ってるんですよね。ほんとサドですわ。




また面倒なことにならないように、兄が自宅に帰ってくるタイミングで洗濯に出せる様、極たまに着用していたのだ...。




「陽先輩....。」



引きますよねー...

わかりますう。







「陽先輩なら仕方ないけどさ、


いつか俺が贈るから、その時は付けてね。」



「は....?正気....」


「っきゃあああああああああ!!!!」




.........。




悲鳴の方には試着室から出て、顔を真っ赤にした那月。




「那月、あの、コレはね。」



「美矢ちゃん!私応援してるね!!」



「ちっがああああああああああああああああああう!!!!」




「ほんと、美矢ちゃんの友達はいい子たちだね。」


なんて言って朗らかに微笑んでる先輩の足を踏んづけたいくらいにはイラっと来た。




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