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Blue Cactus  作者: 秋之
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大魔王と赤い耳


あれ以来、先輩は追い掛けて来ることはなくなったが、追い掛け回さないだけで基本は変わらなかった。


お兄ちゃんに注意されている筈なのに...


あれ?オカシイナァ。

アレレー?

この間お兄ちゃんが帰って来た時に、

散々遊ばれて転げ回されて構い倒されたんダケドナァー?



もう2度とお兄ちゃんに頼ることはない。

と、決心する出来事だった。





先輩に対しては構い倒されすぎて一度爆発した時「ここに座って下さい。」と言い、先輩を観覧席に座らせて延々とお説教をした事があるが、


「へぇ。美矢ちゃん。やっぱり面白いね。」


と返した先輩はやはり私より遥か上で、

その後酷い目に合った。




よりによってその後に田口先生や男子水泳部から、

兄と先輩が通う高校との合同練習の申し込みを頼まれたのだ。


先程アナウンスでお兄ちゃんが呼ばれていたから、今頃次の大会についての説明を受けているだろうし...。


その為、お兄ちゃんに頼むこともできない。



拒否したくても、

是が非でも!という状態の男子水泳部には敵わず、

「田口先生が行けばいいじゃないですか。」と言えば

「いつも迷惑をかけているのに、良く言えるな。」と

淡々と言われたのが運の尽き。


自覚があるから何も言えなかった。


めげて愚痴った女子部員には行ってこい!と背中を叩かれ、心身ともに風化しそうになりながら、先程説教したばかりの先輩の元へと歩く。




「嫌だああああ。」と半泣きになっていたら、

田口先生に「仲が良いのに何故だ?」と不思議そうに言われた時は「不本意だけどな!!!!」って言い返しそうになった。


よう、言わなかったよ。


そんなん言ったら今頃私の氷漬けが出来てるよ。





そして現在。

斜め下を見ながら、さも不本意だと言わんばかりに

「先程は済みませんでした。私が至らぬばかりに、偉大な先輩様にはご不快な思いをさせてしまって大変申し訳ありません。つきましては..」とあたかもクレームを受けた営業マンの如く口上を述べていると、にやにや笑いだす先輩の顔が視界に入る。


ハッとして先輩を見ると、


「説教した先輩に対して美矢ちゃんは何が言いたいのかなー?」とさらに追い討ちをかけてきた。


「........。」


私、帰りたい。おうち、かえりたい。




「お家に帰るには、

言わないといけないことまだあるんじゃ無いかな?」


と、ギラついた目でにやにや笑う先輩。


いま、口に出してなかったよね?!

何この人怖いよう..ふえぇ..。


驚きと恐怖で震えていると



「で、美矢ちゃんは何か俺にお願いがあるんでしよ?

言ってごらん。」


そう目の前の大魔王様が言い放つ。



微笑んでるのになぜ後ろが黒いんでしょうか...






「...うちの男子水泳部と合同練習して頂けませんか?」


半ばヤケクソで言った。


「良いよ。」


説教からの今で断られたとしても構わない。

もうこれこの状況から逃げ出したいレベルなのだ。

そもそも、私に頼む方が間違っている。

先輩の事だ。田口先生や男子水泳部部長から話を持ち出せばこの人も、お兄ちゃんも素直に受け入れる筈なのは明確なのに、何でそんな事も分からないんだろう。


........は?今なんて言ったこの人。


「美矢ちゃんってば、聞いてる?

良いよって言ってるんだけど。」



「は...?正気ですか?」


すかさず頭部をガシッと掴まれた。



おっふ...。



うりゅうりゅと涙を浮かべて

「酷い...。」とシクシク泣く真似をしてみれば、


先輩は紳士的な微笑みで耳元に近付くと

「ぶりっ子は止めろ。」と殺しそうな勢いで言ってきたし、先輩は正気でいつも通りの平常運転だった。



「ま、でも、条件があるけどねぇ。」


「さすが先輩ですね。やっぱり正気だった。」


今度は頰をぶにっと掴まれた。アンパン◯ンの様な、

憧れの女の子らしい ふくよかほっぺじゃないから当然痛いわけで「いひゃい。」とせめてもの抵抗を口に出す。




「合同練習の条件は..

美矢ちゃん達も一緒にすること。

良い機会だし普段経験できない事も、合同練習だから出来る事沢山組み込んでみたら面白そうじゃ無い?


場所はうちのプール。


屋内の50Mプールでレーンも他より数あるし、

うちでやった方がいいかな。

きっと美矢ちゃんも気に入ると思うよ。

陽先輩もきっと賛成してくれると思うし。」


何だそんなことか。

それならうちら女子部員も練習になるし、

...プールも興味あるし。


うん。良いことじゃ無いか!やりましたよ監督!

みんな!私やりましたよおおお!!と先輩の条件が案外()()()で、内心諸手を挙げて万歳している。さあっみなさんご一緒に!!

バンザーイ!!バンザーイッ!!



「あと美矢ちゃんの連絡先教えてね。」



「..まともじゃ無い。」



そう言って制裁が来ると思ったのに、

身体のどこにも異常は無い。


先輩の顔を見るといつも以上にギラついていたが、さぞかし私が追い込まれたウサギの様な表情をしていたのだろう。途中から楽しそうに笑っていた。




そうだ。これでこそ先輩。


「電話番号でいいから。」


「メアドじゃ駄目ですか?」


「いやいや。せっかくの携帯()()なんだよ?活用しないと。」


あふぅ...。



泣き真似が、本気泣きになる気がした。


「俺が電話したらすぐ出てね。」


まじですか。


「鬼ですか。」


思っている事と口に出た言葉が逆になるくらいには狼狽えた。







――――――――







「はい、美矢ちゃんの番号は..っと。」



「っぐふ..うっく...ひっく...うええぇぇえ....。」




まあ、なんで泣いてるかって、そうですよね。

説明しますね。


携帯を隠そうと思わずですね、携帯が入ってるスカートのポケットを手で抑えたんですよ。


それで勘付いたんでしょうね。




仮にも女子である私のスカートのポケットに手を突っ込んで携帯を取り出したんですよ。この人。





放心している私に対して、それだけでは飽き足らず!

なんと、勝手にデータフォルダを漁り

私が大好きな種類の蛇の写真を見て、


「美矢ちゃんってこのネズミみたいだね」


なんて言って餌のホッパー(ネズミ)を指差したんですよ!!!!!


しかも!蛇に食されてる最中のを!!!!!



蛇が嫌いな家族からは大バッシングで飼うことができないから、せめて写真だけでもという健気な私に対して、この仕打ち。



蛇好きって言うと結構「えっ..。」って言われるんだけどね。

蛇ってね、ペットとしては理想的な動物なんだよ?!

散歩もしなければ、無臭で吠えないし、

威嚇する時だけシャーシャーいうだけだし、

毛も落ちないから手間かからないんですよ。


何より!!顔可愛いし!


そもそもペット(イコール)犬or猫っていう考えがおかしい訳で! ネズミ食べるんでしょって言われてもね!じゃあお前はベジタリアンなのか?!って突っ込みたくなるわけですよ。


スカートのポケットに手を突っ込まれたことよりも、

ネズミに似てると言われた方で胸が痛いのは、

まあ...、自分でも女子としてどうかと思うが..。


ぐすぐすと未だに泣いているが、

先輩は目もくれず私の携帯を鳴らしてよしっ。と言った。



手渡された携帯を見たら画面に"憧れの先輩"という文字と数字の羅列。


涙が出た。




「うぇぇえ...おうちかえりたいよお...おかあさーん..。」




「そんなに喜ばなくていいのに。」


「喜んでんじゃ無いってんですよ!!!!」



「へぇ。泣いちゃうくらいなのに?

まあ、でもボールパイソンは可愛いよね。」



「...はい?なんで、」


蛇の種類知って..



「俺の親が好きで、家にいるんだよね。」


「ファアアァアアアァア!!!!!!」



あたかも甲子園球場で鳴り響くサイレンのような私の声に対して、先輩は眉間にしわを寄せて無言で私の頭を叩いたが、そんなこと気にならないくらい凄い勢いで機嫌が直った。


そのあとは祭りだった。

先輩のボールパイソンちゃんの写真を見せてもらって、悶絶しまくり。


魅惑的なむっちりボディ。

先輩の腕に絡まるボールパイソンちゃん。

あまりにも艶々と麗しすぎて「艶子(つやこ)さんやあああ!!!!」と絶叫したら当たっているとのこと。先輩のご両親とは話が合いそうだ。


かぱっと開いた笑っている様なおくち。

水浴びしてる艶子さん。

脱皮の画像まで見せてもらった。


可愛い可愛い可愛い。はううううう!!


画像を送ってもらうためにメアドも交換した。

やだ、どうしよう!ボールパイソンの話をリアルで出来る人なんて初めて!!!感激なんですけど!!


先輩からは「ゲンキンな子やなぁ。」とエセ関西弁で言われたが、気にせずに艶子さんのお家での話や送ってもらう画像を(むさぼ)って、田口先生が迎えに来るまでそれは続いた。





大魔王の化身の様な先輩だけど、

私に対してだけ唯我独尊、天上天下俺様な先輩様だけど、


憧れ魅惑ボディの艶子さんお家にいるし...。


大会で緊張した時には笑いをくれるし..、


タイム出せた時とか先輩より遅いのに自分のことみたいに喜んでぐりぐり頭撫でて..、


たまに日立君連れて来てくれて癒しのご褒美タイムとかあるし...。


ベストが出せなくて落ち込んでる時も周りには気取られたく無くて繕っていたのに、笑わんでよろし。って一喝されてわんわん泣いたこともあった...。






まあ...



まあね、




まあ、うん、




いい先輩なんですよ。




--――――――――---






「ぉーー...ぃ。」



「ぉーー..い...。」






「美矢ちゃん?」



本日何度目かの覚醒。





「大丈夫?体調悪かった?


結構長くぼーっとしてたけど...。」




人混みの喧騒のなか、

先輩の言葉がやけに鮮明に聞こえた。



心配そうに覗き込む先輩。


その顔をじっと眺めて、


口から零れるような、小さな響きの言葉が出た。


まるでそれが当たり前で、ずっとそこにあったかのように。



それは溜息が零れそうなほど甘美で、


眩暈(めまい)がしそうな程に私を揺らがせる。






「・・・ ・・- -・- ・・ 。」





「え..?


ごめん、聞こえなかったよ。


なんだった?」




喧騒に紛れ、散らばった呟きは


先輩の耳には届かなかった。




呟いた言葉は徐々に熱を帯びて頬まで上がると、

目頭がじんわりと熱くなるようだった。





唇を結び直して、みぞおちの辺りに力を入れる。





「先輩はやっぱりかっこいいですね。」








「だろ?」


何でもない事のように得意げに微笑んでいたけれど、


ほんのりと赤くした耳が 切ないほどに愛おしくて、




ただ、その赤に触れてみたかった。









おまけ


合同練習日の朝。



学校から手配されているバスを降りると眼前には広大な敷地が広がる。


うっわあ...。


引くほど広いわ...。




広大に広がる芝生の先にはこれまた大きな建物。


あれ。


進学校なのに屋内プール50Mとかどんだけお金かけてるの...。


さすが私立...。


お金の掛け方が違いますね...。



まあうちは公立だけど、

これでも一応各教室は冷暖房完備なんですよぉ。

夏は蒸されて、冬は凍死しそうなほどよく効いてぇ。


...

......。



つらい。


なにこの格差...。






そんなことを考えていると建物のほうから三人組が走ってきた。


誰だろ。案内してくれる人かな...?




..........。


あ、先輩見っけ。



あれは.....ドS..。っごほ!!ごほごほ!!

お兄様ですね。はい。





あ!!!あれは!!!!!



「っひたちくーーーーーんっ!!」



日立君がこっちに向かって走ってきてくれてる!!!

やだどうしよう!可愛すぎる!!!


まあ、あれですよね。


こっちも走りますよね。


飛び付いたら日立君が照れながらも受け止めてくれた!!


さすが日立君!!今日も素敵です!!


「美矢さん!お元気でしたか?」


「あれから一か月もたってないよう♪

もおおおお!!日立君ってば!!

可愛いなぁあああ!!

私は元気だようっ♪」


にこにこと微笑んでいる日立君の屈託のない笑顔に癒される。


ぽすぽすと頭を撫でられるというオプション付きなんて!!なんてお店ですか此処は?!指名しちゃうよ!!ドンペリ、ピンドン、シャンパン入れちゃうよぉおおお!!!




「みゃーちゃん酷いなあ。せっかくお兄ちゃんに会えたのに日立君のところ行っちゃうなんて。」



熱が一気に覚めるとはこういうことですね。


「..ご機嫌麗しゅう..お兄ちゃん..。」



「先輩、日立も美矢ちゃん独占しないでください。

いっときますけど、俺が呼んだんですからね。

美矢ちゃん、久しぶり。」


「お久しぶりです、先輩!」


今日はルンルンで返事返しちゃうもんね♪

だって昨日先輩から艶子さんの最新画像送ってもらったばっかりなのだぁ♪



「徹チャン、みゃーちゃん気に入っちゃったんだねえ。

さすがみゃーちゃん。


ところで日立君かわいいでしょ?」



「うん!!!すっごく可愛い!!」


「でもみゃーちゃんの一つ上の先輩だよう♪徹チャンと同い年♪」





「...........。」




「うぁぁぁあああああああああ!!!!!!!

ご無礼いたしましたぁあああああああああああああああ!!!!」



「いやいや、良いんですよ。砕けてるほうが僕も嬉しいし。」



なにこの子...


天使なの?



「俺、今から職員室行って監督にみゃーちゃん達が到着した事伝えてくるから、日立君はみゃーちゃんの高校の水泳部さんに更衣室教えてあげてくれる?」


「はい!了解です!」





「みゃーちゃん、またあとで会おうね♪」



「うん、また後でね、お兄ちゃん。」


その返事を聞くと軽く手を振ってお兄様はもと来た道を颯爽と駆けていく。




ところで....


「先輩。」


「なに?」



「艶子さんって何歳なんですか?」


「俺が生まれてすぐにうちに来たらしいよ。」



「なんと!!

艶子さんは年上だったんですね!」



しかし...



先輩にも赤ちゃんの頃があったんですね。



「ねえ、美矢ちゃん。

今失礼なこと考えてたでしょう?」




おっふ...


あ!!アレは!!


「いけない!! 呼ばれました!!」



「ちょっと、美矢ちゃん!」




----------------


「なんですか。呼んでないですよ。」


「教え子の危機だったんですよ。」




「.....................。」


「無言の視線が刺さります...。」




「You never learns.」


「.....。」


「......。」



「お、...おーいぇー...。」



「本気ですか?

中学生でもわかりますよ。」


「兄とは頭の出来が違うんです...。」


「お可哀そうに...。」


「リアルに言われると凹みます。」



「まあ、

お馬鹿さんでも、別にいいんじゃないんですか?」



「...先生!!!!」




「でも中学生レベルの英語は覚えていても損はないですよ。」


「アイ ライク ティーチャー!!」





「....前言撤回します。」


「なっ!!」


「馬鹿は早急に直しなさい。」



酷い!!!!


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