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Blue Cactus  作者: 秋之
2/6

私と先輩と水泳




私の名前は羽多野(はたの) 美矢(みや)


みんなからよく"美矢"って呼んでもらえるので、呼びやすい名前を付けてくれた両親にはとても感謝している。


現在は大学1年生。

講義とレポート、水泳の練習に明け暮れる日々だが、今日は高校時代に一緒の水泳部だった同期の仲間、そして目の前にいる1つ上の先輩と一緒に遊ぶ予定で、家から電車で30分程離れている街まで出てきた。



先輩の名は伊佐敷(いさしき)(とおる)

先輩との関係は、なんと説明すれば良いのか分からないが..、とにかく、関係は恋人になる。


お互い別の中学、高校に通っていたが、私が高校一年の時に水泳大会で出会ったのをキッカケに知り合った。


先輩は私と同じくクロールが得意なのだが、


まあ...、同じ得意で(くく)るには恐れ多い程ヤバイ人だった。


簡単に言うと、個人、団体と県大会常連選手、全国大会にもほぼ常連と言って過言ではない程の経歴があるお方で、私自身は1度だけ奇跡的に個人の部で全国大会に出場しただけ。同じ得意でも雲台の差だ。





なんでそんな人が平凡な私の恋人なのか、ずっと考えているが未だ理由は不明。高校では大会がある度交流を重ね、その後無事に大学に入学した先輩からは何かと連絡が来ており、マメな先輩くらいにしか思っていなかったが..。



そこに終止符を打ったのは、私の高校卒業の日に先輩から言われた言葉だった。






―――――――――――――




卒業式も無事終わり、


部活の仲間と、顧問と写真をとりつつ、別れを惜しんでいると、違うクラスの子から呼び出された。



なんでも、校門のところに私を探している人がいるらしい。



誰だろう。


両親はさっき担任と顧問に挨拶すると、お邪魔しないように先に帰るね、と言っていたし、うーん。お兄ちゃんかなぁ。

あの優男の皮を被ったドS野郎なら、嫌がらせも兼ねて妹の泣き腫らした目を見にくるような事....しなくもないか。



でも、今日も大学でみっちり練習スケジュール組んでいるはずだし、来るような余裕も無い筈。


誰だろう。



顧問から渡された花束を抱え直し、下駄箱から靴を出す。


このローファーとも最後か。


まだ肌寒い3月の冷たい風が、制服のスカートを揺らし、肌に突き刺さる。


明日からコレはコスプレになるなぁ。少し面白い気持ちになりつつ、慣れたように制服のリボンとスカートを直すと、とにかく、人をかき分け、校門へと急ぐ。



校門にはごった返す人の群れ。


写真でも取っているのかな。


先程同様に群衆をかき分けようとすると、所々で「美矢来た!」「みゃーちゃんきたよ!」という声が聞こえた。


一斉にこちらを向く、本日一緒に卒業式を迎えた友人達の顔ぶれに、驚きつつも手を挙げて、やぁ。と挨拶した瞬間、ザッと目の前に道ができた。



うお!!!



モーゼだ!!え、今私モーゼみたいじゃない?!


海が割れるかのごとく群衆が割れて道ができた。



なにこれ、ひびった。




道の先には困った顔の先輩。



「あれ?!先輩じゃないですか!

お疲れ様です。誰か待ってるんですか?」


先輩の側に駆け寄って、奇遇なこともあるもんだと、うんうん頷くと、先輩が笑った。



「美矢ちゃん待ってたんだよ。」



「私も人を探してて...、って、え?

じゃあ、先輩だったんですか?」



こりゃー、びっくりした。

今日卒業式って言ってなかったのに、知ってたのか。



「美矢ちゃん、ごめんね、急に来ちゃって、

ちゃんと会って言いたくてさ。

美矢ちゃん、卒業おめでとう。

はい、コレあげる。」


そう言って微笑んだ先輩の腕には、白のカラーやユリ、薄桃のバラ、かすみ草で組まれた花束。

その場に周りの女子共の黄色い悲鳴がこだました。


うるっさ!!!


満面笑顔の先輩から花束をもらい、とにかく、花束で顔を隠そうとする。


こんな真っ赤な顔を見られないように。


照れている顔って、恥ずかしいじゃん。やっぱりさ。


忙しいのにわざわざ卒業式に来てくれて、花束用意してお祝いしてくれるなんて、凄く、恥ずかしい..し、凄く照れるし...、でも、凄く嬉しいから赤い顔をせめて見られないように花束で隠そうとする。



先輩は嬉しそうに微笑んで、女子共の悲鳴なんて何でもない風に言った。



「美矢ちゃん、ずっと、今日を待ってたんだ。

美矢ちゃん、好きだよ。」



黄色い悲鳴が一斉に止んだ。





「好き?卒業式がですか?

先輩変わってますね、それなら先輩もお呼びすれば良かったです。」


ツボに入ったのか、肩を震わしケタケタと可笑しそうに笑った先輩は、涙を拭って付け足した。



「ちがうよ。美矢ちゃんのことが好きなんだよ。

だから、俺と付き合って下さい。」



「..は?私ですか?


なに後輩からかってるんですか、あはは。」



ただ静かに、にこりと微笑んでいる先輩。




「...え、まじですか?」


「うん。大まじ。」



周りから一斉に広がる悲鳴。

煩いなんて考えられない程混乱しきった脳内。



「好き?私も先輩の事好きですけど、えっと、...え?


あれ?好きってなんだっけ..


いや、好きですけど、え、好きって、先輩..、え?」




という具合で「好き」と言う単語を何回も繰り返すくらいには驚いたし、途中から訳が分からなくなって頭痛くなってきたしで、脳内てんてこ舞いだった。


そんな時、混乱しきった脳内に先輩の言葉が優しく響いた。


「これから男として見てもらえれないかな。

俺これから大学で強化合宿とか遠征でもっと忙しくなるんだよね。


水泳も大切だけど、美矢ちゃんは俺にいつも元気くれて..。だからさ、俺がトレーニングしている間に美矢ちゃんが誰かの恋人になったって聞いたら正直辛い。


出来たら恋人という関係で、少しずつ俺の事みてほしい。..自分勝手でごめん。」


困ったように、苦しそうに眉を下げる先輩は初めて見た。



「..私、先輩と同じ好きじゃ無い..と思いますが..、

そんなの、先輩に失礼ですよ..」




「いいんだ。今まで通りで美矢ちゃんは何もしなくていい。ただ、恋人という関係で、俺の事男として見て、ゆっくり考えてみてほしい。

いつか、気持ちの整理がついたときに、振ってくれても構わない。


あ、でも、もちろん、振られるのは嫌だし、俺も一生懸命好きになってもらえるよう頑張る。


だから、今ここで振られるのは想定してないんだけど...お試しだとおもって、俺の恋人になってくれませんか?」と苦笑していた。





凄く悩んだ。今自信を持って、同じ気持ちを返せれない事が申し訳なくて。改めて、先輩の姿を見る。




いつもは先輩の(てのひら)でおもちゃの様にコロコロ転がされる私。それ程余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)、自信たっぷりな先輩なのに、今日はとても不安そうな姿で..それは、まるで迷子の子どもの様。



自信なく微笑む姿が、赤らめた頰が、先程まで練習だったのかまだ濡れている髪の毛が、今日はとても愛おしくて、一度、コクリと頷いたら先輩に羽交締め...抱きしめられた。



黄色い声と、悲鳴と、おめでとうっていう声が全身に響く。正直、何が起こっていたのか、まだ把握しきれていないが、そんな私の鼻腔をくすぐる懐かしい、慣れた匂い。


どこかふわりと香るの塩素の匂いが、ヒヤリと冷たい指先が、先輩の肩越しに見上げた空が、その色が溶けて自分とひとつに混ざり合う様な、それが苦しいのに心地よくて、まるでプールの中みたいだと思った。












――――――――――――







「美矢ちゃん、付き合ってくれてありがとう。」


「いえ、そんな、改まって言わなくても..大丈夫です..」


「照れてる美矢ちゃん、可愛いね。」


「..言わないでください...。」



「大事にするよ。」


「...先輩。」



「美矢ちゃん赤くなってるの?

可愛いね。」




「..せんぱい...。」



「美矢ちゃん、好きだよ。」



「..分かってて虐めるのもうやめてええええええ!!!」



「ふふっ。美矢ちゃんは面白いね。」

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